第19話 今野の正体

 幾つもの仮面を持つヤンは今日は、神宮ホールディングスの絵梨花お嬢様と、時の経つのも忘れて車で遠乗りしてドライブを楽しんでいる。


 あれだけプレーボーイのヤンだったが、絵梨花との時間だけが唯一仮面を脱ぎ捨てる事が出来る時間だ。


 絵梨花は、ヤンが結婚しているなど知る由もない。


 最近は電話はもっぱらヤンからだ。絵梨花には「電話しないでくれ!こっちからする」


 普通の女性ならば今まで頻繁に電話交換していたのに急に「電話しないで!」と言われたら疑う筈だが、それだけ純真無垢で汚れのない真っ白な性格だからこそ余計に可愛く思うのだった。

 

 それは湯布院の老舗温泉旅館「華の水館」で会った時から全く変わらない。人を疑う事は全くない童女のような、そんな絵梨花が好きで堪らないヤンなのだ。


 だから、いつも色んな仮面を被っているが、絵梨花に会った途端全て脱ぎ捨てたくなるし、ならずに要られない。


「俺さ~変装する事、得意だぜ。俺様の仕事は変装する事なんだ。ワッハッハッハ~」


「隼人は田代総合病院の理事長でしょう?何、変なこと言っているのフフフ😄怒るわよ」


「俺さ~本当は田代総合病院の理事長じゃ無いんだよね?俺の実態知りたい?どっちさ?知りたい?知りたくない?」


「何を言っているの?バカ言わないで!」


 するとヤンが真剣な顔を向けて言った。

「絵梨花聞いて欲しい。俺さ…もう…もう…こんな事、絵梨花にまで嘘で塗り固めた…こんなの嫌なんだ!」


「ちょっと気持ちを落ち着けて頂戴!何を言い出すのよ?車止めて次のインターで止めて」


 こうして次のパーキングエリアに入った。


 そこはなんと、ひるがの高原だった。パーキング内には花々が咲き誇り、遠くに牧場が目に入り牛がゆったりと草を食べている。


 2人はひるがの高原のパーキングに車を止めて、雄大な山並や花畑を眺めながらパーキングを散策した。


 平日だったので人影もまばらだったので、ベンチに座り話を聞いた。余りにも隼人が神妙な面持ちだったので、出来るだけ人のいない場所を選んだ。


「一体何なのよ?」


「俺さ田代総合病院の理事長じゃ無いんだ。俺さ…事情があってお金がいるんだ。それで…ヤバい…ヤバい人間と関わってしまった。ウウ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクゥゥ😭俺どうしよう?どうにも…どうにもならないワァ~~~ン😭ワァ~~~ン😭」


 ヤンには、人に言えない秘密がある。

 🔶🔷🔶

 実はヤンの全てを知るには、今野という謎の男、あの男がキ―マンになる。


 実は今野は長谷川家が養子縁組した正真正銘の息子だった。だから…もう不妊治療に限界を感じた長谷川夫婦は妻が40歳の時にヤンより3歳年下の今野を養子縁組した。


 今野は医大に合格したばかりだったが、誠に不幸な事に、両親が未曾有の災害で家諸とも押し流されてしまった。幸い息子栄治だけ助かった。


 長谷川夫婦にすれば、医学生だった事もあり迎え入れたのだったが、両親が押し流される現場を目撃していた栄治は、現在の両親の期待に応えようとすればするほど、あの両親の押し流される現場を思い出し苦しいのだ。


 両親を何が何でも助けようとしたが、救助隊に制止され両親を助ける事が出来なかった。


 あの時両親が瓦礫に粉々に打ち砕かれ波に飲まれる姿を思い出すと、只々自分の不甲斐なさに、涙が止めどなく溢れ押さえることができない。


 そんな思いからどうしても立ち直る事が出来ずノイロ―ゼ気味になり、留年を余儀なくされた。そんな時に気の毒に思ったボランティアの女性が、度々訪れ精神的ケアをしてくれた。


 若い2人の事だ。いつしか一緒に出掛ける事も増えて行った。


 彼女にすれば医学生と付き合えば行く行くはお医者様の奥様、願ってもない話。そう思って付き合い出したが、いつも話す事は両親が波にさらわれる恐怖の話ばかり。その気持ちは痛いほど分かるのだが、結婚してからも延々精神的ケアに付き合わなくてはいけないのかと思うと気が遠くなる。


 実はこの女性、医者に目がくらんで付き合い出したのだが、付き合っていた彼氏がいたのだ。


 彼氏は普通の職業の明るく好みのルックスである。一方の栄治は、ノイローゼ気味で暗いし、話しも同じことの繰り返し。そして…さしてタイプではない、冴えないルックスだ。只医学生というのは魅力はあるが、留年してしまった。


 栄治はやっと立ち直り、勉学にも真剣に取り組めるようになったのだが、彼女の気持ちはとっくに冷めていた。そして…連絡が取れなくなってしまった。


 このような事情から栄治は益々塞ぎ混んでいった。   


 長谷川夫婦にすれば折角兄貴が亡くなり、田代総合病院を我が物にと目論んでいたにも関わらず、栄治には頭が痛い。とんだ誤算。こんな事情から余計にヤンを養子縁組にと願う長谷川夫婦。

 

 だが、両親の思惑に感づいた栄治は、このままだとこの田代総合病院から追い出されてしまう。


 やっと目が冷めた栄治だが、もう既に2年の留年生活を強いられていた。


 こうしてヤンの秘密を暴き出そうと躍起になっていた。

 長谷川夫婦にしても今さら養子縁組した栄治を追い出す訳にもいかないが、完全に跡継ぎはヤンにと目論んでいる。


 その目論みをいち早くキャッチした栄治。


 一見仲の良い義兄弟のように映るが、腹の中は怒りで一杯。こうしてヤンにくっついて歩く栄治。


 そしてヤンの両親の秘密を知った栄治は、留年の身の上だから時間は有り余る程ある。


 何故栄治が、老夫婦が殺害された現場を知っているのか?という事だが、実はあのヤンの両親の旅行は、只の旅行ではなかった。


 そこには、怪しい仕事が待っていたのだった。だから、それをヤンがぼやいていたのでヤンの両親の跡を付けていたのだった。


 そして…両親に打ち明けヤンのヤバい秘密を暴露して養子縁組させないようにヤンの両親の秘密を探ろうと付け回していた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る