第43話 大和の危機!


 栄治は父長谷川を助けたいばかりにとんでもない事を目論んでいる。


 それは、父親が九州に拠点を構える九州では誰もが知る野球球団福岡ヤマトホークスの有名監督山田の息子で、ハ―レ―を運転して事故を起こした亮の母玲子から、徐々に金を引き出させる事だった。


 それもこれも、可愛がってくれた父長谷川を助けたい一心でやった事だったが、それは昴をも巻き込む大騒動となっていった。


 要するに、能力もないのに自分の腕を過信し過ぎた長谷川に落ち度が有るのは分かりきった事なのだが、その前に過去の田代家にまつわる事件に触れて置かねばならない。


 それはズバリ、田代院長とリンランの間に誕生した双子の片割れで克也と菜々枝の異母兄大和の事だ。


 🔷🔶🔷


 リンランが亡くなってしまえば、いくら役立たずの妻だと言っても…やはり配偶者の妻しかいない。かといって、妻に話すのははばかれる。


 だが、リンランの妊娠が分かってからというもの,やっと授かった我が子の事にかまけて、福岡市の本館病院は副院長に任せ切りで余り顔を出さななくなっていた。当然本館病院の目と鼻の先にある本宅にも帰らなくなっていた。


 妻にしても今更夫婦生活も何もあったものではない。夫の仕事人間ぶりには若い頃は寂しさもあったが、この年60歳近い年で愛もへったくれもない。お金さえたっぷり使わせてくれれば大満足。最近は旅行にドハマりして、お友達と海外旅行三昧の日々。


 妻が旅行三昧でリンランとの事は知られずに済んでいたが、リンランが亡くなり赤ちゃんの世話を妻にして貰わなくては?だが、2人もいたと分かったら、只じゃ済まない。


 こうして双子の片割れ大を養子縁組してもらい今野家に養子に出した。


 だが、そんな度を越す海外旅行が仇となり飛行機事故で、妻が命を落としてしまった。こうして以前から付き合いのあった幸子と結婚した。



 🔶🔷🔶

(あんなに息子大和を大切にしてくれた幸子が、大和を苛める筈がない)


 町の名医にして財産家の卓院長には、熟練された看護師のみならず、若い看護師からのアプローチとも取れる態度が度々目撃されていた。


 それは、少しでも院長に認められて確固たる地位に就きたい。一刻も早く重要ポストに就いて病院に無くてはならない存在になりたい。その為だったら実力は無くてもこの身体を提供してでも病院での確固たる地位を築きたい。上手く行けば醜女の妻幸子から院長を奪い取る事だって出来る。


 このような思惑の看護師も少なからずいる。幸子は院長卓の女癖の悪さに悩まされ同士だった。


「あなた女がいるでしょう。いい加減にして下さい。私は義理の息子大和の世話をしているんですよ。それを…ゥゥゥ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクいい加減に目を覚まして下さい。ワ~~~ン😭ワ~~~ン😭」


「男の甲斐性でやって何が悪い!お前みたいな何の取り柄もない女を嫁にしてやっただけでも有り難く思え!もし我慢出来なかったら出て行け!」


「ゥゥ。゚(゚´Д`゚)゚。ワ~~~ン😭ワ~~~ン😭」


(私がこんなに卓に尽くしているのに、あの美しいリンランとの扱いの違いには、ビックリを通り越して呆れるばかり。私はリンランのような美しい容姿ではないが、卓を愛する気持ちは誰にも負けない。だから私はリンランに勝つ為に仕事を人の何倍も頑張った。そして…やっと私のものに出来た。あの美しいリンランが死んでくれてほっとしたのも束の間、今度は若い看護師に次から次へ手を出して…その挙げ句『男の甲斐性だ!文句が有るなら出て行け!』こんな私なんか今更捨てられたら…誰が拾ってくれるのよ…リンランの事では散々泣かされたが、今度は若い看護師に夢中になり、私なんか眼中に無い。あああ…卓が憎い!……そうだ。家に問題があったら家族に目を向けてくれるかも知れない?まだ私達には子供がいないが、リンランとの子供大和がいる。そうだ…あの子が何か?とんでもない問題に直面したら家庭に戻って来てくれるに違いない。その証拠に大和の臓器移植が寛解に向かうまでは、私を大切にしてくれた。そうだ…あの大和に問題が起これば…また私の元に戻って来てくれる。そうだ…面白い事を思い付いた?フッフッフッあの北病棟の大殺人の部屋に大和を閉じ込めてやれ!そして…看護師達には口封じをして置かないと…)


 卓の女癖の悪さに困り果てた幸子は恐ろしい事を思い付いた。


(大和をあの恐ろしい患者を9人も残酷に殺害した、凶悪殺人鬼が入院している精神病院の北病棟の同じ部屋に閉じ込めてやれ!だって?そうでもしないと…卓が若い看護師に走り、折角掴んだ院長夫人の地位をいつ奪われるか…分かったものではない。何とかしないと…)



 やがて、最もあって欲しくない悲劇が幕を開ける。


 大和に危機が迫って―――


 ※実際の刑事裁判における心神喪失や心神耗弱の扱いは、無罪や減刑に繋がるのは稀だそうだ。それでも弁護側が精神鑑定に一縷の望みを託すのは往々にしてよくある話。軽度の障害や疾患、ましてや詐病にまで適用されるわけはない。

 

 心神喪失が認められて無罪となった被告は、釈放の前に必ず措置入院が挟まれ、裁判所と専門医が退院できると認めるまで必要な治療を受け続けることになる。これは医療観察法によって定められている。


 また、無罪だからと安易に社会復帰させている訳ではなく、治療しながら慎重に判断している。


 措置入院した被告の約2割は退院できるまで寛解するが、残りの8割は寛解が認められるまで退院は許されない。15年以上入院している心神喪失や心神耗弱患者も少なくない。



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