第3話 ブレスを噴く
振り向くと、そこにいたのは、体長10mほどの大きな狼だった。
「ちっ、ライドか。何しに来た」
エンジは狼をギロリと睨み付け、さらに赤色のオーラを纏い始めた。
「おいおい、そんな怖い顔するなってぇ、相変わらず喧嘩っ速いなぁ。俺はただ、可愛い子がいると思って見にきただけだぜぇ?」
「嘘つけ。どうせお前のことだから、新しい獲物を探しに来てただけだろうが」
「どうかな。で、その子は誰だぁ?余所者は排除するんじゃなかったのかぁ?」
「そういう訳にもいかなくなったんだ。おら、さっさと帰れ」
「ふーん」
ライドはそう言いながら上を向いた。
「やーだね」
その時、ライドは一瞬でドラゴンの背後に移動し、口で咥えあげた。
「え?ちょっと!?離して!!」
「ははは、暴れんなって。大人しくしてろぉ」
「……」
エンジはその様子を静かに見ていた。
「なんだなんだ?助けなくて良いのか?このままだと食っちまうぞ?」
「……やっちまえ」
「あ?」
その瞬間、ドラゴンはライドの首を掴み、投げ飛ばした。
「ぐはっ!?」
ライドは見事にひっくり返ってしまった。
「はぁ、やっぱヤベェなあいつ……」
エンジはため息をつくと、ライドは起き上がり、ドラゴンを睨む。
「てめぇ……、調子乗ってんなよ?」
ライドがそう言うと、全身から紫色のオーラをほとばしらせる。そして口内に炎を溜め込み始める。周囲からおびただしい量の紫色のエネルギーが集中的に集まってくる。
「あ、おいゴラッ!また森を吹き飛ばす気か!?」
「おうよ!こいつとついでに消し炭にしてやんよォッ!!!」
ドオオオン!!
ライドの口から凄まじい威力の火炎放射が轟音とともに放たれた!それはライドの身体の倍ほどの大きさがあり、一瞬にしてドラゴンを飲み込んだ。
「このやろう!!」
エンジが一瞬で猛突進して、ライドを横から押し倒す。
「うおっ!?」
エンジはそのままライドとともに転げ落ちる。ライドの火炎放射は中断されてしまう。
「チィ、邪魔しやがったなお前」
「お前こそ、毎回森燃やなって言ってんだろうが!」
「ハハッ、森の心配か?あいつはもうとっくに……」
ライドは唖然とした。火炎放射で消し炭にしたはずのドラゴンは無傷で生き残っていたのだ。
さらに、それだけではない。受けた火炎放射を全て吸収し、自身の身の周りに纏わせているのだ。そのため、ドラゴンを通り過ぎて森を巻き添えにするはずだった火炎放射も、全てドラゴンが取り込んでいるため、ドラゴンより後ろの森は全て無傷だった。
「うわぁ、凄かった。でも、これどういう状況なの?」
ドラゴンは呑気に呟く。その姿を見てエンジはさらに驚く。
「お前……、まさかあの攻撃全部吸収したっていうのか?」
「吸収?うーん、そうなるのかな?」
「……マジかよ。こんな奴見たことないぞ……」
唖然。もうみんな唖然。
「それよりさ、さっきのやつ、ボクもやってみたいな」
「……は?」
エンジが唖然とする中、ドラゴンは息を吸い込み始めた。
ギュオオオオオオオオオオッ!!!
ドラゴンの口に超高密度に圧縮されたエネルギーがなだれ込んでくる。その量も尋常じゃないほど膨大で、ドラゴンの体積をも遥かに超えている。ドラゴンの体内でさらに圧縮されていく超高密度の魔力は、しだいに小さな太陽のような眩しい光を放ち始める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオ!!
