第28話 恋の行方


 ヂ―ミンは朝鮮部落でジアという在日2世と知り合った。

 実はこのジアは、ボスドユンの娘だった。だから幼い頃から兄妹のように育った仲だった。


 そして…あの心神喪失で同じ頃にボスドユンに拾われたジホが、ヂ―ミンを悩ませる一因になっていた。まだ幼かったヂ―ミンは、ジホに育てられたようなものなのだが、心神喪失で興奮すると善悪の判断が付かないので、ヂ―ミンに刃物を向けて襲ってくるわ、ピストルを向けるわで生きた心地がしなかった。また本当に切り付けられすっかり逃げ足の早い子供になったヂ―ミン。


 そんな時に助けてくれたのが、ジアだった。 


「コラ―――ッ!ヂ―ミンに何をする!」まだ10歳のジアがよく助けてくれた。


「パパあのジホね、ヂ―ミンを殺そうとするよ。追い出して!」


 いつもジアの言う事は何でも聞いてくれた父ドユンだったが、この時だけは聞く耳を持たなかった。


 あんなに娘に甘い父が、一体どうしてなのだろうか?


 こんな心神喪失のきちがいみたいな男を、ボスドユンは何故自分の子分に引き入れたのか?


 それがどういう訳か、超優秀な男で逃げ足が早く射撃の腕前も抜群なので、抗争には無くてはならない重要な男だった。


 幾ら仕事が優秀だからといっても、全くもって迷惑な話だ。ヂ―ミンは幼少期から少年時代にかけてジホには悩まされどうしだった


 そして…ヂ―ミンを語る上で欠かせないのがジアだった。子供の頃、2歳年下のジアとヂ―ミンは、お嬢様と『でっち』の間柄にも関わらず一緒に学校に通っていた。


「ジアそんな『でっち』と一緒に学校に行くなんてダメよ。示しが付かないでしょうダメ!ダメ!」


「ママなんて大嫌い💢パパ良いでしょう?」


「う う うん?…まぁ本来ならばダメだが、まぁ良いんじゃない?」


 このような調子で、ヂ―ミンの意見は度外視して、ジアと一緒に学校に通い出したヂ―ミンだった。

 


 🔶🔷🔶

 ヂ―ミンにすれば余り嬉しくない話ではあったが、ボスのお嬢様に逆らう事も出来ず流されて一緒にいる時間も必然的に多くなって行った。


 ヂ―ミンは現在16歳、本当は心の中にある女の子の存在が有った。高校1年生の夏休みに知り合った女子高校の女の子と文通をしていた。


 それはある日の事である。友達がヂ―ミンに頼み込んで来た。


「好きな女の子の事で頭が一杯だ。あの娘の事を思うと夜も眠れない。頼む!手紙を渡して欲しい」と頼まれたのだった。


 ヂ―ミンも知っている女子高の女の子で、ヂ―ミンも密かにその女の子に憧れていた。 


 頼まれたは良いが、ヂ―ミンにしても憧れの女の子に声を掛けるのは勇気がいった。 


 ある日いつもその娘と偶然にもよく会う場所、川の土手で待っているとその女の子が、友達と別れて土手を自転車で通り過ぎた。


「あっ あっ あの~?」


 そういう間もなく通り過ぎて行ってしまった。

(困ったな~?折角渡そうとしたのに…)


 そう思いとぼとぼ歩いていると、憧れの女の子が、ユ―タ―ンして戻って来た。


(一体どうしたのかな~?でも…どうせ何か学校に忘れ物でもしたに違いない)


 そう思っているとその女の子が、声を掛けて来た。


「あ あ あの~名前は…確か?(通名

:実さん)ですよね?」


「あっは ハイそうです」


「私達の学校の行事体育祭で今年はフォークダンスをやる事になったのですが、女子高なので男子がいません。体育祭は9月某日です。是非とも来て下さい。追って時間等はっきりしたらパンフレットをお渡しします」


「あ ハイ 行きます。あの~?それとこの手紙💌預かったのですが、渡し損ねて…いつも一緒の健介に、渡して欲しいと頼まれて…」


 こうして徐々に、この女の子真知子ともう1人の女子を交えての、グループ交際に発展して行くのだが、ジアがそのグループ交際の事実を知ってしまい、大問題が起こった。


 ヂ―ミンにすれば、(幾らボスのお嬢様だからと言っても、ジアは全くタイプではない。ボスによく似たふっくらした体型と、勝ち気な性格には、心の中で絶対ついていけない)そう思っている。


 それに引き換え真知子は清涼飲料水のような爽やかで可憐な美しい少女。ジアが独占しようとすればする程、真知子の事が忘れられなくなるヂ―ミンだった。


 🔷🔶🔷

 だが、焼け野原で拾われた恩を仇で返す訳にも行かない。ましてや将来はこんなヤクザな世界からは足を洗い、建築家になるのが夢だ。その為には何としても大学を卒業しなくてはいけない。更にはジアは全くタイプではないが、散々お世話になっている身。


 本来ならば、敗戦国日本の焼け野原で拾った小僧など、ドユンにすれば捨て駒同然だったのだが、このジアがドユンをどういう訳か、かばい助けるので極悪人ドユンとて人の子、散々悪事の数々を繰り広げてきた男だが、こと子供には頭が上がらない。ましてや娘には甘くデレデレで、どんなに悪い事をしても怒らない、また娘がいじめに遭ったらどんな些細な事でも飛んで行って助ける典型的な親バカだった。


 このヂ―ミンがジアからこんなに大切にされるには訳があった。実は…ヂ―ミンの母リンランに生き写しの可愛い坊やだった。こうして、例え極道の世界であったとしても、それこそあんな終戦直後と言いながら、なんとも豊かな生活を手にしたヂ―ミンだった。


「ヂ―ミンノロノロしていないでさっさと犬の散歩をして来い!その後は庭の草むしりと女中の手伝いをしろ!分かったな!グズグズしないでさっさとやれ!」


「パパったらヂ―ミンにもっと優しく出来ないの?そんなパパ私大嫌い💢」


「だってヂ―ミンは使用人だから仕方ないだろう?」


「パパ私の言う事聞いてくれないのなら、金田組を私継がないから…それでも良い?」


 ※本名キム「金」ドユンで、通名が(金田)なので、金田組。


 金田組の組長ドユンには男の子が授からなかった。だから長女のジアが婿を迎え入れて跡目を継ぐ事になっていた。


 元々頭の良かったヂ―ミンは、大学で建築の勉強がしたかった。時代は高度成長期に差し掛かっていた。


「親方僕は、大学を卒業して戦後復興を成し遂げつつある日本の為に、建築家になり、日本を支えたいです。どうか大学に行かせて下さい」


「バカ言うんじゃない。お前はジアと結婚してこの金田組を支えてくれなくてどうする。絶対ダメだ」


 ヂ―ミンの将来の夢建築家の夢は絶たれてしまうのか?恋の行方は一体どうなってしまうのか?






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