第2話 魚を採る

 ドラゴンと熊は向かい合って座っていた。

「ここはエンジの森だ。俺の名前はエンジ。つまり、ここは俺様の森だ。この森では俺が一番強いからな」

「へぇ、キミが一番強いんだ」

「……なんだよ、文句あんのか?」

 挑発的な態度をとるドラゴンに対し、怒りを覚えるエンジ。


 その時、熊のお腹が鳴った。グゥ〜という間の抜けた音が響いた。

 恥ずかしそうな顔を浮かべながらお腹を押さえるエンジを見て、呆れたように笑うドラゴン。

「……腹減ったな。絶対さっき動いたからだな」

 エンジはそう言うと立ち上がる。

「お前も一緒に来るか?」

「うん」


 ドラゴンがエンジについて行くと、そこには小さな湖があった。

 エンジは湖の中に入ると、その場で止まった。

 魚が不用意にエンジの近くを通ったその瞬間、一瞬でその魚を捕らえた。あっけに取られるドラゴン。そして、エンジは魚を数十匹ほど口に咥えて湖からあがった。

「うわぁ、すごい」

「……言っとくが、全部俺のだぞ」

「ええっ!?なんで!?」

「自分の食い扶持くらい自分で採れ。お前ならいけるだろ?」

「まあ、多分大丈夫だけど……。でも僕、狩りとかしたことないよ」

「……マジで言ってんのか?じゃあお前は今までどうやって生活してきたんだ?」

「それが、分からないんだ。この森で目覚める前の記憶がないんだ」


 ドラゴンはそう言うと、エンジはドラゴンに顔を近づけた。

「な、何?」

「……お前よく見たら、記憶がないっていうより、今日産まれたって感じだな」

「どういうこと?」

「たまにいるんだよ。魔力が集まって勝手に産まれる個体ってやつが。お前はそいつらと同じ匂いがする」

「魔力?」

「おっと、赤ん坊には分からんか。とにかく、0歳の誕生日おめでと」

「なんか馬鹿にされた気がする」

「気のせいだ。ほら早く採ってこい」

「分かったよぅ」


 ドラゴンはそう言うと、湖の中に潜って行った。そして小魚を見つけると、真っ先に向かって行った。しかし、魚が一目散に逃げ出し、いなくなってしまった。

「えぇ……、どうしたらいいの?」

 ドラゴンはふと、下の方を見る。そこには、ドラゴンの身体の半分ほどの大きさの魚が泳いでいた。

「あれなら捕まえられるかも」

 ドラゴンは早速行動に移った。


 まずは、水面ギリギリまで下降し、そこで身体を横に回転させ、魚めがけて尻尾を勢いよく振った!すると、ドラゴンの長い尻尾によって水が激しくかき混ぜられ、巨大な渦潮が発生した!

「いや……、おいおい……」

その光景を見たエンジは、唖然としていた。

「うわわ!大変なことになっちゃった!!」

 ドラゴンはたまらず湖から出た。

「馬鹿、やり過ぎだっての。力の制御もできねぇのか……」

「ごめんなさい……」

 頭を下げて謝るドラゴンを見て、エンジは考える。


「……こりゃ放ってたら何起こされるか分かったもんじゃねぇな。しゃーねー。俺様が面倒見てやるよ」

「ほんと?」

「ああ。だが、あんま変なことすんなよ?下手すると俺様でも止められなくなるかもしれねえからな」

「うん!」

 ドラゴンは満面の笑みを見せた。そのときだった。


「おいおいエンジ、そいつ誰だぁ?」

 背後から声が聞こえてきた。

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