第37話 息子大和
実は田代総合病院分院には秘密が隠されている。真夜中に響き渡る異様な叫び声。
「よくも…俺を…フッフッフッ ワッハッハ~ クッソ――ッ!今に見ておれ…フッフッフ 俺が何をしたと言うのだ。こんな場所に閉じ込めやがって…嗚呼…許せぬ!嗚呼…許せぬ!許せぬ!」
そして…問題なのは、実は、栄治の母菜々枝はお嬢様育ちで非常におっとりした女性だったが、父親が心臓と肝臓に障害が有り先々々代の院長が息子可愛いさに臓器移植を行っていたのだが、創設者の先々々代院長は、まだあの時代臓器移植は成功例が非常に少なかった。
ましてや、経験の浅い院長が息子可愛いさに、見境なく誰の臓器なのか分からず闇組織から臓器提供してもらっていた。だから…成功するまで何回も行われていたらしい。誰の臓器か分かったものではない。
臓器は提供者に似てくると言われている。菜々枝は一見おしとやかなおっとりしたお嬢様に映るが、恐ろしい裏の顔が有った。
「嗚呼…ああ…アア…アアアア人を殺したい!嗚呼我慢出来ない!」
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この田代総合病院が殺人病院と言われる由縁は、田代院長とリンランの間に誕生した赤ちゃんが全ての鍵を握っている。
愛するリンランは、田代院長と中野との奪い合いの末、ガツシリした高級和モダン風テ―ブルに勢い良くぶつかり、治療の甲斐なく命を落としてしまった。
中野にすれば青天の霹靂どころの騒ぎではない。命に変えても守り通そうと誓った命より大切な妻リンランを失い、只々虚しい砂を噛むような日々に、あの田代院長に対する復讐心は、日に日に倍増するばかり。
一方の田代院長にすれば、当然愛するリンランの死は受け入れ難い真実だが、赤ちゃん達をどんな事をしても守り通さなくてはいけない。
リンランが亡くなってしまえば、いくら役立たずの妻だと言っても…やはり配偶者の妻しかいない。かといって、妻に話すのははばかれる。こうして双子の片割れ大を養子縁組してもらい今野家に養子に出した。
一方の大和には障害が見付かった。心臓と肝臓に欠陥が見付かった。父の田代院長は、やっと授かった赤ちゃん大和が可愛いくて仕方ないのに、障害を持って生まれた我が子可愛いさに、人の命を救う医者で有りながら、人の命を軽視して裏社会から臓器提供を受け未経験で有りながら、いくつもの臓器を犠牲にしてまで、我が子の為に実験を繰り返した。
「可愛い我が子を他人に任せる訳にはいかない。どんな事をしても我が子を守り通して見せる!」こんな人の命をなんとも思わない、我が子の事で頭がいっぱいの田代院長には、とんだ天罰が下される。
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裏社会から臓器提供を募っていた田代院長は、まさか心臓移植で臓器提供者に性格が酷似するなど、あの時代では想像も出来なかった時代。息子が健康になってくれさえすれば臓器はいくつ使っても関係ない。まず子供の命を救う事。
こんなずさん極まりない事を繰り返していれば、悲劇が訪れるのは目に見えている。大和は早い時期からサイコパスの兆候を見せていた。
極度な癇癪もちで、自分の頭を床に何度もたたきつけたり、父田代院長のことを豚、ゴキブリと罵ったりする残酷な息子だった。
15歳になると父田代院長に隠れて病院の裏に有る使われていない小屋で、ウサギの首を切断したり、猫を生きたまま焼き殺したりして、小動物を殺して楽しむようになった。また、鶏を生きたまま丸焼きにして楽しむようになってしまった。そのやり方の残酷な事。ガソリンを満たした鍋に鶏を入れて、火をつけて生きたまま焼き殺したりし、小動物をいじめて興奮して楽しんだ。
大和は、炎に包まれて逃げ惑う動物を見るのが何よりもの楽しみになっていた。なんという恐ろしい事を……。
「嗚呼…興奮する。もっと…もっと…大きな動物……アッそうだ!人…そうだ人間で試してみたい。アアアア……嗚呼……あああ最高の楽しみだ」
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田代院長は息子の異常に気付き始めた。それは、お手伝いの登紀がやむにやまれず放った言葉から捜査が始まった。
「ご主人様、お坊ちゃまが猫が好きで次々猫を与えていらっしゃいますが、みんな居なくなるので御座います。更にウサギも飼っていますがウサギ小屋から消えているので御座います。そして…坊っちゃんの部屋に血の付いた刃物や、ハサミが見付かったので御座います。まさか…とは思いますが?」
「登紀不吉な事を言うでない。まるで大和が、刃物やハサミで殺したみたいな言い方じゃないか?大和はそんな野蛮な息子じゃない!」
「ご主人様、誠に失礼な事を言いまして…お許し下さい」
(それでも…今までどのくらいの小動物を与えた事か、10本の指では収まらない。一体どこに猫やウサギは消えたのか、ワシもタマがいないので心配していた所だ。これは、放って置けば大変な事になる。それこそ…外に目を向けられたら、恐ろしい事態に発展する可能性がある。可愛い息子を信じてはいるが、監視してみないと?)
こうして恐ろしい謎の屋敷が建築されてしまった。息子大和を止める手立てがなかったのか?
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