第45話 最終話
大和は臓器移植手術を受ける為に分院の有る熊本に引っ越していた。当然子守り役の幸子も熊本の邸宅に移り住んでいる。
だが、あんなに優しかった幸子母さんだったが、ある日を境に急に大和に厳しくなった。
ある時は、成績が落ちたという理由で、あの熊本分院の北病棟の殺人鬼の個室に閉じ込められた。
その男Aの最初の印象は、日本中を震撼させ恐怖のどん底に突き落とした凶悪殺人鬼の表情そのままに、不気味な微笑みを浮かべ、一瞬狂気を感じる鋭い目付きとその奥底に浮かぶどす黒い闇だった。
だが、その男Aは、大和にも同じ感情を抱いていた。それはある驚愕の話だった。
「おじさん、僕ね!臓器移植の現場を見た事あるんだ!薬で眠らされているから、本人に意識はないのだが、男性は両手両足の腱を切るんだ。フッフッフッ!それはね!逃げ出さない為なんだ。そして生きたままの人間の臓器を切り取って行われるのだが、手術台の上に人間の体が蝶の羽のように切り開かれていたんだ!フッフッフッ!いずれは死ぬのだから…でも人の役に立って死ぬのだからフッフッフッ!その人は立派に貢献出来たんだ!フッフッフッ!」
「僕、面白い話だね!また今度おいで!」
また、ある時はこんな話を聞かせられたA。
「僕ね、隠れて病院の裏に有る使われていない小屋で、ウサギの首を切断したり、猫を生きたまま焼き殺したりした事あるんだ。鶏を生きたまま丸焼きにしたことも有ったんだ。フッフッフッ!」
この2人は凶悪殺人鬼ドナーの臓器移植のせいで、自分の内に秘めた狂気を抑える手立てがない。だが、共感出来る事が多い2人はすっかり仲良しになった。だが、大和の狂気の話が尽きた時に事件は起きた。Aは殺人鬼の本来の欲望が抑え切れず大和を、後ろから刺した。
「ギャッギャ――――――――ッ!」
現場に駆け付けた看護師は慌てて院長に連絡した。
(これは大変院長に連絡をしないと!)
「院長大変です。坊っちゃんが!坊っちゃんが!」
急いで北病棟に向かった院長は慌てて処置を行った。そして…この病棟に閉じ込めた犯人幸子の事を知った院長の怒りは常軌を逸していた。
「お前のような女は、さっさと出て行け!もう二度と顔も見たくない!」
「だって?大和が言う事聞かないからゥゥ。゚(゚´Д`゚)゚。ワ~~~ン😭ワ~~~ン😭」
大和と克也の年の差は17歳で、この事件が起こった時期は菜々枝がお腹にいた。だから、卓も仕方なく幸子を許した。
それでもそんな大きな息子をよく閉じ込める事が出来たものだが?
実は…大和は16歳から身長が伸び始めた。だから、幸子も大和を北病棟の殺人鬼のいる個室に、閉じ込める事が容易かった。このような事もあり院長と幸子の関係は冷え切っていた。
🔶🔷🔶
やがて月日は流れ、大和も医者となって父の右腕として活躍して、田代病院では特に臓器移植手術の分野では、右に出る者がいない活躍ぶりを見せていた。
院長卓は知らないだろうが、以前は大和には狂気の部分が頭をもたげる事も有ったが、この臓器移植手術のお陰ですっかり鳴りを潜めている。それだけ大和にとってそそられる手術という事になる。
🔷🔶🔷
大和の休日、仲良し兄妹3人は大和主導で遊んでいる。といっても大和が2人の子守り役と言った方が正解だ。
病院の裏に有る使われていない小屋で隠れんほをして遊んでいた3人だったが、大和に仕事の連絡が入った。
「ちょっとだけ、待っててね?」
そう言って仕事場に戻った大和だったが、いつまで立っても帰って来ない。
待ちくたびれた2人は、家に帰ろうとしてとんでもない場所に出てしまった。
いつまで待っても帰っ来ない子供の事を心配した幸子が、大和に連絡した。
「子供たちが帰って来ないのよ。あなた知らない?」
「嗚呼…病院の裏に有る小屋で遊んでいたのですが、仕事が入りうっかり忘れました?ごめんなさい!」
