第2話 裏切り
「なあ海斗、ちょっとこっちに来てくれないか?」
「え?あ、はい。わかりました、和馬さん」
「俺たちよ、日頃から海斗の活躍を見てそろそろ礼をしてやろうかなと思ってだな」
「ほ、ほんとですか!?」
それは嬉しい。冒険者をしているからと言って大学生の俺にはバイトよりも稼げない。あ、ダメだ。まだ金銭的なものだと決まったわけではない。それに礼と言っているから感謝の言葉かも知れない。それはそれで役に立っていると思えて嬉しいけど……
そうやって俺が礼について考えていた時だった。突然腹部に痺れを感じたと思うと、体の支えがなくなったかのように後ろへと倒れた。
「……っ!」
受け身を取らずに倒れたことで俺は背中の衝撃で思わず声を出そうとした。だが出ない。口を開けようとすれば思うように動かず、ただ魚のようにパクパクとすることしかできなかった。これは一体……
「海斗、体が動かなくなるというのはどう言う感覚なんだ?是非とも教えてくれ」
先ほどと同じところで和馬さんが立っている。そしてその右手には何か注射器のようなものが握られている。
「修也、颯斗。始めるぞ」
「ん〜やっとか!」
「楽しみだね」
始める?どういうことだ。それに和馬さんの右手にあるものは…注射器?どうしてそんなものがあるんだ?
「それじゃあ日頃の鬱憤を海斗のやつにぶつけてやろうじゃねぇか」
「ほどほどにしとけよ。俺たちが遊べなくなるからな」
修也さんはそういうと、腰に差してあった2本のダガーを両手に握った。
そして俺は理解した。いや、理解させられたのだ。彼らが自分に何をしようとしているのかを……
俺は無意識に体を動かし、少しでもここから離れようと後ろへと下がろうと精一杯に体を動かそうとした。
「おいおいどこに行くんだよ海斗〜。これからお楽しみだってのによぉ〜」
逃げなければ!いち早くここから!彼らから!
だか、自身の思考とは別に体は微動だにしなかった。
「ど……て」
「ああ、和馬さんがお前に結構強力な麻痺毒を与えたからな。しばらくは体どころが指一本動かすことができないんだよ!」
和馬さんが右手に握っていた注射器は麻痺毒で、俺の腹部に痺れを感じたのはそれを打たれたからなのか……
「ははっ!死なねぇ程度に遊んでやるから安心してろ!」
そういうと、修也は俺の右手に向かって片手に握っていたダガーを振り落とした。
「ん…が!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
「お、麻痺ってるくせに痙攣してやがる。今まで俺らの後ろにいたからこの程度の痛みにすら過激に反応しやがって」
そういうと修也はもう一本のダガーも俺の右手に刺してきた。
「……っ!」
「ただ刺すだけだとおもしろくねぇ。だからよ、こんなのはどうだ?」
すると次の瞬間、右手に新たな激痛が走った。
「う…あ、ぐ…」
「こうやって、傷口を抉るとより痛みを感じやすいんだってよ。やってみたかったんだよなぁこういうやつ」
狂ってる
今のこいつらに抱く感情は恐怖……そして憎悪だ。
俺の体を弄っている修也や、目の前で起きていることに笑みを浮かべている後ろの二人が憎い。
それから俺は修也に体の至る所にダガーを刺され、颯斗にはこれぞとばかりに様々な薬品を投与され、和馬さん…いや、和馬からは拷問じみた真似事をさせられた。
まだ生きてる。だが、この生きているという感覚が奇跡のようで……とても苦痛だった。
「よし。修也、そろそろこいつを崖に落として来い」
「そのままにしててもすぐにダンジョンの餌になりますよ?」
「俺たちとすれ違いで他の冒険者がきたら面倒だ。だからさっさとあっちの崖に落として来い。ついでに颯斗もついていけ」
「わかりました。修也の面倒は私がみます」
「俺はガキじゃねぇぞ!」
「うるさいですよ。さっさと行って終わらせますよ」
そう言うと颯斗は俺の両足を引きずって進んだ。
「あ、ちょっと待てよ!」
修也も急いで颯斗の隣に来て俺の片足を颯斗から受け取った。
今はもう……痛みというものが感じられない。体の痺れはとっくになくなっているはずなのに、体はすでに動かすことができず考えることしかできない。
ああ、俺はもう少しで楽になる…………のか
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