第4話 心臓移植



「心臓移植手術を受けるしか手立ては有りません」


「はい…分かりました。お願い致します。そんなに病気が重いのなら仕方ありません。臓器提供を待ちます」


 拡張型心筋症に陥った息子の為に、藁をも掴む思いで大学病院の門を叩いた母だったが、結果は思いの外重症で、大学病院の一室で涙に暮れる母。


 大体臓器移植希望者の待機年数は、心臓で3年半近く掛かるらしいが、急を要していた家族だったので、臓器提供者は思いの外早く現れた。どんなツテが有ったか分からないが、僅か3ヶ月で臓器提供者が現れた。


 実は、この臓器提供者は35歳の死刑囚で、アメリカの連続殺人犯のものだった。

 どうも…細胞記憶というものが現実にあるらしく、性格が提供者に酷似して行く傾向があるのだ。


 この心臓移植手術を受けた人物は誰だったのか?


 🔶🔷🔶

 そういえば、天神の最上階タワマンの一室で逢い引きしていたアヤと隼人のその後は、どうなったのか?

 

 隼人は田代総合病院の理事長に収まっている筈だが、他の業種にも手を出しているのだろうか?


「アヤと結婚する為には…前から話しているように、今の事業をもっともっと大きくしたい。アヤを幸せにする為には、取り敢えず二百万用立てて欲しい!」

 

 このように話していた隼人だが「事業」という言葉が引っ掛かる。ましてや田代総合病院の理事長に収まっている隼人が、何故お金の催促をするのか?それから何故?田代総合病院の理事長だと言わないのか?そして…田代ではなく、山本隼人と名乗っていた。


 アヤに近付いたこの隼人は、本当に隼人なのだろうか?


 それとも…全くの別人なのだろうか?


 

 🔶🔷🔶

 隼人とアヤの出逢いは、隼人が中洲の「クラブ蘭」を訪れたのが最初だった。

 

 一際目立つイケメンに加え、持ち物は全てブランド物で統一され、更にそのキップの良さ。そして…いつも、もう一人地味で端気の無い冴えない男を引き連れやって来るのだが、高級ボトルを惜しげもなくキ―プ、そして一気に飲み干す豪快な飲みっぷりには驚かされた。

 

 こんな低空飛行を続ける日本において、豪放磊落に湯水の如くお金を落としてくれる隼人は、なんとも心強い貴重な存在。

 

 実は、アヤには政財界の大物パトロンがついていた。それだけ九州随一の歓楽街でも名を馳せた、評判の売れっ子ホステスアヤ。


 その美しさたるや、一度目にしたら忘れられなくなる美女。和服姿のアヤの美しさは、それはそれは美しい、花に例えるならば祖祖とした百合の花、イヤ~大輪の花を咲かせる華やかな牡丹とも言える、なんとも艶やかな美しい女。


 隼人もアヤの美貌の虜となってしまったのだろうか?そうでなければあれだけ尋常じゃないお金の使い方はしない筈。



 今までの隼人というと、どういう訳か、タイプの女というより、金になりそうな女を探している。そんな時に、金持ちをいとも容易く魅了して離さない女がいると聞き付け、この中洲にやって来た隼人。


 隼人は自分の魅力を否応なしに、知らされていたし、イヤという程知っていた。


 それはどういう事かというと、どんなに鈍感な隼人でも一方的な告白、電話交戦、更には少年の頃から学校でも、成長して街を歩いていても、レストランに入っても、否応なしに言葉で感じ取り、熱い視線で感じ、最初の内は好きでもない冴えない女たちの言葉の数々、言動に辟易し、うんざりして嗚咽を覚える程だったが、それでも…度々美味しい思いを味わうようになると、いつの頃からか…これは金になる。使える。そう思うようになった隼人。


 隼人の千里眼が光った。今までイヤという程女を見て来た隼人は、金の成る木アヤを見逃す筈が無い。


 🔷🔶🔷

 アヤは湯水の如くお金を落としてくれ、更にはモデル並みのルックスの隼人にお客様以上の感情を抱くようになって、お客様である事は度外視してまで会いたくなっている。


 そして…お店に来てくれない日が続くと不安で押し潰されそうになっている。


 もうお客様という垣根を超え、激しい感情剥き出しの只の女になってしまったアヤ。


 こうして隼人の思うツボにはまってしまったアヤは、肉体関係に溺れ不安定な男女関係を維持する為に、今度は隼人の為に湯水の如くお金を使うようになってしまった。


 あの日、隼人にお金の催促をされ200万円渡し、結婚の約束をしたにも拘わらず、アヤは行方不明になってしまった。


 アヤは、隼人と結婚したい以前に、以前からお店を持ちたいとしきりに言っていた。そして…パトロンから資金援助の話が出ていた。


 長年のクラブ経営の夢を捨て、更には、あんなに隼人との結婚を夢見ていた筈なのに、どこに消えたのか?










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