明日世界が終わってしまうなら君は。

かむとぅるーまん

初夜


『明日世界が終わってしまうなら何をする?』


きっと誰もが聞いたことのあるフレーズ。この質問の意図は、明日世界が終わる状況だとしてもしたい何か、つまりその人物にとっての1番好きなことを聞きたいのだ。

何故急にそんなことを考えているのか、って。

それはただの高校生、本巣春樹が教室でとある女子にこう聞かれたからだ。


『ねえ本巣春樹くん。君は世界が明日終わってしまうとするなら何をする?』

面識のない茶髪JKが話しかけてきた。

『急にどうした。ていうか何でフルネーム?』

『そ、そんなことはどうでもいいの!で、何をするの?』

口を尖らせる名前すら知らない彼女を前に本巣は迷った。

趣味もないわけてはないのだが、ここで隠れた趣味、ある著名人の公式サイトを世界最速で開くこと、なんて言ったら、彼が自身の高校生活にアクセスできなくなるだろう。


では。

世界が終わってしまうとするなら。

『明日世界が終わってくれるなら、後のこと考えずにしたいこと使いたいものなんでもできる。だから特定のことはしないな。』

『何それ、世界が終わってくれる、なんて。それでもいいのぉ?』

『うん、まあ』

彼は決して尖っているわけではない。

本当に思ったから言っただけだ。

それなのに。どうして少し悲しそうな顔をするのだろうかこの女子は。

そこで茶髪は自分の席に帰っていった。


(あの質問はなんだったんだろう)

今日あったそんな出来事を考えながら本巣は六本木のスクランブルスクエアの信号を待つ。

信号の待つ時間を億劫に感じていると、携帯が振動した。友達はいないので天気予報かと思いながら携帯に目を通す。

後で見たことを後悔した。

『今日も遅くなります。いつも通り冷蔵庫に入れてあるのであたためて食べてください。』

「家族にまで他人行儀なのかよ」

本巣は家族との思い出が極端にない。それこそアルバムを開くと入学式と卒業式後にとった2枚が如実に彼の孤独を表す。

うざい。別に、親が死ぬほど憎いわけではないのだが。

彼はそのなんとも言えない怒りが爆発しそうだった。



しかし。それはとある声で遮られた。

「はあ、やっとだ。わたしは君のような人間を探していたんだよ。ああいや、それだと語弊があるか。きみのような、ではなくきみを探していたんだよ本巣春樹くん。」

こんな人混みの中で何故この声だけがこんなにも伝わってくるのか。

彼は周りを見てそれもそのはずだとすぐわかった。



この場にいる人はずっと動かない。

いや。

本巣は気づく。止まっているのは人間だけではない。月明かりに照らされる黒い雲、ただ一定のリズムを刻むネオンの光さえ今はその動きを止めている。

「な、何が、、?」

そんな間抜けた声で、驚きを隠せない本巣をどこからか語りかける声。

「今この人たちは、いや世界は止まってるんだ。厳密にいうと今の時間軸は実際の時間の0.0001の10乗をした速度に設定してあるから止まって見えるだけさ。さあ本題に移ろうか。」

彼女は一体どれだけ時間を遅らせたのだろう。

ただ、この状況下ではその声に耳を傾けるしかなかった。


そして次の瞬間。



その声の主は眼前に颯爽と現れた。


普通音さえも時間の影響を受けると思ったがこの人物にはそれがないらしい。

それより。

背丈は小さい。だが1番見張るのはやはり、金髪で青い眼をしていることだろう。まるで西洋の奇妙可愛い人形だ。そんな既視感があった。

「きみに問おう。きみは明日世界が終わってしまうなら何をする?」

はあ、と俺はため息をついた。

「今日そんな質問を違う女に聞かれたよ。」

「え?!きみにそんな会話をする相手がいたとは。それに女だって?!」

失礼だ、と思った。別にそんな会話をしたいわけじゃない。ただ聞かれたから答えた、と言いたかった。しかしそれこそ面倒だからさっさと質問に答えることを決めた。

「世界が終わってくれるなら、後のことなんて考えずにすむから色んなことがしたい。だから一つには絞れない。」

「ふむ、きみらしいというべきかな」

彼女は、ぶつぶつと1人で呟いている。

なにを言っているのか尋ねようとしたら、

「まあいいか、とりあえずこれからはきみがどうしたいかによって世界は変わる!じゃあ、頑張りたまえ!はい、握手。」

そう、奇妙可愛い少女は左手を突き出す。

「お、おう、、、?早く離せよ。」

「なんだ?照れるのか本巣くん?」

ちげーよ、と本巣は言う。

単純に彼にはまだ彼女に聞きたいことがあった、そして何を聞こうかと頭の中で、整理しているとあることに気づいた。


彼女が、、、いない。



そしてもう一つ気づいたことがある。

世界が元の時間軸で回り始めたのだ。歩いている人に変化はないため、彼女の言っていた、時間軸の話は事実なのだろう。

そして、、、

六本木のビルに映し出されるニュースが速報を告げた。



『巨大隕石が地球に迫っています。後1週間で確実に地球に激突するとNASA国際宇宙ステーションが報じました。』


「は」

彼の口から思わず声が漏れた。彼女の質問が現実になったのだ。

そして、人混みの人間たちは揃いも揃って疑念や畏怖の声を上げる。

やはり自分の事となるとこの六本木を歩く人間どもも無視できないと言う事だろう、と本巣は思う。

しかし、何故彼がここまで冷静さを保てているのか。その根源たる理由はこの時彼が放った言葉から容易に想像しやすい。

ただの高校生は無情なまでにこう言い放つ。






「やった」

と。

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明日世界が終わってしまうなら君は。 かむとぅるーまん @kanatothisisapen0716

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