ドラゴンの猛烈なチャージは辺り一帯にとてつもない轟音を響き渡らせ、凄まじい熱風も吹かせ、さらに大規模な地震も発生させた。
「え……、あ…、ははっ……」
自身の総魔力量がほとんど無に見えるほどの膨大な魔力を目の当たりにしたライドは、乾いた笑いしか出てこなかった。その魔力の持ち主であるドラゴンの砲口は自身に向いている。ドラゴンの膨大は魔力によって放たれるブレスの威力は想像できないし、したくもない。
あっ、俺、死ぬんだ……。ライドはもはや、逃げることも抵抗することも忘れてしまい、呆然と立ち尽くしていた。
「うおお!!ちょっと待てぇ!!」
エンジは慌ててドラゴンに駆け寄り、ドラゴンの砲口を真上に向けた。とっさの判断だった。もうもはや誰にもブレスの発射を止めることはできない。であれば、なるべく被害の少ない方へ向けて発射させるのみだ。そして、その判断は正しかった。
直後、ドラゴンは全身にありったけの力を籠めて、集めた膨大な魔力エネルギーをすべて吐き出すように、全力フルパワーでブレスをぶっ放した!
ズギドガアアァァァァーーーーーン!!!
ドラゴンの口から極太の超高エネルギーレーザーが発射された!その直径はなんと50km!先程のライドの火炎放射がごま粒に見えるほどに巨大だった。
レーザーは辺りに爆風と衝撃波を与えながら宇宙の彼方へと突き進んでいく。周囲の木々が軽々と吹き飛ぶ。ブレスの反動もとてつもなく凄まじく、足元の地面が大きく陥没し巨大なクレーターとなった。ブレスはまるで太陽のように、辺り一帯を真っ白になるほど明るく照らす。
その様子は地球から見れば超巨大火山の大噴火、宇宙から見れば地球から放たれた一本の光、エンジたちがいる場所から見れば巨大隕石が間近に迫っているかのような光景だった。
「うおあっ!?……くっ!ぐおお!!絶対頭動かすなよ……っ!」
エンジは圧倒的な力を見せつけられ、吹き飛ばされそうになりつつも、ドラゴンの極太ブレスの軌道が森に向かないように細心の注意をはらい、全力でドラゴンの頭の向きを固定していた。
一方ライドは、四肢の力が抜け横に倒れてしまっている。口をぽかんと開け、目を見開いたままドラゴンの超越的な絶大な力に圧倒されていた。
極太ブレスは1分ほど放たれ続け、次第に細くなっていく。やがて完全に収まる時には、湖はすべて蒸発していて、魚も干からびていた。ドラゴンを中心に巨大なクレーターもできていて、さらにその周囲には地割れも発生してあた。
ドラゴンは疲れたのかパタリと倒れて眠ってしまった。その表情はどことなく満足そうだった。
エンジとライドは倒れたドラゴンを見つめると、やがてお互いに顔を見合わせた。
「……やばいよこいつ。俺、あんなの食らってたら絶対死んでたよ。マジでありがとうエンジ……」
「まあな。だが、このまま放っておくわけにはいかないな」
「は?おい、どうするんだよ?」
「手加減の方法とか、この森で暮らす方法とかを教えんだよ。幸い、こいつは産まれて間もない。要するに赤ん坊、教えたことは覚えようとするトシだ」
「……いや、赤ん坊であの馬鹿みたいな力持ってんの?やっぱヤバいって」
「うるせえ。とにかく俺達が面倒見てやるっつってんだから、文句ねえだろうが」
「勝手に俺も入れるなよ。自身ねぇよこんなの」
「とにかくやるんだ。先のこと考えて臆病になってる暇なんかねぇんだよ!」
「……うー、……そうだな。……初めてお前が頼もしいと思ったぜ」
「?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ。」
「あっそ。それに、こいつが俺等の味方になってくれたら、めちゃくちゃ頼もしくないか?」
「あーー……、それもそうか……」
「よし、決まりだな」
普段は仲の悪い2匹。しかし、この非常事態を前に、お互い結託するしかなかった。
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