第6話 行方不明
ホステスのアヤは、隼人が帰った後折角久しぶりに会えたのに、帰ってしまった隼人を恨めしく思いながらも、やがて涙に暮れ疲れきって眠りについた。
するとその時、オ―トロック式の部屋に忍び込んで来た二人連れに、有無を言わせぬ形で目隠しをされ、小一時間ぐらい経った頃、車が止まってアヤは薄暗い部屋に閉じ込められてしまった。
この犯人の目的は一体何なのか?
そう言えば隼人には、金持ちの女社長華子が居て既に婚約していた。
只のホステスアヤと女社長華子どちらを取るかと言えば、それは着実に会社を拡大させ年商も莫大な華子に軍配が挙がる事は明白。
しつこく結婚を迫るアヤが邪魔になっての強行なのか?
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刑事には色々な役割分担がある。
犯行の点と点を結び、署と署が助け合い、力を合わせ、境界のない犯人の素早いアシを封ずる為に、日夜汗水たらし懸命に犯人を追っている。
―これが警察組織である―
ホシを果敢に追う組もある。またドブ川や辺鄙な山奥で凶器を探す組もある。更には犯人の犯行動機の裏付けに懸命な組もある。
また人生経験豊かで温厚なA係長、いささか性急であるが正義感の強いB刑事、いぶし銀のようなC部長、それぞれが個性、特徴を出し合つてみごとに調和する。そこには、ナワ張りもなければ、個人プレーもない。犯人探しに懸命な組織の姿がある。
博多署の刑事田中は、まさに刑事に有りがちな、いささか性急であるが正義感の強い刑事である。それと、もう一人新人刑事で正義感と熱意だけは誰にも負けない男だが、何をやっても空回り状態の三田刑事のコンビが、この不可解な難事件に取り組む事になった。
「中洲のクラブ蘭に勤務していた森山亜夜子というホステスが、もう3日も出勤していないらしい?」
「聞く所によると、中洲ナンバー1の人気を誇るホステスだったらしい」
「それにしても一体どこに消えたのか?」
「アヤさんには、大物政治家のパトロンがいたらしい。早速当たって見るとするか?」
二人は車を走らせ福岡市内の現在環境大臣の要職に就いている、大谷事務所に赴いた。
政治家として決して表に出したくない事案ではあるが、そんな事に臆する事なく不安気な表情の大谷大臣が、心配そうに対応に出てくれた。
「アヤとは頻繁に連絡を取り合っていたのだが、かれこれ一週間連絡がつかない。一体どうなっているのか、心配で心配で…」
「本当ですね。何か?アヤさんの交友関係で最近問題になっているような事は?」
「それが…いつも、とても明るい…そんな問題を抱えているなんて…思いも寄らない話しです」
二人は今度はホステス仲間で親しかったと聞いていた、レミというホステスに問い質してみた。
「本当に心配しているんですよ。アヤどこに行ってしまったのだろうか?でも…あの…あの男……何か?会社経営の凄く羽振りの良い男で…確か?山本…山本隼人という男と付き合っているのじゃないかな?ホステス仲間は皆山本に興味津々だったけど…アヤ一本で、私達は相手にされなかったので…」
「その山本の会社は、どこにあるんだい?」
「そこまで…詳しいことは、分かりません」
「嗚呼…どうもありがとね」
二人はこの怪しい山本という男の、手掛かりを追った。
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警察は人の名前だけで住所とか電話番号を特定できる特権がある。
正確には、警察が調べるのではなくて、役所とか携帯会社に問合せをできる権限がある。やらせたり調べさせたりする事ができる。
だが、山本隼人という男は、九州だけで五名もいた。会社経営が二名でサラリーマンが二名子供が一名、そして…調べる中で分かった事だが、田代総合病院の理事長と親しくしているらしい。
会社経営の同姓同名は居るには居るが、年齢的に合わない。更にサラリーマン一名は海外に出張中で、もう一名は年齢が違い過ぎる。そこで田代総合病院の張り込みを行う事にした。
ホステス仲間のレミがいうには、山本は超が付く程のイケメンとの事。張り込み出した夕方、努力の甲斐もありやっとその田代理事長に会う事が出来たが、田代という男は山本とは違い決してイケメンではない地味な男だった。
考えて見れば酒の席で本当の正体を、明かす人間がどれ程いるかと言う事だ。こんな嘘がまかり通る水商売の席で、バカ正直に身分を明かす者が、どれ程居ようか?
それでは「山本隼人」を名乗っていた男は誰だったのか?早速田代理事長に声を掛けた刑事田中。
「あっすみません。警察の者だが、田代理事長ですか?少しだけ話しを聞かせ下さい。あなたは、山本隼人さんと親しくしていますね、山本さんと一緒にクラブ蘭を利用された事はありますか?」
「いえ?そのようなお店には、一度も行った事がありません」
それではあのイケメン山本隼人は、誰だったのか?
だが、山本隼人を名乗っていた男は、この田代総合病院とは、切っても切れない関係にあった。
田代理事長は本当は全て分かっていた。だが、その事実を隠す必要があった。そこには、想像も付かない深い真実が隠されていた。
益々謎多き深い迷宮に入り込んでしまった怪事件。
※変装する事は刑事にとっては、時として重要な事だ。尾行、張り込みは刑事の専売特許。時にはスーツ姿の営業マン、また現場作業員、時にはチラシ配りのアルバイトに扮して尾行や張り込みをする。 変装のコツはなんと言っても「現場に溶け込む」ことだ。不自然ではない恰好で、 その場に溶け込む事が重要。
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