第一章 別拠点へ遠征する最中に
第一節 何かを感じた矢先
江東区を出発してから品川区、大田区を抜け、川崎市に入った。走り始めて川崎市に差し掛かったのはたったの二〇分しかかかっていない。推定時速六〇キロで走っているようだ。。神奈川で面積が大きい横浜市を抜けて、約一時間半の時間をかけてようやく小田原市に着いた様子。
「走りすぎで腹が減っちまったぜ。どこかにラーメン屋はないかなー」
小田原市に着いてからお腹の音が頻繁になるようになった。どうやら走りすぎてエネルギーを使い果たし、空腹を満たすために街をジョギング程度に走って辺りをきょろきょろと見渡している。小田原家系ラーメンの店を見つけて疾風の如く突っ走る。扉を勢いよく開けてからこう叫んだ。
「おすすめのラーメンお願いするぜ!」
店に入るやいなや店員に注文をする。いきなり扉が空いたかと思えば大きな声にびくつく人もいれば無反応の人もいて、さらにはびっくりしすぎて声を上げてしまう人まで様々なリアクションをしている。そして、彼女に近づいていく一人の店員がいた。
「あのー、いきなり入ってきてなんなんですか? まだ席に着いてないのにそういうのはやめてください」
「そんなこと言っていいのか? ドラグーン学園所属兼学園長の秘書をしてるルミエールなんだけど……」
こう言った瞬間店内やたまたま聞こえてしまった通行人がほぼ同時に彼女に視線を向ける。そして一気にざわつき始め、通行人の人がぞろぞろと集まってくる。店員はびっくりした様子であたふたし始める。中には携帯を取り出して撮影する人もいる。
「あ、あのかの有名なドラグーン学園の……これは失礼いたしました。代金はいらないので飛びきり美味しいラーメンを作ります! 完成までに時間がいるのでどうぞごゆっくり!」
何かを察したのか払わなくていいと言って、すぐさま厨房に戻り他の店員にも伝え、厨房が慌ただしくなる。それを見ていたルミエールは申し訳なさと心配そうな表情で見ていたが、一つなにか引っかかったことがあったみたいで店員に話しかける。
「払わない代わりにだが、もしうちの口に合ったら販売するのはどうかな? もしかすると今よりもっと売上が高くなるかも?」
そう言った瞬間に店員たちの反応は驚きと期待の感情が混ざりあった様子でみんな一斉に賛成をした。もちろん客も賛成で反対する人は誰一人いなかった。完成まで時間があるため、彼女は一旦外へ出ようとして振り返ると噂を聞き付けた通行人や住民、さらには道路を走っていたドライバーたちまで群がっていた。
「あの、ルミエールさん! いつもこの場所を守ってくれてありがとうございます!」
周りの人たちは安全圏ということを知っているため、感謝の言葉で溢れかえる。誰かを見た瞬間に黄色い声を発する人たちもいて、さらに集まり始める。彼女はとても困った様子で言葉を発した。
「今は世界が崩壊している。あの事件が起きてから限られた人類しかいないからね。全人類の七、八割殺されて、日本もほぼ二割しか残ってないからみんなが大切なんだ」
今も尚増え続けている。その数はざっと数千人にも及び、押し合いがすごく喧嘩する人もいれば、ドローンを使って見る人もいる。そして、講演的なことをし始めて耳がいいのでそろそろ完成することを見計らって店内へと戻る。それに釣られて外にいた人は店内の中を覗いている。
「ルミエールさん、あと少しでできますのでカウンターで座ってお待ちください!」
頷いてからカウンターへ行こうとすると先に座っていた客が場所を開けるように退き始めて、歓迎の席を作りあげた。だが、緊張と注目される恥ずかしさで体温が上がり、顔が赤くなる。席に座ると、隣にいた客が話しかけて他愛もない話をしていて時間を潰している様子。
麺や汁、他の具材を店員全員で食べて多数決で取りながら作っている。あと少しで完成するので、みんなやる気が上がってスパートをかける。そして遂に……。
「ルミエールさん、飛びっきり美味しいラーメンを作りました! どうぞ、召し上がってくだせぇ!」
完成と同時にその場にいた人たちや噂を聞き付けた人たち全員が拍手をして、辺り一面に大きく鳴り響く。店長と思われる人が頭を何度も提げて、感謝の意を伝えた。そして、静まるように合図をして喉を鳴らした。
「さて、味やコシはどうかな?」
見た目はごく普通の家系ラーメンにしか見えない。みんなが注目している中、ルミエールできたてのラーメンを食べ始める。
彼女の舌の喉に違和感を感じた様子で勢いよく食べている。見ている人たち全員がおおと声を上げて期待が高まっている。ものの数分で食べ終わって食器を置くと同時にみんなの喉がゴクリと鳴る。
「これは最っ高に美味い! 美味すぎてもっと食いたい気分!」
合格と出た暁に全員が歓声をあげる。店長らしき人がほかの仲間たちに囲まれて、抱きついたりハイタッチしたりとかなり嬉しい様子で満面の笑みを浮かべていた。
歓声が響き渡ってるのにも関わらず、彼女に話しかける。
「申し遅れました。ここのお店の店長を務めてます。ルミエールさんのおかげでみんなに
ルミエールは照れくさそうにそんなことはないぜと言わんばかりにグータッチをした。その後、そのラーメン屋に居座ってレシピを作るために協力した。外に出ると日が沈みかけていた。
「じゃ、大阪の遠征途中だから帰りに来れたらまた来るぜ。またな!」
