退屈との別れ⑵

 俺は、退屈なことが嫌いだ。

 だから、俺は退屈しのぎといって色々な趣味を始めた。武術を習ってみたり料理を始めてみたりと本当に様々なことを始めすぐに退屈になりやめるを繰り返した。

 もちろん学校に行っていた。多様な人種がいて退屈することはなかったのだが、俺は生まれつき耳がよく、俺への悪口陰口をいやでも耳にしてしまう。

 そんな生活を続けていたら精神はすり減っていく。

 今でこそ図太い人間になったが、当時の俺は自慢ではないが軟弱な精神を持っていた。当然そんな生活に耐えられるわけはなく、心が折れて学校を中退した。多種多様だったはずの声音も十人十色だったはずの性格ももうすべてが同じ音に聞こえ目に見える景色も灰色一色になった。生きること自体が退屈に感じていた俺は学校をやめた分さらに、様々な趣味を始めた。

 ネットゲームなどもその中の一つだったが当時絶賛人間不信だった俺にとってはチャットなどもせずひたすらソロでプレイしていた。当然だがほとんど人と関わらずにプレイしていれば、退屈だった。

 そこで、趣味と一緒に始めた小遣い稼ぎで作ったいくつかの貯金を切り崩しフルダイブ型VRゲームなども購入し始めた。現実とは違う世界に行きファンタジーの世界を旅をするそんなゲームだ。たくさんのモンスターと戦いピンチに陥ったことも多々ある。

 それでも、何かが物足りなく感じた。

 そして俺はわかった。俺が求めていたものは、自分を極限まで追い込んだひりつくようなもだということを。それこそ死の一歩手前までピンチになったりしないと俺の退屈で空虚な心は満たされないと。

 だがそんな体験が今の平和な社会でできるわけもなく、それに近い体験ができそうなスポーツ・eスポーツの大会に出場したこともあるがそれでも足りない。選手の中にはそれに人生をかけている者もいたのだろうが、結局は競技だという感覚はぬぐえず必死さが足りないものが多かった。世界で一握りしか存在しないような、本当に人間かと疑いたくなるような奴や人生をかけている奴と運よく相対したときは本当に楽しかった。

 その瞬間だけは、灰色になっていた俺の世界にも少しだけ色が付いた。以降は、同じようなっこともなくまた灰色一色の退屈な生活に逆戻り。

 そんな中、眼にした広告が【Astral・Warriors】のオープンβの募集だ。刺激にいつも以上に飢えていたから勢いで応募運よく当選。


「そして今に至るというわけだな。」

「いや‥‥‥あの、はい‥‥‥。」

〔その、何と言いますか‥‥‥。」

「どうした?」


二人から、俺がさっきからずっと笑っている理由を聞かれたから特に何も隠さずに答えたが、何か微妙な顔をされた。


「あ、いえ気になってたことを知れたので、ありがとうございます。」

「‥‥‥別に気を使わなくてもいいんだが。」

〔こちらこそお気になさらず‥‥‥。〕


 まあそうだな、わざわざ暗い(?)話をしなくてもいいからな。


「じゃあ、結構脱線したけど神通力の件。」

〔ああ、そうでしたね。〕

「そうでした。それでどうしましょうか‥‥‥。」

「まあ、多分なんとかなるだろうから気にしなくてもいい。それよりも、能力のことを隠すか隠さないかなんだよな‥‥‥絶対目立つ。」

「それに関しては、大丈夫だと思いますよ。実力をつければ遅かれ早かれ有名になるし目立ちますから。」

「それだったら、自重はしなくてもいいな‥‥‥うん、問題ないな。」

「そうですか?」

「ああ、大丈夫だ。」

「では職務に戻りますので、何かあった場合は再びGMコールをしてください。それではこれで‥‥‥。」

「ああ、また会ったときは頼む。」


 そうして、明石さんは光になって消えていった。


〔それで、マスター神通力はどうするのですか?〕

「うむ!ヤシロ君いい質問だ。」


俺は教師っぽく答えた。


「このゲームは、プレイヤーの技術とイメージで大概のことは何でもできる。神通力は、字ずらの通りなら神に通じる力それだったら本当に何でもできる‥‥‥はず。イメージを固めれば。」

