第16話 祖母リンラン


 慰安婦に限らず、当時売春に従事していた女性が妊娠した場合は、中絶を行っていたらしい。だいたい、当時の色街では、まともな店ならお女郎さんに定期的な婦人科の検診を受けさせていたので妊娠は確認できた筈だが、敗戦色が濃くなって来た終戦間近では、検診も儘ならない状況は有っただろう。


 性病蔓延を防ぐためと、妊娠に関するチェックのために軍としても、大事な兵隊が性病に罹って戦力低下をきたしては困るので、コンドーム(当時は衛生サックとか鉄カブトとか呼ばれたそうです)を用いるように指導していた。コンドームが日本で普及したのは、軍の慰安所のおかげと言われている。


 🔷🔶🔷

 慰安婦報告書の記録によると■利用日割り当て表 【 慰安婦は接客を断る権利を認められていた。接客拒否は、客が泥酔している場合にしばしば起こることであった。】 


 慰安婦達は 客が泥酔している間に、接客拒否出来る程、我が儘だったという事だ。 それだけ軍による束縛はされてなかったという事になる。


 過酷な労働環境の証言も多く聞かれるが、”歩合制”であれば、数をこなして稼いだ人もいる。


 親の借金のカタに売り飛ばされた人もいれば、祖国の貧しい暮らしよりも 贅沢な暮らしを自ら選んで、欲が深い人は人一倍稼いだ人もいる。中には豪邸を建てたという人もいるから。 人の欲というものは、今も昔も変わらない。



 また、高級将校相手の日本人慰安婦などもいたようで、その中には朝鮮人、中国人、フィリピン人の選りすぐりの慰安婦もいた。


 その一人が、台湾人のヤンの祖母だった。士官のお気に入りとなった祖母は、士官学校を優秀な成績で卒業していた中佐加藤の子供を身籠った。そして…ヤンの父親が誕生した。


 元々台湾は1624年から1662年までの38年間オランダ統治時代だった事もあり、華やかな容姿の人々も少なからずいた。特にヤンの祖母の、その美しさたるや尋常じゃない美貌を誇っていた。


 ヤンの祖父は38歳で中佐の地位にあったエリ―ト中のエリ―トだった。

それでは、エリ―ト加藤と慰安婦に身を落としてしまったリンランとはどうして知り合ったのか?


 祖母リンランは天龍楼を経営する夫婦の下に誕生した兄と妹の2人兄妹だった。町内でも評判の美人だったリンランは、教師の彼と結婚の約束をした仲だった。


 だが、台湾は日本統治化にあり戦争末期の悲惨な現状化慰安婦として駆り立てられてしまった。


 だが、際立つ美貌に幹部たちの慰み者となり生きて行かなければならなくなったリンランは、只々泣くばかり。


 だが、これだけの美貌の持ち主で、中華料理店を3店舗も経営する家のお嬢さん。例え統治化の台湾といえど、将校の仲間内でも真剣に交際を考える者も当然の如く現れた。それが加藤中佐だった。


「リンラン俺は真剣だ。こんな場所から一刻も早く出してやる。俺に付いて来てくれるかい?」


「私もこんな場所に騙されて来てしまいました。一刻も早くこんな場所から出たいです」


 だがリンランを好きになったのは、他にもいた。それは最近肺結核で妻を失った中野大佐だった。リンランの余りの美しさに胸のときめきを抑える事が出来ない。だが、華族出身のお家柄、「台湾人などとんでもない」大反対にあってしまった。


 当然加藤の家でも大反対されたが、加藤は家も何もかも捨ててでもリンランを選んでしまった。

 今まで38年間勉学に打ち込み親の望む良い息子を演じて来たが、一瞬にしてそんな事よりも大切なもの、リンランしか見えなくなってしまった。


 実はこの加藤の家は、先祖伝来の由緒正しい地主のお坊っちゃんだった。


(地主だから何だ。そんなものどうでもいいリンランだけが全て!)


「この家の長男が、統治化の台湾人との結婚なんかとんでもない!そんなに結婚したいのなら勘当だ!」


 両親に大反対を食らった加藤だったが、それでもリンランに対する熱い情熱は失せるどころか、余計に燃え上がってリンランを慰安婦宿から自分の家の、空き家に連れ出し、そこで仮初めの所帯を持った。


 だが、日本は敗戦国となり、あらぬ濡れ衣を着せられ、戦争戦犯に掛けられ、加藤は呆気なくこの世を去ってしまった。


 実は…戦争戦犯に仕向けたのは、あの中野大佐だった。


 中野大佐も敗戦国日本において、今の自分に何が残っていようか?台湾で今まで一度も味わった事がない程の、焼け付く程の恋に身を焦がした。あのリンランに対する熱い情熱は失せるどころか、加藤に奪われ恋に破れた苦しみと嫉妬で、この苦しみを抑える手立てが見付からなかった。そこで加藤に戦争戦犯の濡れ衣を掛け裏切った張本人として通達した。


 こうして加藤は戦争戦犯に掛けられ死亡した。



 リンランは本当は婚約していた教師を愛していたが、戦争で命を落としていた。その苦しみから救い出してくれたのは、誰有ろう加藤だった。


 彼の死から立ち直れたのも、ひとえに加藤のお陰だった。


 こうして、加藤からの再三のプロポーズに加藤との将来を夢見るリンラン。だが、折角安住の地を見付けた矢先に、強引ではあったが結婚の約束までした加藤に死なれ、一緒に死にたい思いだ。悲しくて辛くて只々泣き明かすばかり。


 そんな時に中野大佐が目の前に現れた。この恋の結末は……?


 

 ※この慰安婦の条件は、どのように選別されていたのか?


 国内からの徴集は21歳以上の性売買に従事する女性でなければならなかった。しかし、実際には21歳未満の女性や性売買に従事していない女性を連れていったケースもあり、誘拐や詐欺、人身売買が横行していたことが証言や文書からも明らかになっている。


 この慰安婦事件に対しては、日本軍は業者への便宜を図るよう日本の各県警察に依頼をしつつ、軍の関与を隠ぺいするように指示した警察資料も残されている。


 また、植民地朝鮮・台湾の場合は、

知人、町内長、工場長、村にやってきた日本人などの「お金が稼げる仕事がある」「工場で働く」「看護婦の仕事がある」という言葉に騙されて慰安所に送りこまれたことを、被害を訴えて名乗り出た女性たちの多くが語っている。


 憲兵に「ちょっと来い」と言われ連れていかれたという証言もある。

連行に業者が関わった事例が多々あったが、その業者の選定・統制には軍や憲兵、朝鮮総督府が関与していた。また、女子勤労挺身隊として働かされていた富山県の軍需工場不二越から逃げ出したところを憲兵に捕まり、慰安所に連行された女性もいる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る