第31話 行方不明のリンラン



 田代総合病院の噂をもっと掘り下げて見よう。


 この病院では、いっとき多くの患者が行方不明になった。そこで口さがない人達の中には、殺人病棟と呼ぶ人もいた。


 そして…話に尾ひれがつきとんでもない話になってしまった。


 

 例えば、ガス管を取り付けた防音室に閉じ込められ、窒息死させられた被害者や、密閉され一定の扉からしか入れない別の密室に連れて行かれ、そこに閉じ込められて精神疾患がないのに精神病院に入院させられ餓死と脱水症状で放置された被害者がいたというのだ。

 

 それは人が死に行く姿、悶え苦しむ姿を覗き穴から見て興奮する誰かがいるからなのだが?


 被害者たちの死後、死体を地下に続く落とし穴から落とし、その死体を解剖して肉を剥ぎ取り、骨格模型に加工し、医学部に売りさばいてい金儲けをしていたともいう。また、石灰溜めに捨てたり、焼却炉がありそこで焼却したり、腐食性の酸や毒物などで溶かして処分していた。


 一体誰が、こんな恐ろしい噂を吹聴しているのか?



 🔷🔶🔷

 この田代総合病院の先々々代の院長は20歳の時に田代亜希代という資産家の娘と結婚した。そして、その財力のおかげで医師の資格を取得すると、田代総合病院の前身である田代病院を開業した。


 だが、第二次世界対戦で焼け野原となってしまった。


 当然復興の為に公的資金も投与されたが、妻の家の財力のお陰で想像もつかない田代総合病院が完成したのだが、男と言うもの金が有り余る程有れば、欲望に駆られるのは致し方のないこと。


 この院長は賭け事でもなく、物欲でもなく、色欲に没頭してしまった。



 やがて、この先々々代の院長は円福家でも知られる事となるのだが、それでも最初の内は、愛人達にも細心の注意を払っていた。

 

 それは婿養子という事もあり恐妻家だったので、妻に浮気がバレるのを何よりも恐れていたからだ。だから、近場の女には絶対手を出さなかった。

 

 そして福岡市にある本院の他に分院も建設していた。それが熊本に建設されたのだった。


 あの当時、中野元大佐の婚約者だったリンランは、旧華族の資産家だった中野元大佐のお陰で、愛するリンランには湯水の如くお金を注いでくれた。

 

 元々旅行が大好きなリンランは、中野と熊本城を見に出掛けた。


 だが、中野は急な仕事でとんぼ返りをしてしまった。


 そこに魔の手が……!

 

 その出会いは熊本城近くにあるH旅館での事だ。たまたま分院に仕事で来ていた病院長は、家族にお土産を買おうとお土産屋で買い物を済ませ部屋に戻る途中、後ろから女性に声を掛けられた。


「アッすみません!これお忘れではありませんか?」


 そう言って土産品の入った袋を渡してくれた。


「あぁ…あっあ あ ほっ本当だ!袋包みが沢山だったので、つっ つい置き忘れてしまいました。あっあ あっ有り難うございます」


 その時のリンランの和服姿の美しさに一瞬で魅了されてしまった院長は、あれだけ女好きの院長らしくない、声が上ずり思ったように話せない。


 その時は、それで終わったのだが、院長はこれだけ魅力的な女性と折角接点が持てたのに、これきりで別れてしまうなんて余りにも寂し過ぎる。


 そこで…何とは無しに後を付けた。すると旅館内のレストランに入って行った。

 

 誰かと待ち合わせしている様子もなく、レストランに1人で入っていったリンラン。


(あっ!て事は、1人で旅館に泊まるって事だ。だけど…こんなおじさん迷惑に決まっている。だけど…お礼がしたい)


 そう思いレストランの外でうろうろしていると、その姿に気付いたリンランが笑顔を向けて会釈をしてくれた。


 そこで少し勇気が沸き起こり、つかつかレストランに入って行き、ありったけの勇気を振り絞り言い放った。


「あっあ あ あ あの~僕も今日1人で旅館に泊まっていまして……ご一緒して構いませんか?」


「はい!どうぞ」


 出会いこそ、このような他愛ない出会いだったが、リンランにすると婚約者中野がいるので、只の通りすがりだったかも知れないが、女好きな院長にすると、またとない上玉どんな事をしても物にしたい。


 このような出会いから数年後、リンランの姿が忽然と消えた。


 あんなに、リンランに夢中だった田代院長だったが、リンランは何処に?


 🔶🔷🔶


 分院と言えど、この熊本にある分院は精神病院。奥まった北病棟には恐ろしい仕掛けの数々が施されていたというが、本当なのだろうか?


 病床数300はあろうかという5階建てを建築。これが効率的に設計された「殺人病棟」だった。全ての部屋が迷路のような秘密の通路で繋がれており、覗き穴はもちろん、スライドする扉が壁に仕掛けられていた。


 更にはガス栓が備えられていて、患者を中毒死させることもボタン一つのワンタッチで出来た。


 屍体はリフトで地下にある硫酸槽に運ばれた。アスベストで防音された窓一つない部屋は「独房」と呼ばれ、中には様々な外科手術用具一式が揃えられていた。

 

 彼はこの「恐怖の病棟」を建築するにあたって、いくつもの業者に発注した。業者をコロコロ変え別の業者に発注する。この繰り返しのおかげで、内部事情がはっきり分からないので誰からも疑われずに「殺人病棟」を完成させることができたのだ。その正確な間取りは田代しか知らなかった。

こうして「殺人病棟」は完成した。


 田代は精神疾患があると家族に説明して入念に選別し、まず金があること。美人であること。遠方からの客であること。いったいどれだけの女性が餌食になったのか、正確な数は判っていない。


 一体どどうして、このような恐ろしいことが出来るのか?


 只の噂話しなのだろうか?


 だが、現実にリンランが行方不明になっている。リンランは殺害されてしまったのか?


 

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