第五話 仙術の創作

「~~~~!」


 エリアボス【貪欲鬼どんよくき赤火せっか】との戦いの翌日、俺は赤面していた。


〔マスター、どうかされましたか?〕

「‥‥‥何でもない‥‥‥。」


 なぜ俺が赤面していたのか、その理由とは、朝ヤシロに見せてもらった俺の戦闘ログだ。

 視てて途中まではよかったんだが、戦闘終盤に言った俺のセリフだ。


『【貪欲鬼:赤火】退屈しのぎに付き合ってくれてありがとうな、おかげでお前の貪欲さがうつっちまったよ‥‥‥ここからは、蹂躙劇だ。』


と、言うものだ。

 そのセリフの後に、赤鬼を一撃で画集一触にする俺の姿


「はあ~~~~‥‥‥!」


 正直俺じゃないっていう体で見ればアニメとかでありそうなカッコイイシーンなんだよ。

 でも、映像に移っているこの筋骨隆々な男は俺自身だと知っているため、他人ではなく自分と認識してしまい、黒歴史を作ってしまった気分だ。


「しゃあない、【AW】するか。」

「あ、林君!」


 俺が、【AW】(Astral・Warriorsの略称)をしようと自室に戻るときに廊下でどこかへ出かける準備をしていた女性と出くわした。


「あ、義姉ちゃん。今日って教育実習の日だったか?」

「うん、そうだよー。」


彼女は俺の義姉、リフリア。父親の再婚相手の連れ子で純正のロシア人だが日本生まれ日本育ちなため、ロシア語は話せない。

 顔立ちは整っており金髪碧眼で一目でロシア人女性とわかるような容姿をしている。長身で出るところは出ているグラマーな体形をしている。美人で近寄りがたい見た目をしているが、身にまとうゆっるゆるの雰囲気で相殺され、本人の人当りもよいため近所との付き合いはそれなりにいい。

 現在は、教師になるため教育実習生として日々精進している。


「そか、弁当は食卓においてあるからそれ持ってってくれ。」

「わーい、林君のお弁当だ~♡。」

「がんばれよー。」

「はぅ‥‥‥林君が私にがんばれって‥‥‥ふふふ、ふへへへ‥‥‥。」

「気持ち悪いぞー。」


 御覧の通り、彼女が俺の義姉になったのは一〇年前。当時俺は五歳、義姉は九歳でそこそこ歳が離れていたのもあり最初一年はなかなか打ち解けることができなかったが、とある事件がきっかけで義姉はブラコン街道まっしぐらなのである。

