第32話

 ◇◇◇


「はーんざいしゃはしっね! はーんざいしゃはしっね!」


 最後のプレイヤーの遺体が転がるそばで少年は楽しそうに歌っていた。


「ご機嫌ですね、おぼっちゃま」

「ぼっちゃま呼びはやめてよー。僕を子供扱いしないでー」


 いつの間にか部屋に入ってきていたらしい初老の男性は少年に声をかけると、少年は頬を膨らませて不服そうな声を漏らす。


「ですが実際にぼっちゃまは子供です」

「それはー……そうだけどぉ」


 男性に論破されてしまい、少年は黙り込んだ。少し拗ねたような顔をして床に飛び散った血を踏まないように気をつけながら椅子に腰掛け直す。


「床が汚れましたね。掃除致しましょう」

「うん、お願い。あ、あとパパに伝えて! 化け物ゴミ犯罪者ゴミも両方片付けたって!」

「かしこまりました」


 男性は綺麗な角度でおじきをするとすぐに部屋を出ていった。掃除道具を取りに行ったのと、他の使用人たちに先程の伝言を伝えるように言いに行ったのだろう。


 少年は椅子をくるくると回転させながら床に転がって動かない死体を見ていた。

 この死体はデスゲームの最後のプレイヤーだ。興味がないので名前すら覚えていないが、最後の一人になっても気が狂うことなく研究施設の最奥ここまで辿り着いたなかなか見どころのある青年だった。


「でも犯罪者だからなぁ」


 回転する椅子を一度止めると、少年はそう吐き捨てた。


 犯罪者は生きているだけで罪だ。人を殺したくせに、のうのうと社会を生きている。

 テレビやインタビューで時折取材を受けて反省しています、やらどうしてあんなことをしてしまったのか、被害者や遺族に顔向けできないだととほざいているが、あれらの言葉はすべて嘘だ。


 だって人を殺すような人間が、嘘をつかないはずがない。

 犯罪者は嘘でできている。人の体の六十パーセントは水分でできているが、犯罪者は百パーセントが嘘でできているのだ。


 嘘嘘嘘、嘘つきばかり。

 少年ははなからこのデスゲームでプレイヤーを生きて帰らせるつもりはなかった。だからプレイヤーたちに状況を説明したときも生きて帰すとは断言しなかった。

 もしプレイヤーが本当に化け物を殲滅しても、その後プレイヤーたちは少年が用意した武装集団に始末させるつもりだった。


 だって、犯罪者はゴミだから。

 ペットボトルなどと違ってリサイクルすることすらできない、本当になんの役にも立たないゴミくず。

 それに比べて――。


「僕はなんていい子なんだろう!」


 少年はパンッと手を叩いて立ち上がった。その目は爛々と輝いている。

 研究の過程で出た化け物ゴミはすぐに処理ができる数にまで減った。犯罪者という人間社会のゴミも綺麗に片付けられた。

 当初の目標は達成できたのだ。


「どうしよう、頭撫でられちゃうかも〜」


 少年は嬉しそうにきゃっきゃっと興奮気味に首をぶんぶんと振った。

 少年は本来青山製薬の社員ではない。しかしここまで会社の後始末に貢献したのだ。きっと父親が褒めちぎってくれるに違いない。

 その姿を想像して少年は口角を緩ませた。


「ママもきっと喜んでくれているよね!」


 少年の母親は数年前の事故で亡くなった。だが、天国で息子の頑張りを見て優しい笑みを浮かべているに違いないと、少年はそう思って笑顔を浮かべた。


「ゴミのお片付けお疲れ様、僕!」


 少年は清々しいほどの笑顔を浮かべて椅子にどかっと腰掛けた。

 戻ってきた男性が青年の遺体を片付ける。白い床に広がった血溜まりも瞬く間に綺麗になっていった。

 その様子を少年は嬉しそうに見ていた。


 盲信的なまでに犯罪者に恨みを募らせた少年は犯罪者がいなくなった部屋で傍に置いてあったクッキーを一つ摘んで口の中に放り込んだ。

 サクッとした食感に柔らかな甘さが口内を広がる。紅茶の匂いが鼻を突き抜けてこれは紅茶クッキーなのだと理解した。


「ママ、僕頑張ったよ」


 紅茶クッキーは母親の好物だったなと思い出しながら少年は亡くなった母親に想いを馳せる。


「このクッキーと、犯罪者の死をママに捧げます!」


 少年はクッキーの乗った皿を天高く持ち上げると高らかにそう宣言した。

 犯罪者は――殺人鬼は少年の母親を殺したゴミなのだ。

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こどくなみんな 西條 迷 @saijou

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