〔あいまいですね‥‥‥。〕


 うるせいやい。


「とりあえずやって見るぞ。」


 まずはどんなことをするのか決める。

 そうだな‥‥‥試しに水を生成してみるか。

 まずは、アニメとかでよくあるような魔力この場合は魂氣を感じ取るところからだな。

 目を閉じてそれっぽく瞑想する。

 すると、体中を何かが流れるようなの感覚を感じ取る。

 それは、イメージするだけで流れを早くしたり遅くしたり面白いように俺の思い通りに動く。これが、神通力だろうの源になる魂氣だろう。

 この流れを本流から枝分かれさせて、体外へ放出するイメージを‥‥‥お!できた!

 それじゃあ、これで空気中の水素酸素を動か‥‥‥せないな?じゃあ今度は神通力で水素分子酸素分子事態を作り出してみるか‥‥‥できたな。これを結び付けて水を生成‥‥‥そうすると、掌から数センチ離れて直径六〇センチほどの水球ができた。後はこれを飛ばすだけだが‥‥‥これって周りに被害とかでねえのかな?聞いてみるか。


「ヤシロ、このまま水球を飛ばしても問題ないか?」

〔‥‥‥。〕


 ヤシロの方を向くと、口をあんぐりと開けて固まっていた。

‥‥‥なんか俺の種族を見た時よりもデカい反応だな。


「どうした?」

〔あ、いえ‥‥‥まさか、自力で術を扱えるようになるとは思わなかったので‥‥‥。本来は、術を扱える方に師事をして習得するものなんですが‥‥‥。〕


 なるほど、


〔それで、先ほど質問ですね?はい、問題ありませんそもそもアストラルボディーの状態で現実に元からある物質に影響を及ぼすこともできませんので。〕


 ああ、だから空気中に元からあった元素に干渉ができなかったわけだ。


「ありがとう。」


 それじゃあ、球のままじゃあ面白みがないから槍の形に変えるか。魂氣を操った時と同じ要領で、水球を水槍にする。


「折角だから回転も加えてみるか。」


 槍形状の水を螺旋状に回転させる。スピードを徐々に上げていき高速にまで引き上げる。名前はかっこいいのをつけるか、そうだな‥‥‥螺旋水槍とでもなずけるかな‥‥‥よし!


「【螺旋水槍らせんすいそう】!」


と、やり投げのフォームで腕を振るい自宅の壁に向かって高速回転する水の槍を飛ばす。すると、壁に触れた瞬間槍は霧散し跡形もなく消える。


「?」


俺は首を傾げ少し考え、納得する。

 アストラルボディーの状態で現実に干渉することはできない。つまり、壁に当たったところで水が飛び散るわけでもなく雲散霧消、周囲への被害はゼロというわけだ。


〔初の術式発動おめでとうございます。次は、エネミーの討伐を行うことをお勧めします。〕


 そういえば、敵とかもいたんだったな。


「うん、やってみよう。」

〔わかりました。あ、忘れていましたがメインウェポンとサブウェポンを選んでください。〕

「おい。」

〔すみません。〕

「はー。」


 このAI、もしかしてポンコツなのか?

 まあいいか、そうだなメインウェポンに長杖とサブウェポンに打刀でいいか。長杖は西遊記に登場する孫悟空の持っている如意棒のような形状のものだ。使用する武器をヤシロに伝えると数秒たち武器が光とともに現れいつの間にか手元に一六〇センチほどの真っすぐな棒と腰には打刀を差していた。


「おお~‥‥‥。」


 俺は試しに手に持っていた棒を振るってみると低い風切り音が鳴った。

 うん、いい感じだな。


「じゃあ、早速行ってみるか。ヤシロ、手ごろなエネミーがいるエリアはあるか?」

〔はい、今なら渋谷駅周辺に【黒狼】【ダッシュバード】【小鬼】の三種類のエネミーが存在しています。〕

「ありがとう。」


 渋谷だな‥‥‥ここからだと今なら走っていけるかな?

