第54話 『地球の正義』 その6


 ざーっと、映像が現れてきた。


 それは、最初は、ただのもやもやだった。


 なにも、形作られなかった。


 やがて、背後に物体が現れてきたのだ。


 それは、建物の一部のような物になっていった。


 まるで、オペラの舞台みたいだと、思った。


 実際に、『アイーダ』とか、『サムソンどデリラ』の舞台みたいだった。


 でかい石柱。高い天井。艶やかな装飾。


 それだけだ。


 誰もいない。


 だが、そこに、また新しい姿が現れてきた。


 玉座のように大きな椅子がふたつ。


 しかし、ひとつは、空だった。


 もうひとつに、女性らしき姿が現れた。


 様々な、装飾品を身に付けていて、まあ、いわゆる、ギリシャ神話風な出で立ちである。


 その回りに、何人かの人物が現れたのだ。


 地球に現れたナンバー8とは違い、みな、キチンとした人物の姿をしていた。


 やがて、ひとりの、ギリシャの高い神々のひとり、という風情の男性が言った。


 『先ほどは、失礼しました。ナンバー8です。申し上げておくが、これは、架空の姿であると、ご承知ください。まず、王妃さまから、ご挨拶を申し上げます。』


 非常に妖艶な姿の王妃が立ち上がった。


 つまり、ギュスタブ・モローの『サロメ』や、『雅歌』みたいな風情である。


 しかし、ナンバー8が言うように、架空の姿であるわけだ。


 幻である。


 けれども、ちょっと幻であるとは、思いにくいのも確かだ。


 地球の幹部たちは、飲まれていないだろうか?  


 ぼくは、周囲を見回した。


 さすがに、よく判らない。


 ポーカーフェイスのプロばかりだからな。


 『みなさん。王妃の、ナンバー0です。よろしくね。』


 ナンバー0?


 そいつは、聴いたことがない。


 そもそも、王妃という存在は、これまで、現れたことなどないのではないか?


 『われわれ』は、多次元生物である。


 もともと、個人の特定は、三次元側からするのは、困難である。


 ぼくたち、その子孫からしても、正体は必ずしも良くわかってはいない。


 三次元に落とされた存在からは、つまり、その正体を正しく推測はできない。


 しかし、王妃という存在は、たしかに、出てきたことがない。


 あ、プリンさんがいた。


 プリンさんは、ここにいた姿のままである。


 それは、先に、食べられる側の本拠に行ったときと同様である。



        🍒


 『地球の友人のみなさま。われわれは、あなた方が放った、あの、『麺』により、思わぬ危機に瀕しています。ぜひ、話し合いたい。』


 王妃は言った。


 はたして、そいつは、率直な見解だろうか?


 いや、『われわれ』の食べる側は、率直ではない。


 さんざん、『食べられる側』を、騙し、いたぶり、ないがしろにしてきた。


 いや、食糧にしてきたのである。


 信じろというほうが無理だ。


 しかし、地球人からしたら、どうなのだろうか!


 地球人類が、『われわれの食べる側』よりも、高等で、倫理的であるという理由は、まるでない。文明的には、むしろ劣っている。


 いまだに、地球内部での争いも無くなってはいない。


 大国の代理闘争を、相変わらず、いまもやっているのだ。


 つまり、『われわれ』と、何ら変わるものではない。


 

        🍜 

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