第2話
その夜、ユミコは奇妙な夢を見た。
彼女は、慣れ親しんだ乙女ゲームの世界に入り込んでいた。だが、そこは彼女が何度もプレイして知り尽くしたDawn of Lightの世界ではなく、ユミコが苦手としていたEclipse of Shadowで見た光景だった。その現実感に肌がぞわりとした。
目の前に立つのは一人の男性。黒い鎧に身を包み、己の目的のためには非常な手段もいとわない厳しさを予感させつつ、その横顔は抗えない魅力をもった鋭い美しさだった。彼がゆっくりとこちらに向いた時、赤い瞳がユミコを捉えた。その瞳は、深淵のような孤独を湛えていて、ユミコの心をくすぐった。彼をユミコはすでに知っていた。その名前はヴァルデマール。
ヴァルデマールは驚きながらもユミコを見つけ、彼女に近づいてきた。その彼の手がユミコに向かって伸ばされた時、彼の表情は何かを伝えようとしているかのようだった。だが、その言葉はユミコには届かず、遠く遠くから聞こえるような感覚に彼女はもどかしさを感じた。何とか理解しようと試みた矢先、ユミコの意識は夢の世界から引きはがされてしまった。
その時ユミコは前日に寝ていたはずのベッドとは異なる硬くて冷たい感触に違和感を感じた。
目を開けたが、そこは真っ暗で何も見えない。そしてなにやら土のようなにおいがした。手探りで下を触ると、冷たく湿った土と石の感触がした。
「どうして??私ベッドで寝たはずなのにどうして外にいるの??」
パニックになりながら、周りを手当たり次第に触るとユミコの周りは丸く、石壁で囲まれていることがわかった。
「もしかして、これって井戸の中???」
ユミコが上を見上げると、よく見れば星明りが見えた。
「うそでしょ?信じられない…。でもとにかく外に出ないと…。」
必死になって、手を伸ばしながら、井戸の中をまさぐっていると、その手に何かが触れた。
それを慎重に触って形を確かめる。
「これ、縄梯子かも!」
ぐいっと引いてもしっかりと引っかかっているようで、外れる気配はない。
ユミコは決意を固め、縄梯子を掴み、登り始めた。
「ぐらついて握りにくい…」
目の前には暗闇だけ。何も見えず、感覚だけを頼りにする彼女にとって、それは困難な挑戦だった。しかし、登るにつれて視界が明るくなり、出口への距離が近づいていることを感じた。
「あと…少し…くっ、頑張らないと」
すでに手の感覚がなくなりつつあったが、最後の力を振り絞り、ようやく井戸から脱出すると、
「ついたー。ああああ。つらかった。」
ユミコは息絶え絶えで地面に横たわった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます