第二話 退屈との別れ
新型ゲーム【Astral・Warriors】のオープンβの説明会からの帰宅後俺は家で早速ゲームの起動に取り掛かった。起動方法は簡単、外側と内側の二つのパーツに分かれた指輪を決まった方向に数回回すことでゲームの起動が完了する。
〔初めまして、私は本作品からユーザーの皆様方にお仕えいたします。サポートナビゲーターAIヤタノカラス番号046です。ユーザーのお名前を登録いたしますこれは本人確認に必要なものなので本名でお願いいたします。〕
視界に三本の足が生えたデフォルメ化された小さな烏が現れたモデルは名前の通り導きの神、八咫烏だろう。
開発者の中に神話やら伝説が好きな人間がいるのだろう。そうでなくともこの手のゲームは、対外神話やら伝説やらがモデルになっている。
「初めまして、俺は
〔承知しました。白林様でマスター登録いたします。完了しました。それではゲーム【Astral・Warriors】のアストラルボディーの設定および作成を行います。プレイヤーネームをご登録ください。これは、公開されるもので登録後は変更できませんのでよくお考え下さい。〕
アストラルボディーの状態で名乗る名前か‥‥‥いつも通りのやつでいいか
「ドールだ。」
〔はい、認証しました。ファミリーネームは作成しますか?〕
「ファミリーネーム?」
何でゲームで名字がいるんだ?フルネームを作るやつも中に入るが別に必要はないだろう‥‥‥いや、待てよ。
「なあ、質問ってしてもいいか?」
〔ええ、かまいませんよ。そもそも私たちヤタノカラスはユーザーのチュートリアルのサポート及び質問への返答そして、問題行動を起こしたユーザーを運営への報告GMへの協力要請などの権限を持っております。〕
思った以上に重要な存在だった。
「それじゃあ遠慮なく‥‥‥そのファミリーネームは作成した場合何か特になることがあるのか?」
〔その質問への返答ですが、ファミリーネームを作成した場合ゲーム内契約での効力が高まります。また、ユーザー同士が了承しお互いの立場を決めたうえで同じファミリーネームにした場合そのユーザーたちはクランと違ったチームを一族連携団通称ファミリアと呼びます。クランは作るのに厳正な審査が必要なため難しいですが、ファミアはファミリーネームを作ったユーザーならば誰でも作ることが可能になります。また、拘束力はクランと大して変わらないためお手軽ではあります。が、クランの方が名が上がりやすいように設定されているので一概にもどちらの方がいいかとは言えませんが‥‥‥どちらを作ることもできるのでご自由にどうぞ。質問への返答は以上です。〕
「ありがとう、いいことを聞けたよ。」
〔それでは、ファミリーネームを作成しますか?〕
「‥‥‥うん、ファミリーネームも作るよ。」
〔承りました。〕
「じゃあ、ヴォルージ、俺のもう一つの名前はドール=ヴォルージだ。」
〔承認しました。ドール=ヴォルージを登録しました。〕
よかった、被りはないっぽいな。
〔次は、アストラルボディーの身体が着用する衣服を作成します。事前にご登録したものがあれば、それを選択してください。〕
「応募と一緒に送ったやつがあるからそれを頼む。」
〔スキャンされた3Dモデルを表示します。〕
そうして、スペクターリングの上に灰色の道着に真っ黒な袴をはいてほとんど黒にしか見えないような暗さの藍色のフードが付いた羽織を着たマネキンが現れた。
ホログラムなのだろうか?こんな小型のマシンで立体映像を映すとか、かなりの技術を詰め込んでるんだな。
「?なあ、何で服だけしか3Dモデルが表示されていないんだ?」
俺はなんてことない疑問を口にした。
〔その質問への返答ですが、アストラルボディーの容姿はランダムで決まるためアストラルボディーの3Dモデルを表示することはできません。〕
なるほど、と思いさらに俺はこれはまずいなとも思った。
これ、服装が容姿に合わなかったら絶対不格好になる、と
「服って容姿を決めた後でも変えられるか?」
〔はい、可能です何ならいくつかのパターンを作ることもできます。〕
よかったー
ていうか発声がだんだん流暢になっている気がする。
〔早速アストラルボディーの作成と体からの分離を行います。アストラルボディー自体は完成しているのであとは指定の衣装を着せて分離するだけです。方法は、スペクターリングの外部パーツを二度押し込んでください。その際身の回りの安全に気を付けてください。〕
「わかった。」
俺はベットに腰を掛け、言われた通り指輪の外側のパーツを二回押し込んだ。
その時、俺の意識は暗転し自分がいた位置とは別の場所に視点があった。
〔無事、肉体と意識の分離が完了しました。現在の容姿を表示いたします。〕
と、表示された俺の姿はというといぶし銀色の長い髪を後ろで一つ括りにしている、身長はかなり低く一五〇センチくらいだろう。唇は桜色で目はぱっちりと開いており左右で違い右目は黄金の月のようなもので左目は血のように赤黒くなっているさらに両目とも網膜が漆黒に染まっており人間の眼とは全く違っていた。だが、それが気にならないほどの見た目をしていたのだ。端的に言えば、ほとんど女の子にしか見えないのだ。
いや、ちゃんとついているべきものはついているんだ言ってみれば男の娘だ。用意した衣装がまあちゅんとにあっていただが‥‥‥いや、まあ…うん。
「まあ、いっか。」
面白そうだからな。
〔チュートリアルを始めますがよろしいでか?〕
「おういいぞ。」
