第36話 裕翔からの呼び出し

裕翔から呼び出された。あいつと二人で会う約束するなんて、どのくらいぶりだろう?緊張する。


少し嫌な予感がぬぐえなくて、笑顔になんてなれなかった。

約束の時間より早く着きそうだったから、約束の公園の外周を一回りして向かったけど、やはり五分前についてしまった。


公園は既に子供たちの姿はなく、薄暗かったけど、裕翔が既にそこに居て、立ち止まった。

裕翔は下を向いている。

結構近くに来ているのに、こいつ気が付いていない。

呼びつけておきながら・・・。

結構な時間、前に立っていた。

でも、顔を上げない・・・何かを考えているようだ。


もしかしてワザと無視してんのか?


そう思った時、やっと顔を上げてこちらを見て、あからさまなビックリ顔でこちらを見た。それがあまりに素で笑えた。


「何その顔・・・イケメンって言ったの誰だよ」


そう言うと、裕翔は少しムッとして


「俺は言ってねー」


当たり前な事を言いうから、また笑えて


「当たり前だ!自分で言うかバーカ」


そう言うと、裕翔も少し笑顔になった。


それから俺たちは缶ジュース飲みながらブランコに腰かけ、ユラユラしながら話すことになった。


「何だよ、話って」


さっきの裕翔の悩んだ顔が気になっていた。


「おれさ、菜穂ちゃんに振られた」


驚いた。マジか?


「ふーん」


平然ぶる。不自然に。


「驚かないんだ?」


こちらを見る裕翔の顔は本当に面白くてまたクスッと笑う。


「別に、別れる別れないはしらんないけど、そのうちそう言う方向になるだろうって思ってはいた」


そう言うと、裕翔は素直な表情で、


「どうして?」


そんな事を聞くから、


「俺が奪うから」


そう言った。

裕翔は何かを考え込んで・・・こちらを見て。


「菜穂ちゃんとどういう話で別れたかは言わない。俺たちの話だから。

でも、お前も菜穂ちゃんに気持ちが本当にあるのなら・・・俺が今から言う事を理解して協力してほしい」


裕翔はそれからは、一人で独り言を言うようにはなした。


”えっ?僕に話してるんだよね?何で一方的に話すの?”


自分の中で疑問符が一杯になった時、反論に近い物言いをする。


「それってさ、僕が裕翔が彼氏から片思いに格下げされて、その状況を応援しろってこと?」


だってさ、裕翔は真っすぐにそう言うんだから、僕だって言うよ。


「・・・一時的にはそうかも・・・お前が菜穂ちゃんのことが好きな気持ちは止められないよ。お前の気持ちだし。俺が言ってるのは、菜穂ちゃんの不安材料をまずは壊したい。」


真剣な顔になった。だから僕も・・・。真顔になる。


「それって・・・今言った様にしてれば菜穂が笑顔になれるって事?」


裕翔はこちらをグッと見て


「そう。単純だけど・・・難しいだろ?」


はっきり言ってそうだった。難しい問題だった。菜穂は周りを気にしすぎて臆病になってしまっている。ちょっと目立ってしまう事が不安だという。


菜穂は菜穂であって、別にどこのだれから何を言われても気持ちを貫いていけばいいのに・・・裕翔はその解決法を提案した。


僕は”YES”以外の答えは出せない。


だって、彼女はそのくらいに強引でなければ体現できないから。

自分の魅力や他人との関わり合いの中での人間関係を築くのが苦手だから。

僕にも彼女の笑顔を見る方法が欲しいから・・・今回は協力するしかない。


裕翔は頭がきれる。


流石だって思った。


僕の生ぬるい優しさだけでは、菜穂に敵を作る事になってしまう。そうでなく、彼女が何かの殻を破り、周りに周知されれば。

今の段階の彼女の不安はなくなるだろう。


だけど、一つ気がかりなのは・・・裕翔との約束。


しばらく・・・一時。僕は菜穂と距離を置く。好きな気持ちは抑え込み。そうしなくちゃいけない。でも、裕翔が彼氏から友達に降りた。それを思うと・・・彼女の幸せを祈るのなら、裕翔と同様思いが必要だって感じた。


「裕翔・・・わかった。お前の言いたいことは」


「さすがだな。」


「何が?」


「元親友」


「もと・・・ね。ま、いいや。今はお互いに好きな人のために出来ることを・・・って言う事だろ?了解。」


「物分かり良いな」


「そうか?」


「もっと、なんだかな?嫌がるかって思ってた。」


「・・・裕翔。僕は大人だよ。お前より。」


そう言うと、裕翔は少しムッとした顔をしていたけど、こちらの方が苦しい提案をされているのだから、そのくらいの不愉快を感じろよって、僕はニヤリと笑った。


その日から僕は、菜穂のために、菜穂と距離を置くことにした。

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