 それが、九年たっても変わらず余計ひどくなっている。


「もう!気持ち悪いだなんて、ひどいじゃない!」

「実際、あんたの動きは気持ち悪いんだよ。客観的に自分を見てみろよ!」


そんな義姉がどんな動きをしているかといえば、両手をワキワキと動かし、だらしなく口をあけながら千鳥足で近づいてきている。

 これを気持ち悪いといわずして何と呼ぶよ‥‥‥。


「まあ、いいよ。早くいけ、時間ないぞー。」

「え?ああ!本当だ!じゃあ行ってきます!」

「おう、行ってらっしゃい。」


 義姉を見送り、自室へもどる。


「さて、今日はどうしようか‥‥‥。」

〔そうですね、今は秋田県仙北市の抱返り渓谷にエリアボスの反応があります。〕


 エリアボスかぁー‥‥‥でも、昨日の赤鬼との戦闘でもうお腹いっぱいだからな、ボス戦はしばらくいいかな。

 そういえば、ボス討伐の報酬になんか武器貰ってたな。確か‥‥‥【仙鬼長杖せんきちょうじょう貪炎どえん】だったな。


「今日は、昨日手に入れた武器を試してみようと思う。」

〔ああ、あれですね。それでしたら先日倒した【貪欲鬼:赤火】がいた場所へ行くことをお勧めします。〕

「OK、ありがとう。‥‥‥【仙術:縮地】」


 俺は早速ゲームを起動し【仙術:縮地】を発動。


「さあ!やってまいりました!池袋西口公園。早速武器の試し振りをやってみよう!」

〔なんか、テンションが高いですね‥‥‥。〕

「そりゃあな、新武器の試し振りだぞテンションくらい上がって当然だろ。」

〔はあ、そうですか‥‥‥。それでは、武器を出してみましょう。まず、【インベントリ】と唱えてください。〕

「【インベントリ】」


 そうすると、目の前に黒い渦のような穴が出現した。これが【インベントリ】なのだろう。


〔そこに手を入れて取り出したいアイテムの名前を言ってください。〕

「‥‥‥【仙鬼長杖:貪炎】」


 いわれた通りにやってみれば気が付けば、手には赤い金棒が握られていた。

‥‥‥そう、金棒だ。


「いや、何でだよ!長杖って言ってたよね⁈思いっきり金棒なんだが?」

〔そうですね、武器としての使い方も見た目もまんまですが、種類としては長杖です。あと、正式な名前は金砕棒または砕棒です。〕

「うん、それは知ってんだけどさ。杖って書いてあんのに出てきたのは思いっ切り金砕棒なんだが?」

指摘されたので名称を言い直す。

‥‥‥金砕棒ってちょっと長いな撮棒って呼ぶか。


〔それはそういうものと受け取ってください。このゲームにあるアイテム等は、カテゴリーとアイテムの形状使い道は別になります。〕

「え、じゃあ今後名前に剣ってついてるのに形状は槍みたいな武器とかも手に入れることになったりするのか?」

〔いえ、流石にそういう武器はありません。例外も存在しますが、基本は魔法の発動媒体になってる剣、槍等は杖としてカテゴライズされることが多いです。〕


 へー。じゃあ一応こいつも杖ってことでいいなだな。


「まあ、いいや。じゃあちょっと振ってみるか。」


 俺は【仙鬼長杖:貪炎】を構え上段から振り下ろす。

 赤く巨大な撮棒は低いうなり声をあげ地面に向かって振り下ろされる。

 

「うお⁉」


 そして、あまりの重さに寸止めをすることができず、地面に撮棒の先端がめり込み穴が空く。

 俺は、しまった!と思ったがたまたま近くを通りかかった人は特に気にすることもなくそのまま通り過ぎて行った。

 どういうことかとヤシロに聞いてみると、


〔以前説明した通りアストラルボディーの状態で現実に元からある物体に干渉することはできません。ですが、地面などの地形に関してはすこし仕様が変わっており、攻撃などの当たり判定があります。ですので地形変化形の術や技などを開発することができます。またそれ使って大きな地形破壊をしたとしても現実に元からある景色や地形が変わることはありません。〕


とのことだ。

 これはいいことを聞いたぞ思った俺は、大地震のようなものを起こす術や技が万が一あったとしてもプレイヤーやエネミーにしか影響がないから遠慮なくぶっ放せる。

 更には、巨大なそれはもう恐ろしいほど巨大な剣を作り山にぶっ刺したとしても元の景観に悪影響が出ることはないだろう。

 それを踏まえもう少し撮棒を振る練習をする。

 今度は遠慮なく地面にクレーターを作るくらいの気持ちで振れば少し降りやすくなった。被害を考えて無理に力が入ったから振った時に撮棒に体が持ってかれたのだろう。

 それでもこいつかなりのじゃじゃ馬で、そもそものサイズが今の俺と比較して巨大なのだ。持ち手から攻撃部分にかけて徐々に太くなっていくような形状をしていいる。また、攻撃部分は真上から見る正六角形になっており、かなり殺意が高めである。ここだけ聞けば普通の棍棒と似た形状なのだがその長さは最初にもらった長杖と同じかそれよりっも長いくらいだ。それだけで重量はかなりの物だが、攻撃部分には厚さ二ミリほどの細長い鉄板が六面すべてに打ち付けられている。

 素の肉体では持ち上げるのがやっとの重さで、アストラルボディーの元の身体よりも身体能力が一〇倍という仕様がなければ振り下ろすことすらままならなかっただろう。


「すー…ふー‥‥‥一〇パーセント強化【仙術:剛腕の型】【仙術:剛脚の型】」


 それでもさすがにきついので、筋力強化系の仙術を使い身体能力を上げる。


「うん、多少降りやすくなったなが、一〇パーセントじゃこれ持って戦闘はきつそうだな。やるなら五〇パーセントでやるのが無難だろうな。」


 ちなみにこれは西口公園に来る前に思いついたことで、強化の使う闘気の総量を調節するために強化度合いをパーセンテージとして数値化させた。

 ただし、これは感覚的なものなので正確ではないが‥‥‥。


「でも、とりあえず強化なしで振る練習をした方がいいかもな。」


後は、素の身体でのトレーニングなんかをするのもいいだろう。素の身体での身体能力が上がれば、アストラルボディーの身体能力が格段に向上するはずだからな。

 いったん強化を解き、もう一度撮棒を振る。身体に不釣り合いな得物を振るんだったら力で振るよりも重さと遠心力で振った方が確実に降りやすいし体力の消費も少ない。それに、威力も上がる。使う力は手元に保持する力に集中させるだけでいい。