慌てて探し出した幸子だったが、許せなかった幸子は益々大和に嫌悪感で一杯になった。そして…子供たちに「大和お兄ちゃんと遊んじゃ絶対ダメ!」
子供たちは大和を避けている。
「どうしたんだい。嗚呼…この前はゴメン!」
「………」
「………」
「2人共無視かい?」
そこで大和は幸子母さんにまたしても謝った。
「あの時は仕事が入り本当に本当にごめんなさい!」
「………」
またしても無視。
「お母さん」
そう言って肩を叩いて話しを聞いて貰おうとした大和だったが、日頃からの大和に対するうっぷんが抑えられずに思いっきり手を跳ねのけた。
なんと運の悪い事に、階段のふちだった事もあり大和は階段から転げ落ち思いっきり頭を打ち付け、亡くなってしまった。
幸子は過失致死罪の罪に問われたが、最終的には不起訴となった。だが、院長卓の怒りは相当なもので、院長卓の逆鱗に触れ幸子は完全に離婚されてしまった。
だが、昴は父実から祖母リンランそれに大和おじさんの話を耳が痛くなる程聞かされていた。そして…栄治にしても父大から大和おじさんの死の真相を、耳が痛くなる程聞かされていた。
こうして復讐は始まった。クラブ蘭ホステスアヤは幸子の姪で、ネイルサロン経営の華子は長谷川の腹違いの妹で、長谷川とは一切付き合いがない。そして…華子の母と幸子は親戚だった。長谷川には憎しみはないが、華子の母と幸子が親戚という事もありとっても可愛がっていた。そして岩村で会ったファミレス店員真奈美は幸子の姉の娘だった。
あの後、田代総合病院の近くに有る山奥の昴の家の別荘に、アヤと真奈美は時間差で連れて行かれ、「結婚するのだから一週間この別荘でゆっくりしよう」
散々アバンチュールを楽しんだ挙げ句、その後連絡を完全に立ち切った。そして…金も絞れるだけふんだくって捨ててやった。
その位の傷を付けても、許されるだろう。
だから臓器ドナーにはされていない。昴と栄治は幸子のあまりの傍若無人ぶりに復讐心で一杯で、痛い目に合わせて弄んでやっただけだった。
昴にすれば、祖母リンランも叔父大和もかけがえのない存在。そんな2人が人生半ばにして不慮の事故と言えど、共に幸子が関わっていた。
リンランが不慮の事故に遭ったのだって、幸子が中野に田代院長との関係をバラしたのが原因で、あんな事故に遭ってしまった。
復讐を終えた昴は、華子と離婚して神宮ホ―ルディングスのお嬢様絵梨花ともう直ぐ結婚する。華子は気も狂わんばかりに泣き狂ったが、良い気味だ。
「フン」
アッ!長谷川院長が、臓器ドナーを探していたのは事実だが、危ない事に手を染めずに済んでいた。それはひとえに大和と栄治の活躍の賜物だった。2人の頑張りで借金返済にもメドが付いた。
「よくも祖母リンランと叔父大和を苦しめやがったナ!だが、復讐出来てスッキリした。ワッハッハッハッ フッフッフッ!」
終わり
追伸
アッ!ヤン改め昴の結婚詐欺事件を最後に、もっと深く掘り下げて見よう。
車は一路奥深い山奥を目指していた。それは、昴がアヤや真奈美と時間差でたっぷり別荘で結婚を餌に弄んで、突然別荘から姿を消すもっとも卑劣な形で終焉を迎えた。それは、過去の諸々の因縁が、姿を変え溜まりに溜まった恨み怨念となって日本人女性をタ―ゲットに、こんな形で露呈したのかも知れない。
その数日後昴と栄治が、目出し帽をかぶって別荘にやって来て2人して女を車に詰め込み、解放するのは栄治1人が運転して行ったのだが、その車内で過去の悲劇の恨み辛みを話し、奥深い山奥の田代精神病院で解放した。
こうして復讐の幕は閉じられた。
フッフッフッ!
氷の愛 tamaちゃん @maymy2622
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