〔それではまず、種族の確認です。視界の左端に人の形をしたアイコンはありますか?〕
視界の左端をに意識を向けてみると確かに人のシルエットをしたマークがあった。
〔そこに更に意識を集中させてください。〕
「うわ!」
言われた通りにその部分に集中してみると、アイコンが拡大しプレイヤーネーム、種族、称号、この四つのみが表示されていた。
〔基本的にこのゲームはプレイヤースキル依存の物で使うことのできる技や術は技量とイメージ力がないと使えないし生み出せないんです。それではあなたの種族を確にn‥‥‥‼〕
俺の種族を見た瞬間ヤタノカラスの動きがフリーズしたかのように固まった。
「どうした?」
〔すみません少々運営に問い合わせてきます。〕
「おう。」
何か問題があったのかヤタノカラスが‥‥‥長いな、呼びかた変えるか。
えーっとヤタノカラス番号046だったよな?じゃあ安直に縮めて‥‥‥ヤ46でヤシロって呼ぶことにするか。
で、そのヤシロは俺の種族に何か問題があったみたいだったが、確認してみるか。
【名前】ドール=ヴォルージ
【種族】神族
【称号】なし
これが、俺のステータスというか今の状態のようなものだが‥‥‥
「ふむ。」
気になるところといえば、種族の欄だな、
「神族ねぇ~‥‥‥なんかやばそうだな~。」
〔失礼いたしました!もうすぐGM来ますのでもう少々お待ちください。〕
はぁ⁈まじで!‥‥‥
「クッ、ククク‥‥‥。」
〔どっ、どうかされましたか⁉〕
「いや、面白そうなことが起こりそうでつい笑っちゃったんだよ。心配するな。」
〔!そ、そうですか。〕
ヤシロの顔が引きつっているように見えたが、おそらく俺の顔を見たのだろう。周りの人間は俺の笑い顔がどこぞの魔王よりも凶悪で怖かった言ってたほどだからなその表情は男の娘になっても緩和されないらしい。にしてもこいつ、結構人間臭いな‥‥‥。
「お待たせいたしました!私はゲームマスターの一人の明石です。」
うわ、びっくりした!
突如目の前に、スーツと羽衣というアンバランスな装いをした女性が現れたのだ。
「‥‥‥。」
「いわんとしていることはわかりますよ‥‥‥ですが、私たちの衣装を作る時間がなかったんですよ‥‥‥。」
「わかりました。その格好には何も言いません‥‥‥それで、おそらく種族のことなんでしょうけど、神族って何ですか?」
「そうですね、めんどくさいので簡単に言いますと‥‥‥」
おいまて、今めんどくさいって言ったぞこの人。
「公式チート、ですね。」
「そうですか。ヤシロ説明頼む。」
〔へ?あ、はい?私ですか?〕
首肯して再びヤシロに説明を求める。
〔コホン。わかりました、それではまず種族の説明から。このゲームには基本的に悪魔族・幻獣族・怪異族・精霊族の四種類の種族が存在します。また、その四種族はそれぞれ一つずつ特殊な力を使うことができます。この力を魂氣といい魔力・呪力・妖力・霊力、この四つです。悪魔族は魔力、幻獣族は呪力、怪異族は妖力、精霊族は霊力とそれぞれに対応しております。ですが、神族はそれら四つすべてのこと以上のことができる魂氣、神通力をもっています。これを扱えるのは神族以外でGM専用種族天使族のみなんです。〕
予想どうりかなりやばかったわ。
「ヒィ!‥‥‥。」
おっと、また笑ってしまったようだ。
「すいません。」
「!い、いえ、こちらこそ‥‥‥。」
「ヤシロ、説明を続けてくれ。」
〔はい!それで神族は一応製作はされていたのですが運営の誰もユーザーの誰かが神族になるとは予想していなかったんです。〕
「そういえば、天使族も神通力を使えるんだったよな?何か違いはあるのか?」
〔はい、GM専用の天使族はオートでその場に適した術を使えるようになっているのですが、それ以外の種族は完全なマニュアル操作なんです。それは神族も同様です。つまり、天使族は扱いやすく汎用性が低く神族は扱いずらく汎用性は高い、ということなんです。〕
「へー‥‥‥ありがとう、だいたいわかった。」
「〔‥‥‥。〕」
「どうした?」
また二人とも固まった。
「あ、いやそのう……。」
〔マスター‥‥‥その表情をやめてください、流石に怖いです。〕
また笑っちまってたか‥‥‥。
「わるいな笑い顔が怖いってよく言われるんだよ。」
「そ、そうですか‥‥‥。」
〔その、説明は以上になるのですが‥‥‥こちらからもよろしいでしょうか?〕
「?なんだ?」
〔ヤシロって何ですか?〕
「ああ、それは私も気になりました。」
「いや、別に、ヤタノカラス番号046とかながいし縮めてヤシロな。今後もこの呼びかたで行くつもりなんだがいいか?」
〔あ、はい!それは構いませんよ!〕
どことなくうれしそうだな。
「なるほど、流石にそのままの名前は長いのか‥‥‥じゃあ正式リリースの時はヤタノカラス達にコードネームを与えた方がよさそうですね‥‥‥。」
明石さんが何か考え事をしているようだがまあ気にすることはないだろう。
問題は、その魂氣がマニュアル式だってことだろう。神族は作ったはいいがこの種族になる想定はしていなかった、いやこの種族になったものがクローズドβ版の方にいなかった。オープンβのプレイヤーたちは魂氣を用いた技術をクローズド版のプレイヤーたちから教わらなければならない、だが神通力をマニュアルで使えるのは俺だけでどうやって使えばいいかわからないこれが現段階での問題だが‥‥‥。
「ククッ!」
これは退屈しなさそうだ。
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