 それを踏まえて数回振る。だんだんコツがつかめてきて片手でぶん回す程度なら容易にできる。


「うん、いい感じだな。」

〔驚きました。重量級のぶきっはかなり扱いが難しいので使いこなせる方は非常に少ないのですが、〕

「まあ、自分で言うのもなんだが、俺はこういうものを扱う技術に関してはずば抜けてセンスがある方なんだよ。だから、剣術やら槍術なんかも早い段階で極めるとはいかずとも使いこなすくらいはできるようになってるんだ。」

〔そうなんですか。じゃあ体術の方はどうな何でしょうか?先日のボス戦ではお見事な体さばきでしたが‥‥‥。〕

「ああ、それも自分の身体の部位一つ一つを道具と見立てて動かしてるんだよ。そもそも道具を使うことが得意な時点で体を動かすセンスも結構あっただよ。」

〔なるほど‥‥‥。〕


 まあ、家族にもそんな感じの反応をされたなぁと、思いながらどんな術を創ろうかと構想を練る。


「‥‥‥!」


 無新で真っ赤な撮棒を振っているとある仙術を思いついた。

 撮棒を地面に突き立てるように置き、思いついた術の名前を唱える。(ちなみに、仙術や螺旋水槍などの闘気や神通力を使った術や技はなどは、わざわざ名称を唱えなくてもいいのだが俺は雰囲気重視で行きたいため、本気になるとき以外は技名を言ったり、呪文詠唱したりしている。)


「【仙術:柔腕じゅうわんの型】」


 そうすると、腕の力が抜け脱力した状態になる。

 ただ、完全に力が抜けるというわけではなく大きな関節の部分の力が抜けているといった方が正しい。

 これは、剛の型の対になるようなイメージで創った。

 闘気を関節に集中させて、間接軟骨の密度を随時調節、こうすることで普通じゃ曲がらない方向にまで腕を曲げたりさせることができる。関節が柔らかければ、攻撃の回避なども楽になるといううのは武術を習ったときによく理解している。

 ただ、関節軟骨の密度を動くたびに変え続けなければいけないため、剛の型よりも使用難易度は高い。


「よし!じゃあ試してみるか【岩案山子いわかかし】」


 もう一つ神通力を使って新しい術を使う【岩案山子】名の通り石でできた人型の人形を生成する。


「【仙術:柔腕の型】【仙術:柔脚じゅうきゃくの型】【仙術:養老・纏】‥‥‥【仙技:仙鬼柔弾せんきじゅうだん】!」


 これも、仙鬼剛撃と対になるような形で生み出した技。ちなみに名称にある仙鬼は初めて仙技を使った相手が鬼だったのと悪魔形態で使用したことが由来だ。(悪魔は英語でデヴィルと読むこともできデヴィルには鬼という意味も含まれている。)

 俺の拳が撃ち込まれた案山子は徐々にひびが入ってゆき数秒おいてから完全に砕け散った。

 これが、仙鬼剛撃だった場合は一瞬で粉々になっただろう。仙鬼柔弾の違う点は柔らかくなった関節すべてをしならせて一点に力の波を集中させ的触れた瞬間に力の波を流し込む。力の波は最初は触れた一方向にのみ流れたがやがて力の波は枝分かれしてゆき全体に波の負荷がかかる。

 そして、一番最初に波を流した部分から徐々に崩壊していくという。剛撃が純粋な破壊なら柔弾は力の波による崩壊。どちらも攻撃力はかなり高い剛撃をメインで使い表面の堅いものには柔弾を使用という運用方針だ。


「うん、いい感じだな。後は‥‥‥そうだ!‥‥‥【仙術:気流砲きりゅうほう】」


 俺は、【岩案山子】をもう一度複数体生成し、そのうちの一体に向けて闘気をそのまま放つ。すると【岩案山子】は見えない何かにはじかれたように吹っ飛ぶ。


「よし、うまくいった。」


 闘気をそのまま放出できないかと考えたがなかなかうまくいったな。

 これを柔弾と組み合わせて‥‥‥


「あとこいつも使うか【仙術:重金体】‥‥‥【仙技:仙鬼柔弾・激流】!」


 今度は柔弾を当てる瞬間に【仙術:気流砲】を使い力の波と一緒に闘気を流し込む。すると、さっきよりもはやい速度で【岩案山子】が崩壊していく。


「よし!今後ほとりあえず剛撃と柔弾を必殺技にできるな。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る