仙術の創作と称号

 新しく仙技を生み出した俺の創作意欲は収まることはなく、新しい仙術の創作に取り掛かっていた。


「【仙術:隠形おんぎょう】」


 今度は闘気を使い漏れ出る神通力を抑え込むというものだ。ヤシロの説明でプレイヤー、エネミー、アイテムなど種類関係なくすべて微量だが魂氣を常に放出している。それを闘気によるカプセルで封じ込めるようなイメージで生み出した仙術が絶気。

 これを使うとヤタノカラスたちが表示させるレーダーのようなマップに移ることがなくなるというのだ。絶気を使用した状態で確認してみたが確かにマップ上に俺の表示はなかった。思わぬうれしい誤算である。

 本来は存在感を薄くできたらいいなと思いながら生み出したが、期待以上の性能を見せた。


「【仙術:天歩てんほ】」


 また新しく思いついた仙術を試してみると、イメージ通り空中を歩行することができた。

 天歩は瞬動の応用で足裏から闘気を放出しそれを固定化させる。そうすると、足元に見えない足場ができて空中に立つということができた。

 足場が存在している時間は俺が触れている間だけで見えない足場から、足を話すと見えない足場は消えるようになっている。だが、意識すればいつでも足場を作ることができる。

 応用が利くしかなり便利だ。


「【仙技:天駆けそらかけ】」


 天歩と瞬動を同時に発動させることで使用できる。もともと天歩自体瞬動の応用なのでそこまで難しくはなかった。


「ハハ!こりゃいいや!」


 俺はつい楽しくなってしばらく空中で走り回るという大道芸みたいなことをし続けた。


「うっ!‥‥‥ううっぷっ‥‥‥‥おえっ!‥‥‥。」

〔‥‥‥大丈夫ですか?〕


 調子に乗って動き回ったせいで酔ってしまった。ヤシロに大丈夫かと聞かれたがその声音には心配というよりあきれのようなものが含まれていた。心なしかヤシロに白い目で見られているような気がする。


「だ、大丈b、うぷっ!‥‥‥」


 アストラルボディーの状態なので吐くことはなかったがとにかく気持ち悪かった。


「そ、そう…だ【仙術:とりあえず治れ】!」


 気持ち悪くて後もな思考ができなかったので名前も雑だ後に【仙術:禊祓みそぎはらえ酩酊めいてい】となずけることにした。酩酊は酒にひどく酔うという意味だが、酔うという面では一緒な、ためこうなずけることにした。

 そして気づいたことだが、養老では状態異常のようなものを治すことができないことに気が付いた。

 これは意味のない失敗ではない、意味のある失敗だ!これからも小さな失敗を積み重ねていこう!と、開き直った。


〔マスター。アカシックレコードに登録されたものが二〇を超えたので称号【創始者】を獲得しました。また、報告を忘れていたものがあります。エリアボス【貪欲鬼:赤火】の討伐により称号【初のボス討伐者】【苦難を超えし者】【貪欲な戦闘狂】獲得しています。〕

「‥‥‥おい。」

〔‥‥‥。〕


 ちょっと待て。いま、しれっと報告し忘れたって言ったよな?おい!こっち向け。何起用に知らんぷりしてるんだ。

‥‥‥まあ、いいか。とりあえず称号を確認するか。


【創始者】

いまだ開発されていない技術を生み出したものに与えられる称号

〈獲得条件〉

アカシックレコードに二〇個以上の登録をする。

〈効果〉

同じ術を使うものに少しだけ優位性を持つことができる。


【初のボス討伐者】

世界で一番最初にボスを討伐したものに与えられる称号

〈獲得条件〉

ボスをソロまたはパーティでプレイヤーの誰よりも早くボスを討伐する。また、一人しか獲得のできない称号

〈効果〉

ボス系統のエネミーへの攻撃に+三〇パーセントの補正がかかる。


【苦難を超えし者】

ジャイアントキリングを果たしたものに与えられる称号

〈獲得条件〉

ソロまたはパーティで格上の相手を倒すもしくは高難易度のミッションをクリアする。

〈効果〉

難易度の高いミッションの総合的な成功率に+一〇パーセント補正がかかる。


【貪欲な戦闘狂】

エリアボス【貪欲鬼:赤火】を倒すことで与えられる称号

〈獲得条件〉

【貪欲鬼:赤火】をオリジナルの技または術で討伐する。

〈効果〉

一回の戦闘中に毎秒身体能力に+一パーセントの補正をかける。


 こんな感じだが‥‥‥


「どれも強すぎねえか?これ‥‥‥。初めて初日と二日目に手に入れていい代物じゃねえだろ!?」

〔当たり前です!本来なら一月ほどたてばなんとか倒せる計算だったのに貴方が初日にぽんぽんと新しい術を生み出すからボス討伐が早くなっったんですよ!いいですか?そもそもアカシックレコードに登録できるような術や技はですね、普通はそう簡単に生み出せるものではないんですよ!何日何か月も修行・創意工夫を繰り返しやっと周到くできるというのに、それを貴方は‥‥‥。〕


