107.左目解放
流星はしばらく止まっていた。
自分の口を抑える。痛みがある。口を抑えた手を見てみる。
そこには確かに
「……血……血だ……」
油断してないのに、集中してるのに、それでも出血させられた。
流星にとって生まれて初めての出来事だ。
「ぶっちゃけマグレだが……それでも一発殴れて嬉しいぜェ。
殴られっぱなしじゃ腹立つからなァ」
雷堂本人がマグレだと言っている。
そう、マグレだ。マグレだから慌てる必要はない。決して流星の動きが雷堂に見切られたわけではない。
流星は必死に自分に言い聞かせて落ち着こうとする。
自らを落ち着かせようとしてもうまくいかない。なぜこんなに焦っているのか?
むしろ喜ぶべきではないのか。流星が求めていたのはこういう強力な敵だったはずだ。
雑魚ばかりでつまらなかった過去の提央祭。
今回は哲也と雷堂が出てきてくれた。今回の提央祭は歯ごたえがあって楽しいはずだ。せっかくだから楽しまなければ損だ。
なのに、なのになぜだ。
流星にとって、雷堂との戦いはちっとも楽しくなかった。
それがなぜなのか、自分でもわからなかった。
「オラァ! ボーッとしてんじゃねーぞォ!!」
雷堂が殴りかかってくる。
流星は後ろに飛んで難なく躱した。
「ぬぅ……!! チョコマカと……!!」
雷堂は流星を追いかけるが、全然動きについてこれない。
この勝負、雷堂が優位に進めてるわけでは決してない。雷堂もまた流星をなかなか殴れずに苦戦を強いられていた。
再確認だが雷堂はとてもノロマだ。さっきのはマグレだ。
気にすることはない、忘れるべきだ。
雷堂の攻撃が流星に当たることはない。
マグレ以外が当たらないのだから、雷堂が流星を倒すのは不可能である。
いくら雷堂が頑丈でも、流星が攻撃をし続ければ必ず勝てる。
そう確信した流星は雷堂に向かっていく。
背後に回り、首を狙って蹴りを放つ。
そして蹴りが雷堂の首に直撃した。
しかし太くて分厚い雷堂の首は揺らぐことすらない。
ガシッ
「!」
「捕まえたぜェ……?」
足首を雷堂に掴まれた。掴まれてしまってはいくら速くても振り解かない限り逃げられない。
一気に流星がピンチになった。振り解こうとするが雷堂の圧倒的なパワーの前にはどうすることもできない。
振り解くどころかもう片方の手も流星の足を掴んでガッシリ固定された。
「オラァ!」
グイッ、ブンッ!!
「!?」
雷堂の怪力で、流星の身体をぶん回した。
ブンブンと何回も回される。まるでコマのように、流星の身体が見えなくなるくらいブンブン回される。
「ハーッ!!!!!!」
ブンッ!!
ドガァンッ!!!!!!
遠心力が最強になったところで雷堂は流星の足をパッと離す。
流星の身体は遠くまで吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
180センチはある流星を軽々とぶん回して吹っ飛ばす雷堂の怪力。
結衣も真里奈も驚愕させるには十分すぎた。
「ハッハァ、どうだ南場ァ! またやってやったぜ!!
今まで無傷だったのに同じ相手に二度も傷つけられる気分はどうだァ? こんなこと初めてだから何が起こっているのか理解できてねぇかァ!?」
両手を広げて勝ち誇り、挑発する雷堂。
彼は今テンションが最高潮に達していた。
「今のはマグレじゃねぇぜェ? てめぇの動きはよく見えねーが
オレ様の
流星の動きについてこれなくても、カンだけでなんとかすることができた。雷堂の戦闘センスは並ではない。
壁に叩きつけられた流星が土煙の中から出てきた。ゆっくりと歩いてきた。
「ハァ……ハァ……ハァ……!!」
とんでもないパワーで投げられた流星は受け身を取ることができず、頭から出血していた。
顔面にドロリと血が流れ落ちていく。雷堂のパワーをモロに食らってはさすがにダメージをごまかせない。
流星のダメージがテレビ越しに見てる真里奈にも伝わり、真里奈は悲痛の表情になった。
流星も自分のダメージを認めることができずに錯乱状態に陥った。
結衣が見ているというのに、結衣にもっとかっこいいところを見せたいのに。
なんという恥を……挽回しないとヤバイ。
結衣が映ってる画面に目を向けた。
結衣は2人の戦いから目を離せずに指1本動かせない状態だった。
「……なんとなく予測できただと……? カンだと……!?
