エンジの森の最強ドラゴン

ちゃむ

第1話 熊さんが出会った

 洞窟の中。そこは何もなく、ただ薄暗い岩肌で囲まれた部屋があるのみだった。

 普段この洞窟は、入り口が大岩で閉じられているため、誰も中に入って来られない。ゆえに、そもそもそこに洞窟があることを知らない者がほとんどだ。


 そんな洞窟だったが、今日はいつもと様子が変わっていた。洞窟の中に吸い込まれるように、魔力が集まって来ているのだ。そしてその魔力の塊は徐々に何かの生物の形を作り始めた。


 丸い形から5本の筒が生え、それぞれが両腕、両足、尻尾となる。さらに背中から2枚の翼も現れる。それぞれの部位が細かく作られると共に、頭も出来上がっていく。

 結果、出来上がったものは身長70cmほどの紫色のドラゴンだった。ドラゴンは目を開けると、ゆっくりと立ち上がった。


「……?ここどこ?」

 辺りを見回しながら呟くドラゴン。どうやらまだ自分がどういう状況なのか理解できていないようだ。


 やがてドラゴンは、洞窟の出口へと歩いて行った。しかし、その出口は大岩で塞がっている。ドラゴンは大岩に手を当て、押し始めた。


 すると、大岩は難なく動き始める。そのまま外に出ると、そこには広大な森が広がっていた。非常に背の高い木々が乱立していた。

「うわぁ、すごい」

 ドラゴンはその光景にしばらく見惚れていた。そして、森の中を歩いて行く。


 すると、突然目の前に体高20mほどの熊が現れた。

「誰だァ?お前」

「うわっ、おっきい!」

 熊は不機嫌そうに言った。それに対してドラゴンは自分の倍以上もある大きさの熊に驚いていた。


「ここは余所者が入っちゃいけねェんだよ」

 熊は言い終えると、一瞬でドラゴンの目の前に移動し、太い腕で殴りつけた!


 ドゴォッ!!


 凄まじい音と衝撃波が森一帯に響き渡る。

「なにっ!?」

 熊は殴りつけた腕に強い抵抗を感じていた。ドラゴンは熊の一瞬の動きに反応して、両腕でガードしていたのだ。

(あぶなっ!よく反応できたなぁ……)

 自分の反射神経の良さに感謝するドラゴン。だが、熊の攻撃は止まらない。今度は両手を真上に組み、ドラゴンめがけて振り下ろした!


 ズドオオオオン!!!バキバキバキッ!!


 轟音が鳴り響くと同時に、地面がヒビ割れとともに大きく陥没する。

 ドラゴンは振り下ろされた両腕をしっかりと受け止めていた。

「はぁ!?どんだけ頑丈なんだよお前!?」

(うわっ!すごい力……)


 あまりの力の強さに冷や汗を流すドラゴン。だが、いつまでもこうしてはいられない。今度は鋭い爪でドラゴンの身体を引っ掻いた。

 またもや一瞬の出来事だったが、なんとドラゴンの身体には傷一つついていない。それどころか引っ掻き跡すら残っていなかった。


「ああ!ムカつくなあ!!」

 さらに苛立った表情を見せる熊は驚くべき行動に出た。自らの大きな口を開け、そこから炎を吹き出したのだ!火球のように圧縮された炎は、熊の口から放たれると同時にドラゴンに直撃する。


 ドガアアッ!!!


 先ほどとは比べ物にならない轟音が鳴り響く。周りの木々が大きく揺れる。

 しかし、またしてもドラゴンはその場で耐えていた。

「うわぁ、すごい!!なんでもできるんだ!」

 感心した様子で言うドラゴン。


「おいおい、嘘だろ……。どうなってんだよお前」

 熊は驚きを隠せずに後ずさりする。

「え?……さぁ、分かんないや。さっき起きたばかりだから」

「さっき起きただと?」

「うーん、昨日から前の記憶がないんだよね。起きたらここにいた」

「なんだそりゃあ……」


 熊はさらに警戒を強める。その様子を見てドラゴンは少し困った顔をして言う。

「えっと……、悪いんだけど、ここがどこか教えてくれない?」

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