第17話 戦後の日本
終戦直後の日本1945(昭和20)年、米の収穫量は大きく落ち込み、明治以来の大凶作になった。物資は圧倒的に足りず、人々は食料や生活必需品を求めて闇市に殺到した。仕事もなく、駅のホ―ムや町には失業者や孤児があふれた。
一難去ってまた一難、戦争が終わり、命からがら海外から日本に引き揚げてきた兵士や庶民らを待っていたのは、極度の食料不足と焼け野原だった。
戦争で行き詰まった日本経済。だが、思わぬ追い風が吹いた。朝鮮戦争勃発に伴い、1950(昭和25)年、朝鮮戦争の特需景気に伴う米軍からの注文が殺到する。
戦争から帰還した軍人たちは公職追放を受けて職にも就けなかった。当然、公務員や警察官、教師などには就けなかった。だが、思わぬ追い風で軍人たちにもやっと生活の見通しが見え始めてきた。
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元軍人の中野大佐は思わぬ追い風で、大手鉄鋼メ―カ―に勤務する事となった。
愛するリンランとの生活を夢見る元中野大佐は妻を失い、更には敗戦国となり不幸続きだったが、これでやっと幸せが掴める。そんな思いで一杯だ。
「リンランいつ結婚してくれるんだい?」
「分かってますよ。私だって今すぐにでも結婚したいですよ?ウフフもう少し…もう少し…💋」
「俺はリンラン無しでは生きていけない。こんなおじさんだから、いつリンランに捨てられるか、気が気じゃない。早く籍だけでも入れようよ。俺は確かに加藤中佐とリンランの関係に嫉妬していたが、リンランは本当は加藤中佐の強引な態度が大嫌いだったと聞いた時は安心したが、それ以上に驚いたのは、『戦争戦犯に掛けて加藤を殺して』と聞いた時は、一瞬リンランに恐怖を覚えたよ。でも話を聞いてリンランの気持ちが痛い程分かった。加藤に騙されて慰安婦にさせられ、生まれたばかりの赤ちゃんを殺されたんだろう?本当に加藤は酷い男だ!俺が偽装工作して加藤を絞首刑にしてやった。だって愛するリンランの為だったら、俺は何だってするさ」
「愛しているわ💋ウフフフ💖👄もっと…もっとウフフ…強く抱いて~」
「リンラン俺は…俺は…リンラン無しでは生きていけない。お願いだ!俺から…絶対俺から…離れないって約束してくれるかい。お願いだ」
それにしても…このリンランの真意が全く分からない。あんなに親身になりリンランに尽くしてくれた加藤中佐を、戦争戦犯に掛けて殺させるとは、リンランにはどんな意図があるのか?
第一慰安婦として連れ出したのは、全くの別人だったのに?更には赤ちゃんは殺害されてはいない。
リンランの真意はどこにあるのか?
元中野大佐は実直で正義感溢れる加藤中佐の事は、イヤという程知っている。だが、リンランの魅力の虜になった中野は、加藤がリンランと親しくしている事への嫉妬心はあったが、実は…リンランに頼まれて加藤を戦犯に掛けさせたのだった。本当は真面目で仕事熱心だった加藤を絞首刑にする事は何よりも辛い事だった。
一方の戦時中に慰安所で授かった息子でヤンの父は今どこに?
実は…この祖母リンランとヤンの父には想像もつかない事態が起こっていた。
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それでは、加藤中佐が絞首刑に課せられた経緯はどのような状況だったのか、順を追って見て行こう。
戦時中、捕虜の殺害を指示したとされた加藤は、いわゆるBC級戦犯裁判で裁かれ絞首刑を言い渡された。
だが、この一連の総指揮を取っていたのは誰有ろう中野大佐だった。思わぬ濡れ衣を着せられ絞首刑で命を落とした加藤中佐。
1945年3月10日の東京大空襲時、1機のB29が茨城県某村に墜落し、搭乗員11人のうち8人は墜落死、3人が捕虜になった。このうち1人は無傷であったが、もう2人の米軍少尉は重体であった。
彼はトラックで東京憲兵隊司令部に運ばれたが、空襲下の混乱もあって、どの病院からも引き取りを拒否された。その間、東部軍から加藤中佐とB軍医中尉が診察に来たが、加藤中佐は治療の指示を出したが、中野大佐が助かる見込みもないとしてB軍医を手当をせずに帰らせた。結局、憲兵隊が身柄を引き取ることになったが、処置方法に困り、中野大佐の指示で、翌々日に東京憲兵隊のA中尉と何人かの兵士が付き添って、憲兵隊司令部の近くの東京の某公園内へ連行し、防空壕の中で斬首し、ゴミと土の中に埋めた。
戦犯裁判の結果は、中野大佐は無罪で加藤中佐が絞首刑になった。その裏で中野大佐とB軍医との口裏合わせがされていた。
こうして加藤中佐がこの世を去ったことで、元中野大佐はリンランに近付いた。
この時代は華族制度が廃止され、更には戦争から帰還した軍人たちは公職追放を受けて職にも就けなかった時代。過去の栄光など只の紙切れ同然。只の一般市民となった中野なので両親も結婚に反対などしない。
※華族は、1869年(明治2年)から1947年(昭和22年)まで存在した近代日本の貴族階級。
こうして2人は結婚を前提に付き合い出した。
「リンラン俺と結婚してくれるかい?」
「ご両親が反対なさっていたのではありませんか?こんな台湾人でもいいのですか?」
「何を言っているんだよ。リンランは俺には勿体ないくらいだ。年齢も20歳以上も違うこんな俺でいいのかい?」
「当たり前ではありませんか?大佐は私には雲の上の存在です」
リンランは口では、さも結婚したいという口ぶりだが、だらだら結婚を後伸ばしにしている。
益々複雑怪奇な状況だ。
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