第34話 一方的な気持ち
あれから部屋にこもり、スマホを見つめていた。どうするべきなのか?この心は自分のものなはずなのに、まるで人の気持ちを考えている様で難しい。
裕翔くんが好きだと言ってくれる。その気持ちは嬉しい。でもそれに正面から応えることが上手くできないのは、自分に自信がないから。誰から見ても不釣り合いで、その距離が苦しい。好意を持ってもらえていることが不思議で、苦しい。それに、心晴への気持ちは何なのだろうか?確かに感じるあのトキメク様な感覚は、初めてで、裕翔くんから告白されたときとも違う・・・何だろう?
まだ起きてるかな?
勇気を出してメールをすることにした。
”今日はごめんなさい
少し自分の気持ちを考えたいから
距離を置きましょう”
そんな文面に裕翔くんはどう感じるだろうか?いっその事、勝手な奴だと振ってくれればいいのだけど。
”今以上に離れてしまうのは
正直、不安
これ以上に距離をとるってどんな風にしたらいいの?”
だよね。今までだって、恋人であって恋人らしくはない状況だった。彼が望むような形ではない。学校で話もしたことがないし、遠くから少しだけお互いを感じて嬉しくなってるだけ。・・・それは、私だけかも。
私には彼を幸せな気持ちにしてあげる事なんてできない。そもそも、この恋愛関係自体に無理があるのだと身に染みる。
”交際関係を解消してください”
指が勝手に動いていた。どうしよう。一瞬、動揺してしまうけど、きっとこれが私の本心。涙が出る。何で涙?ろくに恋人出来ていたわけでもないのに、自分に酔ってるみたいで最低。
”電話してもいい?”
どうしよう?ダメって言わなきゃ・・・泣いてたことばれてしまう。返信を考えていると先に裕翔くんから電話がかかる。
一呼吸つき、20コール目で出た。
「もしもし」
泣いてたことばれないかな?
「もしもし、菜穂ちゃん」
優しい声。あんなこと言ったのに。
「ごめんなさい。勝手なこと言って。」
「いや・・・どうしてかな?って思って。
俺の事、嫌いになっちゃった?」
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう?私なんか裕翔くんにかまってもらえる子じゃないのに。
「嫌いになんてなれない。裕翔くんは王子様みたいに格好いいし。人気者だし。私なんかには勿体ない。っていつも思ってる。」
質問の答えではなかった。
「・・・ごめん、よくわからない。」
だよね。私も何言ってるのか分からない。
「ごめんなさい。」
こんなやつ困るよね。厄介さんだよね。裕翔くん・・・早く見切りをつけたほうがいいよ。
「何か思うことがあるのなら話してほしい。何も理由なく、別れ話なんてならないでしょ?」
その通りだった。ちゃんと理由も言えないで、そんな話が成立するって思っていたのは、裕翔くんの私への思いが簡単なものだと思っていたからかもしれない。”私なんて”という自信のなさが、彼はきっと面倒になれば二つ返事で別れを受け入れてくれると思っていた。でも、違うんだ。彼は私が考えていたよりも誠実で、私なんかにだって真っ直ぐ向き合ってくれていた。今更、実感すると、やはり私の様なものには彼は勿体ないと気付かされた。
「自分の気持ちが自分のものではない様な状況に戸惑ってる。」
涙をこらえながら話した。
「もっと話して。ゆっくりでいいから。」
裕翔くんの声も苦しそうだった。
「裕翔くんの事はとても格好いいと思う。」
「さっきも言ってたね。でも、振るつもりなんでしょ?」
振るなんて・・・私にはできることじゃない。別れるきっかけを作っただけなの。誤解しないで。
「振るなんて・・・私に選択権なんて無い。そんな立場じゃない。私なんて、全然、学校でも誰にも気が付かれる存在でもなくって、魅力だって無くって・・・何もない人間なのに、どうして裕翔くんが私なんかに気が付いてくれたのか分からない。不釣り合いがすぎるから、誰にも言えない。知られたくない。”どうしてあの子が?”って皆に言われるのが怖いの。」
溢れてきた言葉は、なんとも身勝手だった。保身的で、成長できない自分の事を擁護するだけの言葉。
「それが理由?」
その言葉は、何か見透かされているようだった。
「8割は・・・それが理由。」
正直に言おう。それが、誠意だって思った。
「後は何?」
裕翔くんの声が震えてる気がした。真実を知ることは本当に幸せな事なんだろうか?心晴は裕翔くんと仲が良かったって、弟さんが言っていた。何があってかは知らないけど、そのことに気が付かないくらい最近の二人は、そう言った風に見えないくらい良い関係と思えなかった。そんな二人が私なんかのせいで嫌いあってしまうかもしれない。私の意味の分からない感情だけで裕翔くんを傷つけるような事はしたくない。
そう思うと、言えなくなって・・・
「後は・・・言いたくない。」
そう言ってしまった。
「そっか・・・じゃ、言わないで。」
思いもしなかった言葉に不意を突かれる。
「いいの?」
「言いたいの?」
ちょっと意地悪。でも、声は優しいままだった。
「言えない。」
どうしてこんな人が私に好意を持ってくれているのか?本当に不思議だ。
「じゃ、言わないでいいよ。菜穂ちゃんの事が知りたい気持ちはあるけど。菜穂ちゃんの気持ちに無理強いして入り込むのは違うと思うし。今日、心晴から言われて少し反省したんだ。」
ドキッとした。急に裕翔くんの声で心晴の名前を聞くと、変な汗が出る。
「・・・」
早く何か話さなきゃ!と思えば思うほど、言葉が出ない。焦る。
「じゃ、条件だしていい?」
裕翔くんは軽い口調で言った。
「条件?」
何だろう?想像もつかない。
「菜穂ちゃんが言う通り、恋人関係解消する。だけど、俺の事が嫌いじゃないなら・・・友達になって。」
拍子抜けという言葉がちょうどよい。こんな私と”友達”でいてくれるって・・・どういう事?条件って普通、自分に都合の良いことを相手に求めることよね?それって裕翔くんにとって、それっていいことなの?
「友達って?」
「俺の一方的な気持ちで押し付けた恋愛関係だったと思う。俺の事、何にも知らないのに”好きになって”なんて横暴だよね。だから、友達からお願いします!!俺の気持ちは変わらないからさ。俺だけ片思いに戻るだけ。」
どうして私に拘るの?でも嬉しかった。私の意味不明なわがままを、受け入れてくれたうえで友達になってくれるって。
「分かりました」
そう言って冷静ぶっていっては見たけど、私は床に座り込んだ。
「じゃ今からそうしよ。友達として始めよう。」
裕翔くんの優しさが身に染みた。私は勝手なことを言ったのに、猶予をもらえた気持ちになった。なんの猶予?それも自分で思っておきながら、分からなかったけど、とにかく彼は誠実で素敵な人だと再確認した。
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