ロボットキャンディとオカリナと

藤泉都理

ロボットキャンディとオカリナと




 ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、楽器を鳴らせ。

 ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、楽しい楽器を鳴らせ。

 ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、とてもとても楽しい楽器を鳴らせ。




「だあああああっ!!!キャンディキャンディうるせえし!!!要求が高くなってきてるし!!!」


 崇彦たかひこ

 じいちゃんはもう手が震えてこのロボットキャンディを修理する事はできなんだ。

 悔しいが。

 ふふっ。

 世代交代じゃ。

 わしはこれから余生をおもいっっっきり楽しんでくるでの。

 じゃ、あとは任せたバイビー。


「いや面倒事を押し付けただけだからあああ!!!」


 崇彦は祖父の遺言と銘打った手紙をぎゅうぎゅうに丸めるや、ゴミ箱の中に思い切り叩きつけた。


「つーか壊れてねえし壊れてねえよなおまえっ」


 崇彦は手のひらサイズのブリキロボットであるロボットキャンディを指さした。

 ロボットキャンディは胸の蓋を開けては空の中身を見せて、最高級の楽器を鳴らさないとキャンディをあげないぞと言った。


「いやいらねえしっ」

「ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、楽器を鳴らせ。ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、楽しい楽器を鳴らせ。ロボットキャンディからキャンディもらいたくば、とてもとても楽しい楽器を鳴らせ。最高級の楽器を鳴らせ」

「あああうるせえっ。つーか。もう直ってんなら依頼主に渡そうそうしよう。えーと」


 崇彦はぎゅうぎゅうに丸めた祖父からの手紙を開いて、机の上に置いて皺を伸ばして読んでは、顔を引き攣らせた。






「うっううう」


(アーメンドクサイ。モウオイテニゲヨウカナ。オカネハオシイケド)


 崇彦は今、依頼主である改造人間ガッチャンの家の中でおもてなしを受けていた。

 本当は早くロボットキャンディを渡して、修理代を受け取って、おさらばしたかったのだが、ガッチャンがロボットキャンディを受け取ってくれないのだ。

 曰く。最高級のオカリナの音色を奏でられなくなったから。


「あのー。ガッチャンさん」

「うっううう。できるだけ長く生きて、最高級のオカリナの音色を奏で続けたかったのに。ロボットキャンディにずっと聴いてもらって、ずっとキャンディをもらいたかったのに。キャンディロボットが動かなくなって、あなたのおじいさまに修理を頼んでいる間、腕を磨こうと稽古を重ねていたのに。重ねれば重ねるほど、音が。オカリナの音色が。ふ。ふふふ。そうですよね。私は改造人間。本来は死んでいる人間。死んでいる人間が生きた音色を、素晴らしい音色を奏でられるわけがないんですよね。ふ。ふふふふふ」

「じゃあ、死んだ音色でいいじゃないですか」

「死んだ音色なんて聞くに堪えないでしょう」

「聞かせてもいないのに判断しちゃだめでしょう。ロボットキャンディは気に入るかもしれないんですから」

「そう、ですかね」

「ええ」


(よし。丸く収まった。これでロボットキャンディが胸からキャンディを出せば一件落着だ)


 終わりだ終わりだ。

 崇彦は内心でほくそ笑みながら、オカリナを構えるガッチャンとガッチャンと崇彦の前にある机の上に置かれたロボットキャンディを見た。


 結果。ロボットキャンディはキャンディをガッチャンに手渡した。

 結果。ガッチャンは喜んで崇彦にお金を手渡した。

 結果。崇彦は喜悦と絶望の中、キャンディロボットをガッチャンに手渡した。


 その夜。

 崇彦は夢を見た。

 天国と地獄を行き来する夢だ。


 喜んでは苦しみ。

 苦しんでは喜ぶ。

 その繰り返し。


 何日も何日も続いた結果、崇彦はこの音色を打ち消そうと自身もオカリナを習い、必死に奏で続ける中、先生に素晴らしい演奏ですねと褒められてどうにかこうにか打ち消しに成功したわけだが、キャンディロボットが頻繁に出入りするようになり、ガッチャンも出入りするようになった。


「ふっ。ふははは。ガッチャン。てめえのオカリナの音はもう怖くないぜ」

「私はあなたの素晴らしい演奏が怖いです」

「キャンディをあげよう。キャンディをあげよう。ガッチャンにも崇彦にもキャンディをあげよう」

「いらねえしっ」

「くださいなっ」

「あげようあげようあげっガガガガガ」

「ああっ。崇彦さん。ロボットキャンディが壊れました!」

「任せろ。すぐに直してやる。直してやるから。こいつを連れて家に帰れよ」

「あっはい。たびたびお邪魔してしまってすみません。修理の仕事もあるのに」

「おーそうだよ。帰れ帰れ」


 崇彦がロボットキャンディを修理すると、ガッチャンは言葉通りロボットキャンディを連れて家に帰り、仕事の邪魔をしてはならないと、ときーどきにしか崇彦の家に遊びに行かなくなった。

 その時にオカリナは吹かなかった。違う音色を、崇彦が楽しんでもらえるように奏でられるまでは崇彦の前では封印しようと決めたからだ。

 崇彦はオカリナを封印して、修理の仕事に専念した。

 が、時折ガッチャンの天国と地獄のオカリナの音色が頭に流れて来るので、その時は仕方なしにオカリナを奏でるのであったとさ。











(2023.5.25)



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ロボットキャンディとオカリナと 藤泉都理 @fujitori

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