と、ヤシロさんの長いそれはもう長い長い説教が続いた。その気迫から学校の先生のような雰囲気を感じ取り、ヤシロをヤシロ先生と呼ぶことにした。


〔ふう‥‥‥もうこのぐらいにしましょう。わたくしAIなのに何だか疲れました‥‥‥。〕


ちょうど昼時になるころ、ヤシロ先生のお説教が終了した。

 【AW】を終了して自分の元の身体へ戻った。


「…ふー‥‥‥腹減ったな。」


 体に戻ると今まで感じていなかった空腹感に腹の虫が盛大に鳴いた。

 当然である。生身の身体は寝たきりとはいえ、アストラルボディーを動かすのに頭を使わなくてっはいけない。それは、運動と同等量の消費カロリーである。アストラルボディーには痛覚などは存在するが空腹感などの人間の三大欲求に関する感覚がほとんどない。

 それこそ、アニメなどに登場する睡眠も食事も必要としない人類を超越したような存在に一時的にだがなることができるゲームが【AW】なのである。


「これはさすがに危険かもな。」

〔ご安心をヤタノカラスたちは常にプレイヤーの生身の健康状態をスペクターリングを通してリアルタイムで確認しております。何か問題の予兆のようなものがあれば半強制的にゲームを停止いたします。〕

「なるほど、一応安心設計になってるんだな。」

〔はい。〕


 そうか‥‥‥でもそれだと重要なクエスト的なやつを受けてる途中とかで強制終了したらなくやつが出るかもな‥‥‥いや、でも命にはさすがに変えられないだろう。だいたいのことは命あってこそだからな。何かあってからでは、死んでからでは遅いのである。

‥‥‥にしてもヤタノカラスたちはかなりの重労働者たちらしい。そもそもの仕事としてユーザーたちのヘルプ係があるがこれは基本一回の問答で終わるだろう。問題はプレイヤーたちの健康状態の確認だ。これをリアルタイムで行っているというのだからいやはや頭が上がらない。

 これは何かお礼をせねばと俺の小さな良心が大声をあげている。

 どんなお礼がいいだろうか‥‥‥と考えながら調理場へと向かう。


「さて、冷蔵庫に鶏肉が結構余ってたし‥‥‥今日は親子丼にするか!」


 俺は、昼食の献立を決めて早速料理に取り掛かる。

 数十分後、完成した親子丼と付け合わせのお吸い物、そしてほうれんそうのお浸しを並べる。


「いただきます。」


 俺は飯を食うときはちゃんと手を合わせるタイプだ。


〔‥‥‥。〕


 ヤシロ先生がすごい羨ましそうに見つめてくる、いやー最近のAIには感情が搭載されているんだネ!


〔‥‥‥。〕

「‥‥‥なあ、ヤシロ先生。」

〔なんでしょう‥‥‥。〕

「【AW】には食材アイテムとかあるのか?」

〔‥‥‥はい、ありますよ。専用のアイテムを使えば調理もできます。アストラルボディーでのみ食べることができます。〕


‥‥‥よし!決めた!我がヤシロ先生には受肉する肉体をプレゼントしよう!

 そうと決まれば即結構!料理をすぐに平らげ自室へ戻る。

 軽くストレッチをしてから、もう一度ゲームを起動、早速作業に取り掛かる。

 まずするべきことは、アストラルボディーの解析だ。サンプルはもちろん俺の身体だ。闘気を身体に流すというより通すといった方が正しいな。レントゲンのX線をイメージして‥‥‥。


「【仙術:真眼】‥‥‥。」


 また新しく仙術を〕生み出してしまった‥‥‥というか、今のところ神通力じゃなくて仙術ばっか使ってるなこれじゃあ神族じゃなくて仙人になっちまう。

‥‥‥この後、神通力使ってみるか。

 おっと、脱線した。アストラルボディーの構造は生身の肉体とそうそう変わらなかった。骨や筋肉はもちろん内臓なども存在していた。だが、胃や腸といった消化器官が存在せず性器なども形だけということがわかった。