ふざけやがって……そんな曖昧な理由でやられてたまるか……!!」
今の状況がありえなさすぎて、流星はもう笑うしかなかった。
「……フフックククッ……どうやら
まさかてめぇに
流星に残された道は
前髪で隠された左目。前髪をかき分けて左目が姿を現す。
左目解放!!
「! あれは……!!」
結衣はハッとした。
流星の左目に心当たりがあった。
野球勝負の時も使っていた流星の奥の手だ。
普段は右目だけで戦っているから左目を見えるようにしたら大幅にパワーアップすることができる。
流星の左目のことは菅原も星羅も真里奈も知っている。
よっぽどの時以外は使わない奥の手。妹の星羅でも両目を使って戦う流星はほとんど見たことない。
最終形態をお披露目した流星。それを見た雷堂は特にリアクションすることはない。
「ハハハハ、オレをぶん投げてウキウキになってるトコ悪いんだけどよ、オレ今まで
もうてめぇに勝ち目はなくなった!! ガッカリしたか!? 気にすんな、オレが両目を使うのはてめぇが2人目だこの上ない名誉だぜ喜べデカブツ!!」
真の力を解放し流星は勝利を確信していた。本当に100%全力なので絶対に負けない自信があった。
結衣は野球勝負のことを思い出す。
野球の時は両目になってすぐにホームランを打った。
今回は一体どうなるのか、結衣は気になった。
リアクションがなかった雷堂もハッとほくそ笑んだ。
「へぇ、確かに空気が変わったな。おもしれぇ来い!」
普通に挑発してくる雷堂に流星は少しイラッとした。
真の力を解放してもちっとも焦ったりしない雷堂が気に入らなかった。
脳筋すぎて恐怖の感情もわからないほど頭悪いんじゃないか、と流星は思った。
―――ブオンッ!!
ガアンッ!!!!!!
その瞬間、流星は消えて、次の瞬間にはもうすでに雷堂の頭部を攻撃していた。
雷堂は反撃しようとするが、腕を振った時にはもうすでに何発もガンガンと攻撃を食らっていた。
スピードに差がありすぎて、反応すら間に合わない。
「どうだ!? これが提央町最強の真の力だ!!!!!!」
ドドドドドドドドドッ!!!!!!
さっきと同じように地面、壁、天井、ショッピングモールの空間すべてを飛び回る高速移動で雷堂に攻撃を畳みかける。
速すぎて普通の人間では流星の姿が見えないほどだ。自分の身だけで全方位に壁を作っている。完全に逃げ場はない。
逃げ場があったとしても、雷堂は逃げないが。
「泣いても謝ってももう許さねぇからな! てめぇは絶対許さねぇ!! てめぇはこのオレが必ずぶっ潰す!!
このオレに全力を出させてしまったことをたっぷりと後悔しやがれ!!」
視野を広げるとこんなにも威力を増す。さすがの雷堂もガードの姿勢を取り始めた。
「てめぇ才能があるとかほざいてたな! 笑わせんな!!
才能があるっていうのはなぁ―――圧倒的な実力や実績を持つ奴のことを言うんだよ!! このオレのようにな!!!!!!」
雷堂を攻撃しながら驕り高ぶる流星。その勢いのまま、雷堂にトドメを刺そうとする。
―――ゴッ!!!!!!
トドメを刺す前に、雷堂の拳が流星の顎に完璧にクリーンヒットさせた。
普通の人間なら顎が砕けて一発で失神する威力の攻撃を、思いっきり顎に受けてしまった。
血を吐きながら、流星の身体が宙を舞う。
その瞬間はスローモーションのようにゆっくりと時間が動いていた。
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