109.追い詰められた流星

 流星は追い詰められた。雷堂の威圧感に圧され、跳ね返すパワーなどほとんどなくなっていた。


雷堂が流星より強い? こんなぽっと出の奴が?

これを認めてしまったら、流星は今までの人生を否定されることになる。


今までの提央祭は一体なんだったのか。49回連続で優勝した流星の輝かしい栄光はなんだったのか。


ここまで追い詰められても、死んでも認めるわけにはいかない。



「うおおおおおお!!!!!!」



流星は雄叫びを上げて雷堂にまっすぐ向かっていった。

戦術もクソもない、ただのヤケクソでしかないもの。



「オイオイめっちゃ焦ってんじゃねーのかァ!? 動きがかなり鈍くなってるぜェ!?」



余裕がなさすぎてピヨった流星のスピードはさっきまでの攻撃がウソのように劣化していた。雷堂でも一般人でもその姿がハッキリと見えるほどに。



―――パァン!!!!!!



流星の渾身の鉄拳が雷堂の顔面に直撃した。

全力パンチを顔にクリーンヒットさせた。なのに雷堂はビクともしない。

流星を襲う絶望感は凄まじい。



「全然痛くねーなァ。相当ダメージあるみてーだなァ肉体的にも精神的にも」



ドゴ!!!!!!



雷堂のアッパーが流星の顎を撃ち抜いた。

防御も回避もできないほど弱っていた流星はモロにダメージを受け、ふわふわと力なく宙を舞う。




―――――――――――――――



 一方その頃、提央祭会場ショッピングモールの外で待ち構えている3人の男たち。

提央祭が始まる前に結衣をナンパして菅原に追い払われた3人組だ。



「……提央祭終了まであと5分か。よしそろそろ行くか」


3人組のリーダー格の男がそう言った。提央祭参加のタイミングを見計らい、今がベストだと判断した。



「な、なぁ本当に行くのか? やっぱりやめとかねーか……?」


「バカか、何のためにここまで待ったと思ってんだ」


3人組の中で一番立場が弱い男が中止を求めたが残りの2人は聞く耳を持たない。



「提央祭で優勝してお姫様とヤりまくってやるんだ!! てめーらもちょっとでも役に立てたら1回くらいヤらせてやるよ!!」


「おう!!」



結衣が目当ての3人組。この3人組が優勝した場合リーダー格の男が王になることになっている。残りの2人も王のおこぼれを貰うのが目的。


「オ……オレもお姫様とヤりたい! やっぱり怖いけど頑張る!!」


「その意気だ! いい女とヤりたきゃそれなりのリスクを背負わねばならん!!」


弱気だった一番立場が弱い男も、結衣とヤれるチャンスがあると思うとやる気が出た。



「おっし、ショッピングモールに到着!! 敵はどこだぶっ倒してやるーっ!!」



―――ドギャッ!!


「ぐへぇっ!?」



意気揚々と会場に乗り込んだ瞬間、何かが飛んできて3人組に直撃した。

飛んできたものとは、ボロボロにされた流星だった。雷堂にぶん投げられた流星がたまたま運悪く3人組にぶつかった。



「い……いってぇ、なんだよ急に……」


「ぐっ……」


「あっ……お、お前は、南場流星!?」



リーダー格の男は流星が血まみれになってることを心底驚いた。

流星が負傷したのは提央祭史上初のことなので驚くのも無理はなかった。


流星はぶつかった3人に一瞥もくれずに立ち上がった。

すでに気絶しててもおかしくないダメージだが、流星は根性だけでまだ立ち上がる。


3人組のうちリーダー格の男以外の2人は流星がぶつかっただけでノックアウトされていた。



「あー!? なんでてめーらのびてるんだよ!? リタイアすんの早すぎだろ!!」


3人組は早くも1人だけになってしまった。

結衣もこの3人には見覚えがある。さっき絡まれたのを思い出してハッとした。



「よ……よくもオレたちの仲間を……!! 許さねーぞ南場流星……!!」


流星はガン無視する。いや、無視したのではなく耳に入っていない。

流星は追い詰められて内心大パニックで雷堂しか眼中になかった。



ズン……


「っ……!!」


雷堂がゆっくりと流星に近づいてくる。

相変わらず鈍い動きだが、その威圧感で流星にプレッシャーをかけ続ける。


もう慌てる必要はない。遅くても問題ない、ゆっくり、少しずつでいい。それで確実に流星を追い詰めていく。



「っ……や、やめろ……!! 来るな……こっちに来るんじゃねーよ……!!」



今の流星に王者の威厳など欠片もなく、ただただ小物感しかない。

雷堂が近づいてくるほど腰が引けて後ずさりする光景はなんとも無様だ。



ズン……


「くっ!」


来るなと言われても来ないわけがなく、雷堂はさらに前に進んで距離を詰めてくる。

流星は本気で恐怖した。心の底から敵を恐れた。足がガクガクと震えてくる。



ガシッ!


「えっ!?」


流星はなぜか3人組のリーダー格の男の髪を掴んで引っ張った。

その髪は無駄にツンツンとして上に伸びてて、掴むのにちょうどいい髪だった。



「来るなーっ!!!!!! 来るんじゃねぇ、そっから動くな!! こいつがどうなってもいいのか!?」



ガチのマジで追い詰められた流星がとった行動。

それはリーダー格の男を人質にすることだった。



「…………」



まさかの展開に雷堂も、菅原も、結衣も、真里奈も、星羅も、ポカーンとして時間が止まったかのようにピクリとも動かなくなった。



「…………いや……何してんの? お前……」


「…………」



雷堂は冷静に指摘され、流星はハッとした。

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