第31話
モニター越しに見たときよりも、目の前にいるゲームマスターの印象は幼かった。もしかしたら声変わりすらしていない年頃のかもしれない。
「お兄さんたちのチームはすごく粘ってたね。僕を騙したあの警察官……名前は覚えてないけど。そいつらと一緒にずっと戦ってたみたいだね」
「俺は……よくわからなかった。正直な話をすると今も自身の行動理由がわからない。他人なんて切り捨てて、自分だけが助かる道を選ぶことができたはず。なのに俺はその道を選ばなかった。今までの自分とは真逆の選択を何度も取った」
成大は自分から他人に攻撃を仕掛けるようなことはしない。しかし他人に攻撃されたら徹底的に相手を潰す。今までそうしてきたし、そうするしか生きる術を知らなかった。
そんな成大が自らの身を危険に晒してまで人助けをするなんて、過去の成大に伝えたらどんな反応をするだろうか。そんな馬鹿なと鼻で笑われること間違いなしだろう。
「そう。だから?」
ゲームマスターが興味なさそうに首を傾げた。ぐらりと被り物が揺れて不気味な目が成大を見つめる。
「こんな馬鹿げたことは終わりにしよう」
「……そうだね。やめにしよっか。僕もこの被り物、重くて首が痛くなってきちゃったよ」
成大の言葉に少し考え込んだ素振りを見せたゲームマスターだったが、そう言うと熊の被り物に手をかけると、その大きな被り物を外した。
「ぷはっ! やっぱ息苦し〜」
被り物がなくなってしっかりと見えるようになったゲームマスターの顔立ちはやはり幼い。中学生、いやもしかしたらまだ小学生なのかもしれない。
ごとんと被り物をテーブルの上に置いた少年はググッと腕を伸ばした。凝った肩を回して数回瞬きすると、まっすぐに成大を見つめる。
そのあどけない顔立ちからは、彼が今回の残酷なデスゲームを開催したとは思えなかった。他人の命を弄ぶ悪者のような醜悪さを感じなかった。平凡な、どこにでもいるようなかわいらしい見た目の男の子だった。
「どうして、こんなゲームを始めたの?」
「社会に貢献するためだよ。ゴミ掃除ってそういうものでしょ?」
率直に疑問に思ったことを成大は尋ねる。少年はいやな顔を見せることなく成大の問いに答えた。しかし言っている意味がわからない。このゲームのどこがゴミ掃除になるのだろうか。成大は首を傾げた。
「実はね、ここでは遺伝子を操作してどうちゃらこうちゃらっていう少し難しい研究をしてたんだけど……研究の過程で失敗作、いわゆる化け物ができあがっちゃったんだ。まだ数体だけだったときは良かったんだけど……数が増えすぎて僕たちの手には負えなくなっちゃってさ。片付けようにも下手に近づけばうちの研究員たちが殺されちゃう。だから人を殺したことのある経験者を集めて、まとめて片付けてもらおうって思ったんだよね」
「ゴミ……化け物がゴミってことだったのか」
「いんや? それだけではないけど……」
少年は
「それだけではない……?」
「そ。このデスゲームを開催した理由に繋がるんだけどね、僕が言ってるゴミってのは化け物のことだけじゃないんだよ」
「どういう」
成大が聞き返そうとしたとき、パンッと乾いた音がなった。何度も聞き慣れた、発砲音だった。
「……え?」
発砲音から数秒遅れて成大の腹部に痛みが走る。
思わず手で押さえると腹から血が溢れていた。
どういうことか理解できずに成大は顔をあげて少年を見た。少年の手には拳銃が握られていた。
「なんで……」
話している最中の、唐突な発砲。現状を冷静に理解しろという方が困難だった。
「うんうん、本当にきみはよく頑張ったね。正体もわからない化け物たちに怖気付かずに立ち向かうその姿、きみが犯罪者じゃなかったらヒーローそのものだったよ」
痛みで意識が朦朧とする。成大は力が抜けて床に膝をついた。
「化け物の殲滅は叶わなかったけど……でも本当によくやった方だと思う。だからこれは僕からのプレゼントだよ。少しでも苦痛が少ないように殺してあげるね」
そう言って少年は一歩、成大の方に歩み寄る。
「じゃあね、お兄さん」
視界が白く霞んで、成大には目の前にいる少年の姿が幻のように朧げに見える。すっと笑顔を浮かべた少年は銃口を成大に向けて、
「死ね」
まるで被り物のように瞳のハイライトを消すと迷いなく引き金を引いた。
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