第4話 混乱

 希くんとファーストフードを食べてから午後に帰宅すると、幸太が家のリビングにいてお母さんと談笑していた。

 テーブルの上には法事のお土産らしきお饅頭の箱が置いてある。


「幸太、ちょっと……」


 私は目で合図をして、幸太と一緒に二階の自室に上がった。

 そこで今日の話の経緯を説明する。


「はぁ?なにそれ、イケメンプロジェクトに入ったぁ?」

「うん。なんかよくわかんないけど、そういうことになった。私はイケメンアレルギーを克服するのが目的」

「別に克服しなくてもいいんじゃないの?僕には出ないしさ」


 幸太がちょっと不貞腐れたように言う。


「そうなんだけど……いろいろ不便だったから。この際頑張ってみようかと思って」

「わかった。じゃあ、僕もそれ、入る」


 幸太が即答する。

 今度は私が驚く番だった。


「入るって、どうして……」

「次に何かやる時、教えて。僕も行くから」


 幸太は謎にやる気だ。

 私のイケメンアレルギーは、本当に治るかな?

 なんだか急に心の中が忙しく、でもなぜだかとてもワクワクしていた。


    ☆


 放課後、下駄箱で待っていてくれた希くんと合流して、幸太も「イケメンプロジェクト」に入ってもいいか聞く。

 希くんは、ちょっと考えてから言った。


「まぁいいよ、入れてやるよ。昔、巧のヤツが理子ちゃんと一緒に幸太までいじめてた詫びだ」

「それはどうも」


 この二人、なんとなくバチバチしている。

 そこへ、背後から知っている声がした。


「巧、もう帰る?俺、家の鍵忘れたんだけど、お前持ってる?」


あぁ、また間違えられてる。ここにいるのは希くんだけど?と笑いながら振り返って、私は混乱した。


巧と希くんと同じ顔をした男子がそこにいた。でもその子は、私の知ってる巧とも、希くんともなんだか様子が違う。

 髪は茶髪で、片耳にピアスの跡がある。学ランも気崩していて、はっきり言ってちょっとチャラい。

 この兄弟はもしかして、三つ子だった?!

 でも小さいころからそんな話は聞いたことがない。


「げっ、希。なんで来たんだ、お前」


それを聞いて、私の混乱はさらに深まった。『のぞみ』??


「……希くんはあなたじゃないの?」


 希くんがひどく慌てて、後から来た男子の肩を叩く。


「希は急に思い立ってイメチェンしたんだよな!そして、実は俺は巧でした!また騙されたな!」


だましてた……?


「は?俺小学校からこんなじゃん、何言ってんの?巧」


「……」


 私は、なんだか嫌な予感がしてきた。

 恐る恐る、後から来たほうの彼に向かって話しかける。


「希くん?昨日は私と話した……?」


「ん?昨日?なんのこと?待って、君見たことあるな。君は幼稚園の頃巧がよくいじめてた子、えーっと、リカちゃんだっけ?」


「理子です」


「あ、そうか!ごめんごめん」


 この人が本当の希くん?

 じゃあ、ここにいるのは結局『巧』ってこと!?


 私はずっと『希くん』だと思っていた人に向き直る。

 じっと見つめる。

 彼は黙り込んだ。

 さらにじーっと見つめる。

 圧に耐えられなくなって、その人はガバッと頭を下げた。


「すまん!俺は巧だ。理子が最初に『希』だと思ってたのも、どっちも俺だったんだ!」


 途中からなんとなく分かってきていたことだけど、本人の口から真相を聞いて呆然とする。


「あの、理子、理子ちゃん……?」


 ということは、私が心を開きかけてたのはあのいじめっ子の巧だったってこと……?


「俺は前とは違う人間だって分かって欲しくてさ、それにはまず近づかないといけなかったけど、理子が余りにも『イケメン』に拒絶反応を示すもんだから……。かつて優しかった希ならまだイケるかな?なんて思って……」


 『希くん』改め『巧』は必死で言い訳している。

 それを聞いていたら、なんだかお腹の底から笑いが込み上げてきた。

 下を向いて肩を揺らしているのを、怒りで肩を震わせていると思ったのか、巧は必死で言い募る。


「本当に悪かった!ガキの頃のことも含めて、謝る。許してください。俺がバカでした!!」


 しまいには土下座までしている。

 私は一番気になったことを口にした。


「イケメンプロジェクトは?」

「へ?」

「イケメンプロジェクトの話も、嘘なの?」


 巧は、呆気に取られた顔をした。


「あれは……本当の話だ。俺は昔のクソガキだった巧じゃなく、生まれ変わったんだ。中身までイケメンになる!」

「じゃあ、プロジェクト継続だね。よろしく!」


 私は巧にグーにした拳を差し出した。

 巧がほっとしたように笑顔になり、拳を出した。

 二人で二度目のグータッチをする。

 この前よりも少し長くできたかな、と思った瞬間、


「理子、蕁麻疹が出るよ!」


 幸太が私の腕をつかんで引き離す。


「なんか面白そうだねぇ?イケメンプロジェクト?俺も参加しちゃお」


 そこへチャラい希くんが乗っかって来る。


 どうでもいいけど、イケメンプロジェクトって具体的に何をすればいいの?!

 そしてそんなことで私のイケメンアレルギーは治るのだろうか?

 よくわかんないけど、こんなふうにして『イケメンプロジェクト』は始動したのだった。





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イケメンはキライ!…なのにイケメンプロジェクト?! 天海透香 @Amagai-m

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