第44話 大和に危機が!



 実は、幸子は妻と言っても内縁の妻だった。余り女としての幸子に興味はなかった院長だったが、まだあの当時臓器移植が認可されていない時代だった為、臓器の流れや違法な臓器の取り引き等を知っていて、尚且つ優秀な幸子は、絶対手放せない存在だった。


 さして人柄が良い訳でもない、さして美人な訳でもない。金に物言わせて美しい女は山ほど見てきているそんな院長に、幸子など眼中に有る筈がない。だが、いつも仕事で一緒なので忙しさにかまけて、ついつい手頃な所で済ませてしまっていた院長。ましてや秘密を握られているのもあり、いつの間にか、腐れ縁となっていた。


 こうして男と女の関係になってしまった院長だったが、全くタイプではない幸子との関係は、只の欲望の捌け口に過ぎなかった。


 魅力の無い幸子に言い寄る男は少なく、30歳で初めて女になった最初の男が院長だったが、只々欲望の捌け口にされてしまい、院長との結婚など夢のまた夢。


 そんな事に耐えられなくなった幸子は、秘密をネタに脅迫まがいなマネをして、やっとの事…仕方なく内縁の妻にして貰う事が出来た。

 

 それと妻が不慮の事故で亡くなって障害の有る大和の子守り役として、どうしても必要だったので仕方なく内縁の妻にしたのだった。


 幾ら内縁の妻だからと言っても、本宅に移り住んでいるので、いずれは結婚する旨は、従業員には話して有る。だから、病院の従業員達は幸子に楯突く事など毛頭出来ないし、本妻と同等に思い幸子を崇め立て祭っている。


 だが、幸子にすれば、幾ら崇め立て祭られていたとしても、女癖の悪い院長の事、その立場がいつ若い看護師に逆転するやも知れない。不安で不安で生きた心地がしない。


「卓いつ籍入れてくれるの~?こんな臓器に障害の有る大和の面倒も知識の有る私だからこそ、ここまで寛解させる事が出来たのよ。分かっているの?」


「分かった分かった…その内ちゃんと籍入れてやる。今病院が忙しい。その内に…」


 幸子にすれば、入籍している訳でもない、魅力の欠片も無い年の食った自分が、卓を繋ぎ止めるだけの何が残って居ようか?そこで考えたのが、あの大和が臓器移植の治療中は卓がいつも自分の元に帰って来てくれたことを……。


 そして…とうとう思い余った幸子は、大和が14歳の時にあの大殺人鬼のいる病床に閉じ込めた。それは卓を家庭に目を向けさせる為でもあったが、余りにも自分に対しての酷い扱いに怒れての事でも有った。


 それは度々卓の目を盗んで行われていた。大和は殺人鬼が恐ろしい事を目論んでいる事を知った。それは看護師達が見回りに来ない時間帯を狙って行われている作業だった。


 

 🔷🔶🔷

 北病棟は閉鎖病棟になっており閉鎖病棟の出入り口が常時施錠され、病院職員に解錠を依頼しない限り、入院患者や面会者が自由に出入りできない病棟である。


 大声で暴れたり、奇声を発したり、また手に負えない患者はベッドに拘束される場合もある。だから、多少の音も打ち消されていた。


 奥まった1棟北病棟全ての部屋が迷路のような秘密の通路で繋がっていて、覗き穴はもちろんスライドする扉も壁に仕掛けられている。


 これはあの当時22歳だった元大工だった大殺人鬼Aが時間を掛けて作っていたものだった。


 Aは殺人を犯す前までは、病院では模範患者で通っていた。そんな患者がまさかあのような大それた事件を仕出かすとは努々思わなかった看護師は、Aの注文に応えてくれた。


 大工だったので大工道具一式を注文していた。あの時は本館病院で治療に当たっていたが、損傷が酷かったので分院で臓器移植が行われた。


 傷の治療で運ばれ精神疾患は一切なかったAだったので看護師も安心して渡してくれた。だが、臓器移植を行ってからガラリと人が変わってしまった。


「元気になったので腕を磨く為に暇な時間に、亡くなった母の写真を入れる写真立てが作りたい」と言って大工道具一式をゲットしていた。


 こうして覗き穴を作って女風呂を覗き込んだり、女部屋をこっそり覗き込んでいた。またスライドする扉も壁に仕掛けて人間の内蔵を取り出された横たわっている死体を覗いて見ていた。


 毒ガスにより殺害すると、この気密室には覗き窓がついて、大喜びしている怪しい男がいて各部屋にはガス管が仕込まれていた。その話は話しに尾ひれが付いただけの話しだ。


 そして…地下室には高温の焼却炉が設置されており、これは殺害し、死体を処理する為だというのだ。嗚呼…でも、これは確かに有ったらしい。


 異常な病院の仕掛けも明らかとなった。また、別の部屋には床が落とし穴になっており、地下室に落下するようになっている。そして…そこで死体処理がされているらしいのだ。これは有ったかも知れない。助けたくても助からなかった人も多くいた為、やむを得ず焼却されていた可能性は有る


 彼はこの「恐怖の病棟」を建築するにあたって、いくつもの業者に発注した。業者をコロコロ変え別の業者に発注した。「これは恐怖の病棟」を建設する為ではなく、1人でも多く助けたいと願う院長が認可されていない臓器移植手術を隠す為に、幾分複雑に建築する必要が有ったので多少複雑になっているだけの事だった。


 🔷🔶🔷

「ウッフッフッフ~お前よく俺の個室に来れたものだな~?ハッハッハ~嗚呼…殺したい嗚呼…なんという幸運が舞い込んで来たことか、坊主お前を切り刻んでくれるわ~!」そう言ったが先か、ノコギリを取り出して大和を切り刻もうと迫って来た。


「ギャッギャ――――――ッ!」


 大和に危機が迫っている。

 いよいよ最終話に突入する事になる。



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