 ただ、料理があるといっていたが食ったものはどこに行くんだろうか‥‥‥。


「ヤシロ先生、さっき【AW】にも食べ物はあるって言ってたよな。食ったものってどこに行くんだ?」

〔はい、ゲーム内の食料はすべて吸収した際に肉体の修復などに使うためのエネルギーに変換され、そのエネルギーはデータに変換されます。そのデータを本部のまーざーコンピュータにある【アカシックレコード】とは別のストレージに保存されます。部位を欠損した場合そこにあるデータをエネルギーに戻すというプロセスを得てからエネルギーを欠損した部位の形に形成し、肉体の修復に使われます。ちなみに、【AW】の食料アイテムにも味は存在します‥‥‥。〕

「うん、ありがとう。」


 なるほど‥‥‥そうなると、ただ体を作っただけじゃ人の形を精巧に再現した不気味な人形だ。もとい、ダッ〇ワイフとも呼べなくはないが‥‥‥人形ではだめなのだ。アストラルボディーの頭部にも脳と同じような演算回路があるこれをヤシロ先生自身をこれから作る人工的な肉体‥‥‥【ホムンクルス】と呼称しよう。

 手足の稼働は、術を使うのと同じ感覚で出来た方がいいだろう。元の姿にはない期間だがそこは、ヤタノカラスのもつAIの人間よりも高い演算能力に期待しよう。

 次に機関んだがこれは作らなくてもいいかなと思った。そもそも戦闘に参加するわけでもないし完全な人体を創ろうというわけでもない手足のように動かせてなおかつそれなりの力と耐久力があれば人形本体は十分だ。だが感覚器官は大事だ。特に味覚、今回はヤシロ先生に飯を食ってもらうために【ホムンクルス】開発してるんだからな。アストラルボディーの舌の構造を完全再現でもいいかと思ったがイメージとしては、ヤシロ先生本人があ【ホムンクルス】頭の中に入ってモ〇ルスーツの様に動かしてもらう予定だ。

 アストラルボディーの舌の構造をまんまコピーしたところで、意味はない。そこで思いついたのは食材の味やにおいをデータに変換するという方法だ。

 これならば味を生き物のように感じられるかは不明だが、味やにおいを認識することはできるだろう。なら感覚器官に必要なのは、【AW】の食材の味をデータに変換するプログラムだ。

 プログラミングは多少かじった程度ではあるが、トライ&エラーで頑張ってみよう。

 最初の第一目標は、動かすための身体精巧な【ホムンクルス】を作ること、これは俺の器用さが火を噴くな。

 第二目標は、触覚の再現だ。視覚と聴覚は現段階であるから問題なし。これは、振動や温度計などの感知するプログラムを組めばいいだろう。

 第三目標は、匂いを感知する機関を作ること、これは警察などが使う匂いを感知するプログラムをなんとか再現するしかないだろう。

 第四目標、これは最終目標の味覚だ。塩分や糖度を検出するプログラムを再現してまずは甘い、辛い、苦いの三つがわかるようにする。その後、感じ取れる味のバリエーションを少しずつ増やしていく。

 これら四つの目標の達成と同時進行で、【AW】の食材アイテム発見を目指したい。

 さて、アストラルボディー構造はだいたいわかったから、あとは【ホムンクルス】の製作だ。ここで問題が発生した。


「どうやって作ろう‥‥‥。」


 そう思わずつぶやいてしまうほど困ってしまった。

 しばらく考え、あることをひらめいた(と、言うより思い出した)。

 神通力である。神通力とは文字通り神に通じる力。それならば人に近い人形の一つや二つ作れないわけがない。

 まず、イメージするのは簡素な球体関節の人形。これの等身大まずは俺のアストラルボディーと同じ一五〇センチほどの人形だ。


「‥‥‥【万物創生】」


 俺が編み出した神通力の一つ。名の通り万物を生み出すことをイメージして名付けた。

 そうすると、俺が手をかざした場所に光を吸い込みそうなほどに真っ黒な球体が出現し、それを粘土で肉づけするように覆っていく。

 そして見る見るうちに、全長一五〇センチサイズの球体関節の人形ができた。材質は、一旦プラスチックの様なものにしたが今後にと肌に近いものにしていって、顔のパーツや髪の毛、もちろん服なども作る予定である。

 とりあえず、【ホムンクルス試作機】完成だ。


「‥‥‥うん。」


 見た目は完全に漫画などのポーズのモデルをするための球体関節の人形の一分の一スケールといっていいだろう。

 そしてこれがあれば本当にモビル〇ーツが作れるのではと持ってしまった。それはまあ後だな。

 まずは手動で、動くかどうか試してみよう。人形の胴を抑え腕部分を持って持ち上げてみると、恐ろしいほど滑らかに腕を上げることができた。ほかにもいろいろなポーズをとらせてみたが無理なく動かせることができた。


「さて、人形作りスタートだ。」

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