 それと、身体強化も試してみるか。

 これも、アニメとかで見る気闘法とか仙術みたいな感じだな。

 さっきみたいに体内の魂氣を感じ取り今度は体外へ放出せず、体内で魂氣を粘土のように練り上げる。

 そうだなこれを闘気って呼ぶか。

 そして、闘気を体の一部分にため込む。今回の場合は足だな、足に集中させた闘気を感じ取り十分にたまったと思ったら走り出すと同時に足裏から一気に放出する。

 そうすると、ジェット噴射のように一気に解放された闘気による推進力で一気に加速し一歩で約二〇メートルほど進むことができた。


「すげーなこりゃ‥‥‥よし、【仙術:瞬動しゅんどう】って名ずけるか。」

〔‥‥‥マスター、少しよろしいでしょうか?〕

「うん?なんだ?」

〔いえ、少し提案が。〕

「提案?」


 ヤシロの提案とは俺がいまだに開発されることのなかった魂氣を闘気へ変換し仙術として使用する技術を俺の名前で運営に本部にある魔法や妖術などの記録がなされているホルダ【アカシックレコード】に登録するというものだ。

 つまり、俺は公式で仙術の開祖になれるというわけだが、そうなるうえでの俺へのメリットは著作権のようなゲーム内のみの法律により仙術を覚えようとすると仙術を扱えるものに弟子入りしなければいけなくなる。こうすることで技術の公開、秘匿を自由に選ぶことができる。

 更に、【アカシックレコード】に名を刻まれるとアルバイトのような感覚で自動的に運営に所属することになるらしいが、運営の権限が使えるというわけではない。そのため何かを強制されることもほとんどない。それでも、運営の役に立っているため少しだけだが月給が出るらしい。デメリットとかは特にないらしい。

 ちなみに【アカシックレコード】は誰でも観覧することができるらしい。


〔と、このような感じです。〕

「へぇ、そうなると断る理由もないな‥‥‥うん、その提案に乗ろうと思うよ。」

〔承りました。それでは登録に行ってまいります。その間に目的地へ向かっておいてください。〕

「おう。」


 そうすると、またヤシロは光になり消えた。


「じゃあ、言われた通り渋谷に向かいますか。」


 その時、俺はふと思いついた先ほど生み出した瞬動とは別の技を生み出すことにした。イメージとしては自分がたっている場所と目的地との間の空間を切り取り現在地と目的地をつなげるって感じかな?魂氣を今度はそのまま神通力として使いイメージの中にある仮想の道のりを切り取り縮めてつなぎ合わせる。そうイメージしながら【仙術:瞬動】を同時に発動させ足を踏み出してみるときずいた時には渋谷のスクランブル交差点のど真ん中にいた。


「お、おうぅ‥‥‥。」


割とあっさりできていしまった。

 これにも名前を付けるか‥‥‥そうだな、【仙術:縮地しゅくち】とかかな?


〔お待たせいたしました‥‥‥て、もう着いたんですか?〕


 渋谷に気づいたら到着した時にヤシロも戻ってきた。


「おう、新しい仙術を生み出したんだよ。」

〔そうだったんですか!それじゃあちょうどよかったですね。〕

「ちょうどよかった?」

〔はい、【アカシックレコード】にマスターのお名前を登録しましたので今後はマスター自ら術や技をを登録することができます。【仙術:瞬動】は既に登録してあります。今度は先ほど生み出したものを自分で登録してみましょう。ガイドに従ってください。〕

「わかった。」


と、ヤシロの指示通りに【アカシックレコード】にさっき生み出した縮地を登録した。


「よし、これで出来たな。」

〔はい。〕

「そうだ、【アカシックレコード】って誰でも見れるのか?」

〔はい、可能です。ご希望でしたら匿名にもできますが‥‥‥どうしますか?〕


 匿名で、登録とかもできるんだ。


「まあ、別にいいかな。」

〔了解しました。それでは、次ぎにエネミーとの戦闘を行ってみましょう。〕

「待ってました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る