第50話 『地球の正義』 その2


 『はんちきう? なんだ、そりゃ?』


 あらまあ、ボスは知らなかったのか?


 いや。


 これは、ボス特有の、ギャグであろう。


 『反地球』は、太陽を挟んだ反対側の、同じ軌道上に、同じ公転周期の、地球そっくりな惑星が存在すると言うもの。ギリシャ文明時代から考えられていたらしい。


 ラグランジュ点のひとつにあると、仮定される。地球そっくりだから、地球そっくりの生物がいて、文明がある、という。


 お話の世界では昔から人気があるが、もし、そうした星があったら、軌道は多少楕円になり、皆既日食とかの観測では必ず見つかるはずであり、また、衛星による探査もなされたが、いまだかつて観測されたことはなく、だからして、そうした星は、存在しないとされている。


 『見えなかったものが、突然に、見えるようになった。まさかね。』


 と、じょうめがぼそっと言う。


 じょうめは、情報を引き出そうとしている。


 『そりゃ、つまり、SF映画の、ほれ、ゴリンガム宇宙船、みたいなものかいな?』


 また、ボスがとぼけたことを言った。


 全員が、ずっこけた。


 ゴリンガム宇宙船は、完璧な遮蔽技術を持つとされる、名高い空想宇宙オペラ小説や映画に出てくるものだ。


 しかし、宇宙船ならともかくも、惑星ひとつ隠してしまうのは容易ではなかろう。


 『それは、つまり、ダークマターで偽装していたとかかな。』


 リーダーがなにくわぬ顔で言った。


 この人も、かなりの、ぼけをかます方である。


 『あんた、ダークマターで偽装したら、中身が見えちゃうだろ。だいたい、地球だってそうだろ。まわりは、ダークマターだらけだ。』


 と、ボスが応酬した。


 『ははは。そりゃ、そうだ。はははははは。』


 この人たちは、何を言っているのか。


 首相も、あきれ顔であるが、ボスも、リーダーも、政治家ではない。


 むしろ、政治家は嫌いであった。


 『その、現れたというこれは、つまり、何だか確認されたか? ホログラムとか。われわれの作り出した幻覚とか。』


 首相は、側近に尋ねたが、首相さんも、あまりは、変わらないらしい。


 『いやあ。見たとおりの、地球に良く似た星です。幻覚ではないそうです。観測衛星をさらに近くに動かすと連盟宇宙機関が言っておりますが、にさんにち、かかるかと。』


 『見たとおりなら、まさに、地球そっくりですね。しかし、同じではない。大陸の位置が、かなり違う。』


 じょうめが、さらに追加した。


 

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