第26話ドユンの正体

  

 



 1936年の事だ。ドユン(45)は兼ねてから交際中の大阪にある岸和田大日紡績の女工(45)と結婚した。


 A子には、21歳の息子がいた。ドユン(45)は、あの当時青梅に有った東京炭鉱で重労働に従事する息子に、怪我でもされたら大変という理由から生命保険を掛けさせた。そして…被保険者とし、ドユンを受取人とする生命保険契約を結んだ。


 だが、その3ヶ月後、息子Cを旅行に誘い出し列車で、知る人ぞ知るマニアの間で人気のなんとも優美な秘境の山奥に出掛けた。


 極一部のマニアにしか知られていない秘密の山並みだけあって人影もまばらだ。そして…やっと目的地に到達した2人は、早速夕日の拝める場所に疲れも忘れて向かった。


「凄く綺麗な夕日が拝める。また、そこから眺める景色は絶景だ」


「オヤジ早く連れて行ってよ!」


 こうして仮初めにも、親子になったばかりの2人は意気揚々と夕日と美しい景色の拝める場所に出掛けて行った。


「わぁオヤジ夕日が凄く綺麗だね!また山並みの雄大な事ビックリだね!」


「そうだろう。Cに是非とも見せたくてね」


 その時ドユンは、誰もいない事を確認して…そして…何を思ったのか?いきなり後ろからCを崖下に勢い良く突き落とした。

 

 ※その時に保険金1万円を手にした。(当時の大卒初任給70円程なので現在の紙幣に換算すると2500万円~3000万円位になる)



 妻のA子には、山奥でCが行方不明になった事を伝えて、懸命な捜索が開始されたが、知る人ぞ知るマニアに人気の秘境の山奥の崖下で、無惨な姿でCは発見された。


 A子にすれば、そんな秘境に連れ出さなければ、事故には遭わずに済んだのにという恨みやしこりが残り、その後A子とは上手く行かず離婚した。



 だが、このドユンどういう訳か、女には事欠かない。その2年後に芸者華奴と結婚したが、華奴はドユンが大阪猪飼野に出した屋台のような簡素なカルビ焼きとプルコギのオンマ食堂で仕事の最中に、家に侵入してきた何者かによって殺害されてしまった。


 やはりこの時にも、1万円の保険金がドユンの手に渡った。

 

 その悲しみも癒えないままドユンはオンマ食堂の店員B子と1年半後に結婚した。B子には連れ子が3人もいたが、実は長い間愛人関係に有り、B子にせがまれ結婚した。


 昭和40年の春先に結婚したのだが、結婚してまだ幾ばくも経っていないというのに、春先の乾燥した空気のせいであっという間に家に炎が燃え広がり、妻B子と連れ子3人は夜だったので炎に飲まれ命を落としてしまった。


 この大火で、ドユンはなんと5万円という大金を受け取っていた。それは結婚した連れ子3人と妻に掛けてあった生命保険、更には火災保険に加入していたからである。



 それでも立て続けに家族が災難に見舞われていたら、疑いの目が向けられなかったのか?


 保険会社が違っていたのも有るが、戦時中という事もあり、死に対して鈍感になっているのも有るが、どの事故もドユンが仕事中に起きている事もあり、疑いの目が向けられなかった。更に保険金受け取り額が平均的だった事も疑われなかった理由だ。また、山奥に旅行に出掛けた時には、2人きりだったが、大の仲良しで怪しい点が見受けられなかった。


 こうして、 家は建て直し新しい生活が始まった。だが、やがて第二次世界対戦は激しさを増して行った。


 このドユンは、元々とんだ食わせ者だった、そして…闇市でヂ―ミンと出会う。


 その頃、リンランは懸命にヂ―ミンの行方を追っている。


 それでも…何故加藤は自分の子供ヂ―ミンを邪険に扱うのか?


 実はこの加藤、おたふく風邪で子供は授からないとお医者様に言われていた。だからリンランを信じられなくなっていた。












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