第34話 今野の正体


 華族出身の中野元大佐は、1947年5月3日華族制度の廃止により、一般市民に格下げになったが、T大卒のエリ―トだったので運良く最大手大日本製鋼に勤務する事が出来た。


 いくら華族制度が廃止になったからと言っても、1960年代はまだ日本では酷い差別が横行していた時代だ。ましてや旧華族様だ。おいそれとは結婚出来ないと思っていたが、父の死で母が折れてくれ話がトントン拍子に進んで結婚となったが、リンランにすれば20歳も年上の中野との結婚には躊躇したが、最終的に優しい中野とだったら上手くいくだろうと思い結婚を決めた。


 やっと幸せが訪れたと喜んでいたのも束の間、ある日どういう訳かリンランが、忽然と邸宅から姿を消した。


 すると、家族ぐるみの付き合いの田代総合病院で、体調が思わしくないので、検査入院して調べてもらい、悪いところの治療に当たってもらっている。という事で安心仕切っていたが、懇意にしている看護師からとんでもない話を聞いた。

「旦那様赤ちゃんがお生まれになりました。おめでとうございます」


(イヤイヤ妊娠期海外に出張中だったから?)


 とんでもない裏切り行為に許せない気持ちで一杯だ。


(あんなに信頼していたのになんて言う事だ。そして…リンランは、知らぬ間に赤ちゃんまで出産していた事が分かった)


「リンランお前と言う女は、どういう女だ。俺が仕事で海外に赴任中に男を作って、子供まで産んでいたとは、許せない。出て行け――!」


「あなた許して下さい。違うのです。家族ぐるみの付き合いで、あなただって田代院長は信用出来るとおっしゃっていたではありませんか?だから…あなたが海外に赴任中に誘われて食事をしたのです。そして…強引に関係を……ゥゥ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクウウワア~~ン😭ワア~~ン😭そして…そして坊やがシクシクウウワア~~ン😭ワア~~ン😭」


「クッソ――ッ!許せない!許せない事だが、あの田代院長が強引に人の女房に手を出したのなら、只じやおかない!」


 そうこうしていると、田代院長が帰宅して来た。


「田代よくも人の女房に手を出してくれたな!そして勝手に子供まで産ませるとは、なんて卑劣な奴だ!裁判にかけてやるからな!」


「まあまあ、お互いに社会的立場のある身の上、冷静に話し合いましょう。私だって社会的立場がある身です。世間にこんな事が知れたら困りますし、裁判で時間を費やす事も、これまた困ります。そんな時間ありませんから、あなたが、どうしてもリンランさんを許せないのであれば、僕がリンランさんを頂いて、その見返りにあなたの望む金額を、お支払いするという事でどうですか?」


「バカを言うんじゃないよ!リンランは私の妻だ!」


「だけど…僕らには子供がいます。子供の為にも僕もリンランをどんな事をしても離したくない!」


 今までは、舅、姑、妻に恐れて浮気止まりだった田代院長だったが、舅達は相次いで亡くなっていた。更には本妻との間に子供はいなかった。


 総合病院のトップで金は腐る程ある。跡継ぎも産めない本妻といる必要がどこに有ろうか。


「あんな勝ち気でわがままな女もううんざり。あんなしわくちゃな、うまずめ婆さん捨ててやる!だから俺と一緒になってくれ。頼む!もしお前が旦那さんの元に戻るのだったら息子は渡さないからな。それでもいいのかい?」

と田代に懇願されたリンラン。


 大切な跡継ぎを産んでくれたリンランは、田代にとってはかけがえのない存在。こうして大騒動が勃発する。それは想像を絶する形で、後々尾を引いて行く事となる。


 そして…誠に残念な事に、リンランの命の炎が消えようとしている。



 🔶🔷🔶

 過去の過ちが現在に思いも寄らない形で、影を落としているこの一連の何とも奇妙な事件の数々。


 それでは、その謎を少しずつ紐解いて行こう。


 あの美しいリンランを巡って恐ろしい事件が幕を開ける事となったが、あの時代芸能人でもない限り、リンランのような日本人離れした美しい女性は数少なかった。

 

 リンランを自分のものにしようと男たちが奔走した挙げ句、恐ろしい事件の連鎖が加速して行った。


 🔶🔷🔶 

 あの真夜中、火事で命を落とした元理事長の妹菜々枝夫婦の子供今野栄治の父親は、実はあの田代総合病院の創設者田代卓院長とリンランの息子だった。


 あの後臓器移植手術を施され、暫くは田代院長が家政婦を雇い別宅で一緒に生活をしていた可愛い息子だったが、妻にバレてしまい里子に出され養子縁組がされていた。


 すくすく成長した栄治の父は結婚して幸せを掴んだかに見えたが、未曾有の大災害で命を落としてしまった。


 田代総合病院の創設者で、あの先々々代の院長田代卓との生活は如何なるものだったのか?そして…リンランに死が迫っている。


 何も悪くない母リンランが何故死ななければいけなかったのか?

 

 このような理由から、父親から恐ろしい秘密の数々を聞かされていた栄治は、この田代総合病院には相当の恨みがある。


 そして…意外な事にヤンとは血の繋がりが有り親戚になる。


 だから…あのクラブ蘭のホステス、アヤのマンションに侵入していた事も、ヤンと栄治が親戚ならば理解出来る。


 段々見えてくる真実。






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