第36話 徐々に分かって来た真実


 ヤンと栄治は仲が悪いと思われていたが、それは世間の目を欺く為の猿芝居だった。それでは、栄治はいつ自分が田代家の血を引く身の上だと気付いたのか?

 

 それは長谷川の子供になっていたのでお金に困る事はないが、友達に進められて、ましてや両親の悲劇を一刻も早く忘れる為にも、大学時代塾のアルバイトをしていたが、塾の近くで殺人事件が起き急遽休校になり、家にとんぼ返りした日の事だ。両親は息子栄治がいる筈がないと思い、うっかりこの今野家の秘密を話し合っていた。


「あなた、栄治の父親はなんと田代総合病院の創業者で、お爺ちゃんの息子だったのよ。覚えて置いてね」


「へぇそんな奇遇な事が有るものだね。って事は?あんな医学部中退の隼人に打って変わって栄治が、医師免許を取得したら、この田代総合病院の第一の理事長候補となる。ウッフッフッフ~これは面白くなって来た」


 だから…この頃から隼人に打って変わって栄治を後継者にと狙っていた事が分かる。長谷川とヤンと栄治が共謀してこの田代総合病院を我が手に納めようと狙っていた事が分かる。



 🔶🔷🔶


 それでは、ヤンと栄治2人の祖母リンランの、その後を着目してみよう。


 元々旅行が大好きなリンランは、中野と熊本城を見に出掛けた。と言っても実家に帰ったついでに立ち寄ったたけなのだが。


 そこに魔の手が……!


 その出会いは熊本城近くにあるH旅館での事だった。その時のリンランの和服姿の美しさに一瞬で魅了されてしまった田代院長。


 出会いこそ、他愛ない出会いだったが、リンランにすると婚約者中野がいるので、只の通りすがりだったかも知れないが、女好きな田代院長にすると、またとない上玉どんな事をしても物にしたい。

 

 最初リンランを見た時は、夢にまで見た理想の女性と巡り合えた喜びで、胸が踊り、この胸のときめきを押さえる事が出来なかった。


 そして…あの旅館での出会いから、家族も交えての交際に発展していった。リンランも当然田代院長をすっかり信頼しきっていた。


 ある日の事だ。たまたま鉄鋼メ―カ―勤務の中野が海外に赴任中だった事もあり、夫の実家熊本に帰っていたリンランは、気心の知れた田代に声を掛けられ、意気揚々と出掛けて行った。


 こうしてあの日旅館で親しくなって以来、九州にやって来た時は夫婦共々田代夫婦と親しく付き合いが続いていた。

 そしてあの日、田代院長からの電話で出掛けて行った。


「かに料理が食べれる美味しい店が有るから行かない?」と誘われ車で出掛けた。


 だが、その後大変な事態に発展してしまった。とんでもない事に、かにを食べた後、その足で病院に誘い込み強引に関係を迫った田代。


「リンラン前から君が好きだった。良いだろう?」そう言ったが先か、一気にリンランに飛び付き、リンランは身動きが取れなくなってしまった。


 無理矢理関係を持たされたリンランは、田代に対して強い憎しみと不信感で一杯になり逃げるように家に帰って行った。


 リンランにすれば青天の霹靂、運が悪いことに妊娠してしまった。それも夫中野は海外に赴任中で、半年程家を留守にしていたので、絶対田代の子供である事は間違いない。


 考えあぐねた結果致し方なく、死ぬ程イヤな憎い男ではあったが、背に腹は代えられず田代に相談した。


 既に妊娠5カ月だったので堕胎する事も出来ない。こうして夫中野と5カ月間音信不通で、こっそりこの田代精神病院分院で、男の赤ちゃんを出産していた。


 夫中野に他人の赤ちゃんを妊娠したことを知られたく無くて、半年近く田代に家を借りてもらい、生活の一切を見て貰い出産にこぎつけていた。


 だが、その生まれた子供には障害が有った。臓器に異常が見付かった。そこで最近にわかに注目を浴びている最先端の臓器移植に、着手したのが田代院長だった。

 

