99.さすがオレのライバル
―――ギャン!!!!!!
流星は敵を蹴り飛ばし壁に叩きつける。
これにて2階にいる敵は全員倒した。あとは1階だ。
実況席の結衣と菅原も感心したような引いているような複雑な表情で流星の快進撃を見ていた。
「……その……わかってはいたんですが……南場さんが圧倒的に強いですね……」
「そりゃ49回連続無傷で優勝してる男ですからね。歴代提央祭でも間違いなく最強……ガチのレジェンドです」
そう、確かに流星はレジェンドだ。それはそれとして菅原は結衣を見る。
「ですが、そんな南場さんに唯一黒星をつけたのが結衣ちゃんなんですよ」
「え!? いや、あれはノーカンですよ!!」
「何をおっしゃいますか、れっきとした提央祭の公式記録ですよ。何があっても覆ることはありません。
前回以外最強の南場さんに結衣ちゃんのお兄さんがどう立ち向かっていくか見ものですね。おそらく過去最高に白熱した提央祭になりそうですよ」
「……!!」
菅原は心から提央祭を楽しんでいた。結衣はそれを見て少し曇った表情をした。
結衣には楽しむなんてできそうにない。しかし今の状況では提央祭の否定などできず複雑だった。
2階にいる敵を全滅させた流星はまた1階に戻ってきた。
そこで流星が見た光景。哲也が1階の敵を全員なぎ倒した姿であった。
哲也は妹を守るため完全な修羅と化した。完全に集中した殺戮モード。1階の敵は哲也にかすり傷すらつけることができなかった。
「兄さん……!」
結衣は哲也を心配して呼びかける。隣にいる菅原も感心しながら哲也を見た。
「素晴らしい……! 結衣ちゃんのお兄さんも負けてませんよ。彼もまた無傷で大勢の不良を撃破! なかなかハイレベルですねこれは……!」
現在、会場で立っている者は流星と哲也の2人だけであった。
「おう頑張ってんなお兄様。思ってた以上に強ぇなぁ嬉しいぜ。さすがオレのライバルだ!」
「俺がいつお前のライバルになったんだ?」
流星は嬉しそうに哲也を見て、哲也は憎悪の目で流星を見る。2人の立ち位置はずっと変わらない。
「フフフ……感謝するぜ北条兄妹」
「はぁ?」
「お前らがこの町に引っ越してきてくれたおかげでオレの人生は飛躍的に明るく楽しくなった。
……オレは今まで退屈だった。ケンカしても弱っちい奴ばかりでつまんねぇし女遊びしても売女みてーなのばっかりでつまんねぇし……
傍から見ればオレは勝ち組リア充なんだろうが満たされてるようで満たされてなかったんだよ」
ベラベラとしゃべる流星の声が哲也にはうっとおしくてたまらなかった。
なんで流星の自分語りなど聞かされなくてはならないのか。死ぬほど興味がないのに。
「だがそんな日常はもう終わりだ。これでオレに最高に可愛い彼女と最高に強いライバルができるんだ。今のオレは最高に幸せだ」
「……おい、寝ぼけてんのか? そういうことは俺に勝ってから言え。
それとお前は俺に感謝するのではなく嫌悪するべきだ。俺のせいでお前は二度と結衣に近づけなくなるんだからな」
哲也はブレない。徹頭徹尾流星を忌み嫌う姿勢を崩さない。今までも、これからも。
「ハハハ、言うじゃねーか。そういう負けず嫌いなところはオレにそっくりだな」
「似てねーよ死ね」
「……なぁところでお兄様、これで生き残ってる参加者はオレとお兄様だけか?」
流星は周りをキョロキョロ見渡す。全員倒されているが、死んだフリをしている者や隠れている者もいるかもしれない。警戒を怠ってはならない。
「知るか、1階にいた敵は全員倒したはずだが」
哲也に油断や慢心はなく徹底的に倒しつくした。死角になりそうな場所もすべて確認済みだ。
「……そうか、じゃあ―――」
流星はニヤリと不敵に笑った。
「これで心置きなくお兄様とタイマン張れるってことだな」
流星と哲也が向かい合う。2人の死闘が今始まろうとしていた。
結衣も真里奈も固唾を呑んで見守る。
「いつでもいいぜ、かかってきなチャレンジャーさんよ」
流星は両手を広げて哲也を挑発する。
流星がチャンピオン、哲也がチャレンジャー。流星はチャンピオンとしての余裕があった。
その挑発に乗って激昂したりせず、哲也は落ち着いて戦闘に臨む。
流星は気持ちにゆとりがありすぎて、これから戦うというのに優勝した後のことを妄想してつい顔が緩んでしまう。
「―――ああ……ついに……ついにやってきた……この時をどれだけ待ち望んだことか……長かった……この戦いが終わったらいよいよ結衣がオレの彼女になる……!!