そう言うと道路にいた人たちは彼女のために、道を空け始める。知らない間に数万人と集まっていた。
「またお待ちしております!」
店長は手を振りながら、笑顔で彼女を見送った。姿が見えなくなるまで。
「寄り道してしまったな。次はどこに行こうかなぁ」
考えながら走っているが未だに人集りはなくならないと思っていたが、あのお店から約一キロくらいから人が少なくなってみんな笑顔で見送っている。まるでパレードのように。
そして、スタートしてから約一時間かけて沼津市へと差し掛かった。この辺りからゴーストタウンが目立つようになってきて、今でも崩れそうな建物もちらほら見かける。周りの音は何もなく、風の音や崩れそうな石の音がするだけ。
「昔の沼津はこんなんじゃなかったのにな……復興はできるけどまずはここを占領しないと無理だよな……」
そう考えているうちに、富士市になる。そして日本一の山である富士山が夕日の空にそびえ立っていた。出発してから二時間が経過している。二日以内に大阪には着きたいという思いがあるのかスピードを上げ始めた。
沼津市から遠くなるにつれてゴーストタウンから、倒壊した建物がごろごろと目立つようになってきた。約四〇分かけてようやく静岡市に到着した。だが、立ち止まることなく、走り続けている。
「いるんだろ? 隠れてもバレバレなんだよな。うち、気配がわかるから。姿を見せな」
何かを察したのか立ち止まって誰かに話しかけ、倒壊していない建物から人間と鬼を混ぜたような姿をした人影が出てくる。お見事と言わんばかりの不気味な笑みを浮かべた。そして、ルミエールの心の中がざわつき始めたようだ。
「あーあ、つい癖で殺気を立ててしまったぜ。まぁいい。楽しませてくれよ……な!」
消えたかと思えば、ルミエールの目の前まで来て突然蹴りをしようとしている。避けようとしたが反応が遅く、避けきれずにその蹴りを直撃してしまった。その力は凄まじく、勢いよく蹴り飛ばされたサッカーボールのように飛んでいく。建物の壁に何度も打ち付けられながら約一〇〇メートルでようやく止まった。
「見た目は小さい女の子だが、あれは鬼だな。ステータスが低いから避けようにも避けきれなか──」
気配を感じたルミエールはすぐさま脚に力を蓄えて地を思いっきり踏みつけて空に飛び上がる。その高さは二〇〇メートルほどである。彼女の腕は変な方向に曲がり、肋骨を曲がっていない腕で抑えている。普通の人間から即死レベルのパワーの持ち主のようだ。
「再生はまだか……。ちょっと疲れるけど
「さっきの蹴りで即死にならないなんてさては能力者だな?」
蹴った場所から既にルミエールの背後にいた。驚いた様子ですぐに攻撃を仕掛けるが、遅いのか腕を掴まれて下に向かって勢いよく投げられる。受け身を取ろうとしたが、負傷していてなかなか動いてくれず地面に叩きつけられる。
叩きつけられた衝撃で砂埃が舞っているため、すぐさま再生の能力を使った。折れた腕と肋骨はみるみる再生して、何事もなかったかのように動けるようになった。
「少し借りるぜ。ドラゴンハーツ、セカンド!」
砂埃の外から突風のように風が吹いたかと思えば、鬼が上空の方で蹴っていた。突風とほぼ同じくらいの風の力であった。また消えて目の前まで移動して殴りかかろうとしたが、彼女には見えているのかすんなりと避ける。そして、何も見えないままいきなり勢いよく鬼が吹っ飛び始める。
彼女もまた消えていつの間にか鬼が空に飛んでいた。あとを追いかけるかのように目の前まで接近して爪で攻撃しようとした瞬間に何か言い始めた。
「そうこなくっちゃなぁ。ここに来たヤツら全員弱くて呆気なく死んだからお前がいると楽しくてたまんねぇぜ」
少しだけ口から血が垂れていて手で血を拭う。さっきの蹴りで負傷したようで、嬉しいのか楽しいのか不明だが不気味な笑みを浮かべていた。そしてルミエールも同様だがアドレナリンが分泌され、笑っている。
「見事なスピードとパワーだがまだ遅い!」
そういうと手首を掴んで回転し始めて、回す速度を徐々に上げて高速回転したところを見計らってまた地面に放り投げる。落下の受け身を取ろうとしたが、落下速度が速く間に合わないと判断したルミエールは槍を無の空間から出して思いっきり上空に投げる。
「そんなんで当たると思ってるのか? 残念だったな」
軽々と避ける鬼だが、視線をまた元に戻すと彼女はいなかった。周りを見渡す鬼の背後にいた。どうやら、槍の力で
「残念だったね。これで終わりだ」
鬼は恐る恐るゆっくりと背後を見る。そこにはブレードが赤く光る槍を構えるルミエールがいた。次の瞬間少し動いたかと思うと一瞬で振り下ろした。斬波のようなものが槍のブレードから放たれ、地面に衝突した瞬間にものすごい物音と砂埃が舞う。
しばらくすると砂埃も落ち着き始めて、視界が良くなる。長年引き伸ばされた大陸のように地面に裂け目ができていて、その長さはざっと三〇〇メートルまで続いて深さは闇に包まれるほど深い。
「呆気ないのはそっちだったようだな」
何事もなく裂けていない地面に華麗に着地をするが、耳をあらゆる方向に動かして生きているか否か確認している様子。そして、ある場所に向かうために歩き始める。目的に着いた様子だが、いきなり動きが完全に止まってしまう。まるでその場で凍りついたかのように。
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