 田代は、可愛い我が子を、この手でどんな事をしても助けようとやっきになっていた。可愛い我が子を治す為だったら、例え火の中水の中。ましてや命に変えても守りたい愛するリンランの子供だ。臓器を手に入れる為に、患者の臓器に手を出すようになって行った?それは無いとは思うが。


 

 🔶🔷🔶

 中野にすればやっと幸せが訪れたと喜んでいたのも束の間、ある日どういう訳かリンランが、忽然と邸宅から姿を消した。


 そして…やっと苦労の末探し当てる事が出来たが、なんと熊本に妻と旅行した時に知り合い、家族同然の付き合いが続いていた田代院長の別宅にいたとは、とんでもない裏切り行為に許せない気持ちで一杯だ。


(あんなに信頼していたのになんて言う事だ。そして…リンランは、知らぬ間に赤ちゃんまで出産していた事が分かった)


「リンランお前と言う女は、どういう女だ。俺が仕事で海外に赴任中に男を作って、子供まで産んでいたとは、許せない。出て行け――!」


「あなた許して下さい。違うのです。家族ぐるみの付き合いで、あなただって田代院長は信用出来るとおっしゃっていたではありませんか?だから…あなたが海外に赴任中に誘われて食事をしたのです。そして…強引に関係を……ゥゥ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクウウワア~~ン😭ワア~~ン😭そして…そして坊やがシクシクウウワア~~ン😭ワア~~ン😭」


「クッソ――ッ!許せない!許せない事だが、あの田代院長が強引に人の女房に手を出したのなら、只じやおかない!」


そうこうしていると、田代院長が分院から帰宅して来た。


「田代よくも人の女房に手を出してくれたな!そして勝手に子供まで産ませるとは、なんて卑劣な奴だ!裁判にかけてやるからな!」


「まあまあ、お互いに社会的立場のある身の上、冷静に話し合いましょう。私だって社会的立場がある身です。世間にこんな事が知れたら困りますし、裁判で時間を費やす事も、これまた困ります。そんな時間ありませんから、あなたが、どうしてもリンランさんを許せないのであれば、僕がリンランさんを頂いて、その見返りにあなたの望む金額を、お支払いするという事でどうですか?」


「バカを言うんじゃないよ!リンランは私の妻だ!」


「だけど…僕らには子供がいます。子供の為にも僕もリンランをどんな事をしても離したくない!」


 今までは、舅、姑、妻に恐れて浮気止まりだった田代院長だったが、舅姑達は相次いで亡くなっていた。更には本妻との間に子供はいなかった。


 総合病院のトップで金は腐る程ある。跡継ぎも産めない本妻といる必要がどこに有ろうか。


「あんな勝ち気でわがままな女もううんざり。あんなしわくちゃな、うまずめ婆さん捨ててやる!だから俺と一緒になってくれ。頼む!もしお前が旦那さんの元に戻るのだったら息子は渡さないからな。それでもいいのかい?」と田代に懇願されたリンラン。


 大切な跡継ぎを産んでくれたリンランは、田代にとってはかけがえのない存在。こうして大騒動が勃発する。それは想像を絶する形で、後々尾を引いて行く事となる。

 

 あの夜田代の別宅では、延々話し合いが持たれた。田代院長にしても、やっと巡り合えた理想の女性リンランと息子まで設けてしまった間柄、人の妻と分かっていながら、自分に落ち度が有るのは十分承知しているが、どんなに悪いと言われようとリンランとの別れなど考えられない。


 一方の中野の方は憤りを通り越し、開いた口が塞がらない。そんな呆れ切った境地に達している。両者一歩も引き下がる様子が見受けられない。その時中野が言い放った。


「もう呆れて話にならない。リンラン家に帰ろう」


 そしてリンランの手を引いて家を出ようとした。


「貴様!話はまだ終わっていない。リンランは私のものだ」強引にリンランを奪い返そうとして力一杯手を引っ張った。するとリンランは余りの強引さに、勢い良く側にあったテ―ブルに頭をぶつけ意識不明の重体に陥ってしまった。


 そして…誠に残念な事に、リンランの命の炎が消えようとしている。


 このような理由から、父親から恐ろしい秘密の数々を聞かされていた栄治は、この田代総合病院には相当の恨みがある。それはヤンとて同じ事。


 刻一刻と見えて来る真実……。


 



 











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