結衣を手に入れたら何をしようか……やべぇ、さっきエロ本読んだから結衣としたいプレイが脳内にありすぎてどのプレイからしようか迷っちまうな……
あームラムラしてきた。エロ本でやってたプレイをそのまま全部結衣にやりてぇ……想像しただけでオレもう……」
油断はしないと言っといてこの有り様。闘う時くらいは真剣にやる流星だが結衣のことになるといつもこうだ。
流星は顔を緩ませて油断した。その油断は一瞬だったが、その一瞬が命取り。
―――次の瞬間には、哲也の右拳が流星の顔面にめり込んでいた。
一瞬の気の緩みを哲也が見逃すはずはなく、思いっきり流星を殴り飛ばした。
―――ドガンッ!!!!!!
数メートル吹っ飛ばされた流星は壁に叩きつけられた。あまりの衝撃に壁が割れた。
その様子を見ていた者はみんな時間が止まったみたいにしばらく動けなくなるほど衝撃を受けていた。
「……思いっきり壁に叩きつけられたんですが……大丈夫なんですかあれ……」
結衣は口に手を当て、気の毒そうにモニターを見ていた。ずっと兄を心配していたが今は流星を心配する気持ちでいっぱいになった。
「……あーあー……南場さん油断しすぎですよ……まさかこれで終わり……なんてことはないですよね……?」
菅原は呆れていた。流星の心配などはしておらず、あっさり決着がつくことだけは勘弁してほしいと思っていた。
「流星君……!?」
真里奈も結衣と同じような反応をしていた。とにかく流星が大丈夫なのかどうかだけがどうしても気になるところだ。
普段クールで無表情の星羅ですら流星がいきなり吹っ飛ばされる展開に驚きを隠せない。
最強の兄が殴り飛ばされるなど初めて見た。一体哲也は何者なのか。星羅は哲也を最大限警戒する。
驚いている観客たちとは対照的に、哲也は表情一つ変えずにゆっくりとぶっ飛ばした方向に歩いていく。
「…………いつでもかかってこいと言われたから行ったが……スキだらけにも程があるぞ? 俺は無防備で無抵抗な相手を殴る趣味はないんだが。
ふざけるのも大概にしろよ南場流星。それともふざけてなくてこのザマか? 提央町最強ってのはこの程度か?」
叩きつけた壁からは煙が出ていて流星の姿は見えない。
これで終わりだとは1ミリも思ってない哲也は警戒しながらも流星を挑発する言葉を発した。
「……フッ、くくくっ……!」
煙の中から流星の声が聞こえてきた。思いっきりぶん殴られたというのに、さっきまでよりさらに嬉しそうな声をしていた。
「……別にふざけてるつもりはなかったんだが……どうやらオレはあまりにも気が抜けていたらしい……」
煙の中に影が見える。影の正体はもちろん流星だ。立ち上がって煙から出てこようとしている。
「だって聞いてくれよお兄様! オレのアホ舎弟がエロ本トラップなんか仕掛けてやがったんだぞ!?
エロ本なんて見せられたら脳内ピンクになって集中力が切れちまうだろ。男ならしかたねぇことだろ、そう思わねーか?」
さっきからグダグダと流星の声がするが哲也は微動だにしない。
「だがもう大丈夫! お兄様にぶん殴られてオレは目が覚めた! エロいこととか頭から吹き飛んだ! 今は戦闘モードになって100%集中できている!!
こっからのオレは油断もスキも1ミリたりともねぇ!! 全開全力の南場流星様を見せてやるぜ!!!!!!」
煙から流星が姿を現した。あれほど強く殴られたのにピンピンしていた。
「……むっ……」
口の中が痛む。流星が口を軽く拭うと、ハッキリと出血が確認された。
今まで無傷で優勝してきた流星が、初めて提央祭で血を流した。哲也に殴られた時に口の中を切ったようだ。
その血を流星はしばらくジーッと見つめる。そして微笑した。
「……血! 血だ! 提央祭でオレを流血させたのはお兄様が初めてだ! 光栄に思え!!」
「……無抵抗のマネキンを殴った感覚しかないんだが、そんなんで光栄とか言われても困る」
「安心しろ! オレが殴られるのはこれが最初で最後だ!! 唯一オレを殴ったことがある男がお兄様ということになるわけだ!!」
流星が殴られたのは提央祭史上初めてらしい。現時点で流星を殴ったのは哲也だけらしい。
だからなんだというのだ。哲也はなんとも思わないし心底どうでもよかった。
「さあ、仕切り直しと行こうぜお兄様! 5月提央祭の決勝ラウンドだ」
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