第2話 男と女



 

 隼人の父は何かあった時の為にと、遺言書を残していた。そこには、妻と子供の為に土地家屋や預貯金などの配分が事細かに記されてあったが、両親と弟が亡くなったので隼人が全て相続する事になった。


 それでも、カンニングという大それた事を仕出かした隼人だったが、悲劇に見舞われたまだ二十一才の隼人の未来を案じ、教授も余りにも気の毒に思い胸三寸に納め表沙汰にはしなかった。


 表向きは単位が足りない。付いていけないという理由で自主退学した事になったが、教授の強い進めで辞めさせられた。 だが、医学部除籍同然の形で辞めさせられた隼人に何が出来よう?

 

 そんな時に父の妹夫婦も病院に携わっていたので協力して、病院経営の辣腕を振るう事となった。


 当然病院の経営権は父が持っていたので、息子隼人が引き継ぎ理事長となった。そして…今までは副院長として田代病院の経営に携わっていた妹の夫が、院長の座に就いた。


 こうして何事もなかったかのように月日は流れた。




 🔶🔷🔶

 五年の歳月が流れた。


 24歳の神宮絵梨花は、ビジネスホテル神宮や老舗料亭「神宮楼」他喫茶店などを多角経営する神宮ホ―ルディングス社長のお嬢様で現在は料亭「神宮楼銀座本店」の手伝いで、午前11時に出勤して午後7時には帰省する、そんな生活サイクルに追われている。


 妹と2人姉妹なので行く行くは、姉妹で協力してこの「神宮ホ―ルディングス」を盛り立てて行こうと思っている。


 絵梨花は過去に二年間修行の為、九州地方にある湯布院の老舗温泉旅館で修行をしていた。その時に両親と弟を失い傷心の医学生隼人と知り合った。


 医学生隼人とは一体どういう事なのか?隼人は学力が付いていけず、私立の雄K大医学部を退学していたの筈なのだが?



 🔷🔶🔷

 二年の修行期間を終えて現在は、銀座本店のマネージャーとして修行に励んでいる絵梨花は、湯布院時代に隼人と知り合いグループ交際をしていた。


 そして…絵梨花は、今隼人と友達以上恋人未満の関係にあり、その時のアルバイト仲間で、隼人の友達謙介と謙介の彼女李々子も一緒にグループ交際が続いていた。


 

 それでは、隼人の現在の状況はどのようなものなのか?


 実は、隼人は両親と弟が亡くなったので、法外な保険金と遺産を手にしていた。更には類い稀な容姿に加え、身長が百八十cm以上もあり、サラサラロングヘア―のク―ルで知的な雰囲気を醸し出す何とも魅力的な、超イケメンに変貌を遂げていた。


 また、福岡の大病院田代総合病院の理事長にして、このイケメンぶりに女性たちは只々釘付けになっている。


 🔶🔷🔶

 ある真夜中のお洒落なマンションの一室に、淡い間接照明が怪しげに揺らめいている。するとその時、何かしら…訳ありの男女の影が重なりあった。


 熱い💋口づけを交わした二人だったが、男はその余りにも強引過ぎる要望に辟易したのか、一旦中断してベランダに出た。


 何とその男は隼人ではないか?福岡の中心部である天神の高級タワーマンションの最上階一室から、ネオン瞬く中洲随一の歓楽街を一望しながら何とも美しい夜景の数々に見入っている。

 

 すると女が催促するように手招きしながら「ベッドに来て」と待ち遠しそうな表情を隼人に向けた。


 だが、冷めた表情の隼人はタバコを取り出し憂鬱に顔を歪め、タバコを吸いながら、尚も美しい夜景を目に焼き付けている。


「ねぇ…抱いて~💖👄」


 仕方なく物憂げな表情でもう一本のタバコ🚬に火を付け、肌も露な黒のランジェリー姿の怪しげな女に渡した。


 タバコを細い指先に挟み、煙を揺らしながら「ねぇ?ねぇ?結婚してくれるって言っていたけど…いつ…いつ…結婚してくれるの?」


 隼人は背を向け、顔をしかめ、迷惑そうな顔をしているが、直ぐ様くるりと女性に顔を向けて、辛そうな表情で女に言った。


「その為には、結婚する為には…前から話しているように、今の事業をもっともっと大きくしたい。アヤを幸せにする為には、取り敢えず二百万用立てて欲しい!」


「本当に…本当に…二百万有ったら結婚できるの?」


「そうさ!」


 二人はベッドで重なり合い、夜は更けて行った。


 

 

 


 














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