第35話 新しい世界観
数日たち、心晴との噂は消えていった。なぜなら、裕翔くんが友達数人に噂を広めてもらうように手配してくれたらしい。
「心晴とあの子、何もないらしいわよ。たまたま理科準備室に居合わせて、閉じ込められたのは、二人がいるのを知らないで勝手に外鍵かけた先生の起こした事故だったのに、めっちゃ怒られたらしいわよ。ギリ停学免れたらしいけど、先生たちが確認ミスしたのに親まで呼ばれてかわいそうよね。」
そんな噂のおかげで同情されて、
「工藤さん、大変だったね。怖かったでしょ?」
何人も声をかけてくれた。無事に被害者になれた。今まで話しかけてくれた事なんかなかった少し派手目な人たちからも、それを機に話しかけられるようになった。
裕翔くんは笑顔で言った。
「噂には噂が効果的なんだ。あと、俺が流した噂の方が真実だから、信憑性もあったんだよ。菜穂ちゃんは全く悪くないんだから、怖がらなくていいよ。」
その言葉にホッとした。
特に友達らしい人もいないくせに、学校の皆に嫌われたくないと私が何度も言っていたから、そうならない様にしてくれた裕翔くんに感謝した。
心晴はというと、それについて何も言うわけでもなかった。最近は、私に声も掛けてくることもなくなった。少し不思議だった。どうしてだろう?
休み時間、メールが届いた。
”今日は一緒に学食に行こうよ”
裕翔くんの誘いだった。友達になってから、裕翔くんは付き合っていた時以上に急接近してくるようになった。廊下ですれ違うたびに声をかけてくれる。意外と周りの反応は普通だった。何をこだわっていたんだろう?どうして他の女子たちの視線ばかり気にしていたんだろう?裕翔くんと仲良くなると、もっと冷ややかな視線を受けると思っていた。
人と仲良くなるのは悪いことではない。彼が人気者であっても関係ない。私が思っていた以上に普通の事が私には分かっていなかった。
学食で一緒に食事するのは4度目だった。はじめはオドオドキョロキョロしていたけど、慣れてきた。彼と一緒にいたら男子からも女子からも普通に話しかけてくれるようになった。今まで日陰でこっそり生きていた私は、初めて光を浴びている気がした。
嬉しかった。
「菜穂ちゃんってさ、少し大人しい感じだけどメイクバエしそうよね」
そう言われて、裕翔くんの女の子のお友達からトイレに連れていかれた。
私は彼女たちにやられるがままメイクや髪のセットをしてもらった。
「できた」
その声と同時に全身が映る鏡の前に立たされる。
「可愛い!」
「やっぱ隠れ美少女だね」
「裕翔に見せに行こうよ」
私自身、実感が持てなかった。”鏡に映った自分が素敵な人だ”って他の誰かを見るような感覚だった。
呆然としていると、後ろから声。
「あっちょい待って」
そう言って、私のスカートのウエストを曲げてスカート丈を短くしたのは双葉さんだった。最近知ったのだけど、彼女は陽介さんと付き合いだしたらしい。裕翔くんはその話を自分の事の様に嬉しそうに私に話してくれた。そんな裕翔くんの笑顔を見れて私も嬉しくて、私も気が付くと笑顔になっていた。人が人を好きになるとか、そう言う話を身近な感覚で感じられることなんて今までに経験がなかったけど、こんなに幸せって嬉しい事なんだって気付かせてくれた。双葉さんと陽介さん、とてもお似合いだと思う。
「このくらいかな?よし、行ってら!」
双葉さんに背中を押された。
膝が見えてしまう丈のスカート。そんな制服の着方したことなかった。私には似合わないって思っていたから緊張していたけど、みんなのおかげ何処からか自信のようなものが芽生えてきた。
廊下を歩くと、私に視線が集まった。
やっぱり似合わないのかな?ドキドキしてしまう。
皆はそんな私の心情無視でキャッキャッしながら裕翔くんのいる教室へ行く。
途中、心晴と目が合う。
心晴は元気なさそうにこちらに笑いかけて、少し頷いた。
何か言ってよ・・・気になる。気になるよ。あんなにグイグイ来てくれてたのに、あれって気紛れだったの?今見せた表情は何なの?
淋しそう?悲しそう?切なそう?
気になってしまう。
「菜穂ちゃん」
気が付くと裕翔くんの前だった。私が心晴を目で追ってしまった事に気が付いたかな?
「可愛い」
真っすぐに見てそう言ってくれた。
「でしょ?私たちの目に狂いはない!!」
「裕翔、目がハートになってるよ~」
茶化す女子に
「うるせーよ」
そう言って私から目を逸らした。その表情はとてもかわいかった。裕翔くんは真っすぐな人だ。私がこうしておしゃれにしてもらったら、それを喜んでくれる。あからさまな態度で。”好きです”って言われなくても、言葉にしなくてもわかりやすい愛情表現で私に伝えてくれる。
だから裕翔くんの友達も皆、そんな素直な彼が大好きで、彼が大切に思う人の事も大切にしてくれるんだろうな・・・。
そう思いながら、何故かさっきの心晴の顔が横切る。まだ気になっている。
考えるときぽかんとした顔をしてしまう。昔からの癖だ。
気が付くと、それを裕翔くんは心配げな顔で見つめていた。
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