第42話 徐々に見えてくる真実


 ヤンは両親の仕出かした事故の後始末で苦労したが、両親が保険に加入していた事もあり被害者からの賠償請求も保険で賄う事が出来た。


 だが、栄治は事故の一部始終を知っていた。そこでヤン改め昴にその事実を話した。


「な~んだよ?もっと早く言ってくれれば良かったのに…もう被害者に賠償金が支払われてしまったじゃないか?」


「そう言っても長谷川院長が、病院経営でにっちもさっちも行かなくなっている事は、知っているだろう?祖父で先々々代卓院長は臓器移植の名医だった。そして…先々代院長大和さんは父譲りの名医だったらしいが、先代理事長兼院長で隼人のお父さん克也おじさんは色々あったから臓器移植はやらなかった。だが、どうも…臓器移植は諸々で相当の儲けが出るらしい。強欲な長谷川院長が金に目が眩んで、腕もないクセに臓器移植をまた再開したらしいが、臓器移植の失敗続きで訴えられ訴訟続きですっかり患者が離れて、相当の負債を抱えたらしい?それで…俺たちに厄介な仕事を任せやがって……本当に困った院長だ!」


 🔶🔷🔶


 あの昴の両親が交通事故を起こした真夜中の数分前、桜吹雪舞う熊本城下を一台のバイクが、それもかなり大きい高級バイクの代名詞ハ―レ―を、乗り回すカップルの姿が有った。


 真夜中、スピードが出ていた状態で衝突した為、跳ね飛ばされた相手が転倒でコンクリート壁に頭部をぶつけたので、腹部~胸部に強い圧迫を受け、内臓破裂などをおこし死亡したと考えられる。


 実はハ―レ―を運転していたのは、父親が九州に拠点を構える九州では誰もが知る野球球団福岡ヤマトホークスの有名監督だった。


 よほど特殊なタイヤで車種が推測されたとして 、その車種が日本に数台しかないとかなら 車両を特定することは 理論上可能だが、たまたまこのハ―レ―日本には数少ない高級バイクだった為、犯人特定ももう後一歩というところまで来ている。


 その頃、山田家では証拠隠滅の為に必死に家族で相談していた。


「バイクのナンバーが特定されれば、私の監督生命は終わりだ。全くバカな事をしてくれたものだ。このバカが!」


「本当に困った子ネ!どうするのこんな事が表沙汰になったら、我が家はおしまい。嗚呼どうしたら良いの?ともかく衝撃で傷付いたバイクを隠さなくては?」


「そうだ!大きいバンに乗せて別荘の地下室に隠そう」


 こうして証拠の品を別荘の地下室に隠した。


 だが、この一家はにっちもさっちも行かない状態に、追い込まれる事となる。それは…安心したのも束の間、ある日刑事が突然訪ねて来た。


「亮さんのバイクは、日本でも数少ないCVO○○○だそですね?」


「ああ…イエ?…ああ…はい…」


 もしバイクが限定されてしまったら大変な事。


「ああああ……バカ息子のせいで俺の監督生命は終わりだ!玲子お前の監督不足だ!嗚呼ああもう…」


「あなた…私にばかり責任を…ウウウ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクウウウワ~~~ン😭ワ~~~ン😭」


 


 🔷🔶🔷


 そして遡ること2週間前、高齢の夫婦の死はニュースで大々的に放送された。

 

 だが、意外な事に犯人は息子亮がひき逃げを起こし、逃げた後からやって来た中高年夫婦の車が、ひき逃げ犯人と断定され、ガ―ドレ―ルに衝突して、被疑者死亡をもって解決されてしまった。


 こうして山田家には、また以前の静寂が戻りつつあった。運良く少し町外れに差し掛かっていた為、防犯カメラに映っていなかったのが功を奏した。


 だが、喜んでいたのも束の間、静寂を取り戻しつつあった山田家に、ある日思いも寄らない電話が入った。


「うふふ うふ うふふ 奥さん息子さんの事件上手く行きましたね。うふふでも…うふふ…あの真夜中…実は目撃したのですよ。逃げれると思ったら大間違い。うふふ…奥さんこの件をバラされたくなかったら、僕の指定した口座にお金を振り込んで下さい。取り敢えず百万円。分かりましたか?」


「いい加減な事言わないで下さい。口先ではなんとでも言えます。証拠…証拠を見せて下さい」


「うふふ…じゃあ奥さん今度、近所の喫茶店ロマンスで待ち合わせして証拠をお見せします。来れますか?」


「仕方ありません。三日後の午後三時に喫茶店に行きます」


 🔶🔷🔶

 山田監督の妻で亮の母玲子は近所の喫茶店ロマンスに、指定した時間にやって来た。


 すると、目付きの鋭い何か威圧感のある三十代の男が、胸のポケットに赤いハンカチを入れ待っていた。嗚呼失礼しました。本当は栄治は昴の2歳年下になるが、地味な為、老けて見えるが本当は28歳だ。


 あの時目印に、赤いハンカチを胸のポケットに入れて来る約束を取り付けていた。


 実はこの男、昴と一緒にクラブ蘭に姿を出していた昴の悪友今野栄治だった。


 携帯に収めた証拠のナンバープレ―トを見せられた亮の母は、その場に座っている事もままならない状態に追いやられ、心臓の鼓動が波打ち話すこともままならない状態に陥ってしまった。


「アッあの~この話はまた後日にお願いします。私少し体調が思わしく御座いません。失礼します」


 亮の母玲子は、その言葉を発することで精一杯だった。


 🔷🔶🔷

 栄治にすれば、なんだかんだと言っても慣れ親しんだこの田代総合病院に愛着がある。だから、以前の活気を取り戻して欲しいばかり。今更他の病院に移る訳にも行かない。


 それから…あんな長谷川院長だが、子宝に恵まれなかった分、初めて我が息子になった栄治をそれはそれは大切にしてくれた。だから、色々あったが立ち直る事が出来た。


 忙しいのに、魚釣りにも連れ出してくれたし、パチンコにもよく連れて行ってくれた。あのパチンコはなにより栄治を救ってくれた。夢中で玉に向き合っているその時だけは全てを忘れる事が出来た。


 だから、昴が養子縁組させられたら愛情を奪われる気がして、昴に意地悪していたのは事実だった。


 長谷川院長の尻拭いの為に昴を巻き込み病院を立て直そうとする栄治。可愛い弟のような存在の栄治に頼まれて、結婚詐欺師まがいな事に手を染める昴。


 最近では、臓器移植手術の回転が異様に早い病院として名を馳せている田代総合病院。


「幾ら訴訟が多い病院だろうが、自分さえ健康を取り戻したら良い事、訴訟がなんだ!早く臓器移植をして欲しい!」


 そんな考えの人々も多い昨今、待っていれば命の保証はない。移植を受けた人の平均的な待機の期間として、心臓は約3年、肝臓は約1年、肺は約2年半、膵臓は約3年半、小腸は約1年。特に、待機者の多い腎臓移植は約15年となっている。


 急かされ栄治に泣き付かれ、更に隼人も経営の悪化に頭を悩ませている。


 病院ぐるみの犯行なのだろうか?


 …女性を誘惑する理由……それはズバリ……若い臓器?


 何という恐ろしい事を…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る