第32話 自問自答

あの後直ぐ家に帰った。もちろん、心晴も。


心晴と俺の家は、目と鼻の先だけど、何も会話しないまま帰った。


家に着くと、母親が、


「今日は早退したって?お母さんびっくりしちゃった・・・どこに行っていたの?スマホに連絡しても出てくれないから、警察に捜索願出すところだったのよ」


大げさな事を言う。鬱陶しい。っていうか、俊輔も早退してるのには気が付いていないのかな?俺のことばっかり話している母に苛立つ。


「俊は?」


わざとらしく聞く。


「ああ、ちょっと具合悪かったのかしらね?でも早退して、そのまま塾に行くって。早めに入って談話室でゆっくりして、塾、行って帰ってくるみたいよ。」


そっちはアッサリ言うんだな・・・。ま、あいつの方が賢いな。心配させない様に手は打ってある。俺は昔から、行き当たりばったりだから、この人の心を揺さぶってしまうんだろうな。


そう思いながら、自室に入る。


ベッドに転がって天井を見る。白い。

何も思いつかない。どうしていいかわからない。菜穂ちゃんの攻略本があるのならきっと迷わずに買う。


告白して・・・上手くいってるって思っていた。


今までの彼女たちみたいじゃないから、何もかもが手探りで、彼女の考えていることを考察しながら先回りなのか?後ずさりなのか?よくわからない恋を進めてきた。


涙の意味は聞けなかった。


想像もつかない。想像もしたくない気持ちもある。


だってあの状況で泣くって・・・もしかして、心晴の事が好きとか?そんなはずないと信じたい。


だけど、だけどさ、心晴が言った通り。俺と菜穂ちゃんは、恋人であってそうでない様な状況で、よくよく考えると、俺ばかりが一生懸命でから回っていて、かみ合っていないことが多い。


ずっと前に陽介が言っていた。


「お前とあの子ってさ、似合ってないよな。」


その言葉の意味なんて深く考えたことはなかったけども、心のどこかで詰まっていることには気が付いていた。


”似合っていない”


似合ってるやつらしか合わないなんて言うなら、俺達はダメてことなのか?

菜穂ちゃんの事を好きになってから、俺は彼女を見つめてきた。それだけでは、彼女の本当の性格なんかは分かるわけど、大体の恋人たちはそんなもんだろ?完璧にあっているから付き合うなんて方が珍しいんじゃないかな?


自問自答では答えは出なかった。


”とんとんとん”


部屋のノック音でドアを見る。返事をする前に開いたドアの前には俊。


「ただいま」


そんな事を言いに来たのか?その割に、にやけている。何か話でもあって来たんだろ?


「はいれよ」


そう言うと、俊はヒョイヒョイと部屋に入り、ドアを閉めた。


「兄貴の部屋ってけっこう久々だね。しっかしまぁ、整理整頓具合が性格出てるね」


周りをキョロキョロ見渡す。


「お前がだらしないだけだろ?普通だよ。」


そう言うと、少しふくれっ面になって、


「ま、そんな話をしに来たわけじゃないんだけどね」


俊は急に真顔になって俺の方をぐっと見た。俺は初めて見る緊張感のある弟の表情に不安と期待を感じていた。


「あのさ、俺の勘違いかもだけど・・・大吾のねーちゃんって・・・」


そう言って、少し言葉を詰まらせる弟、何だ?この空気。


「何だよ」


言葉を選んでいるのか?なかなか話を続けない。


「何だよ!早く言えよ」


気になる、気になる。弟が菜穂ちゃんの何かを知っているようで・・・とても気になった。


「兄貴の彼女なの?」


何だそれ?のんな事?


「そうだけど」


すると、微妙な顔で、


「どこが好きなの?」


意味の分からん質問にイラつく。


「どういう意味だ」


弟はオドオドしながら


「いや、純粋に聞きたくって。だって今までの彼女たちとは感じが違いすぎるし・・・」


俺は深くため息をついて


「弟に恋愛トークなんかしたくねー。お前だって嫌だろ?俺がそういう事を聞いたら。」


そう言うと、弟は下を向き、いつになく神妙な顔で、


「そっか・・・勘ぐりすぎだったのかな?だったらいいや。」


そう言って部屋を出ようとするから、


「ちょっと待てよ!何だよその気持ちの悪い言い方。しっかり最後まで話せ!!」


そう言うと、弟はこちらを向き、


「愛実さんに似てるなって思ってさ・・・もしかしたら兄貴、それで大吾のねーちゃんの事を好きになったのかなって・・・。心晴くんと兄貴が仲直りしたわけではなく、愛実さんに似てる大吾のねーちゃんに二人とも引き寄せられてるのかなって?心配になって」


その言葉に”ハッ”とさせられた。自分では気が付いていなかった。どうしてこんなに愛おしいのか。菜穂ちゃんを初めて見つけた時から、不思議だった。

そうだったのかもしれない。


「兄貴・・・ずぼし?」


心配そうにこちらを見る弟・・・俺はしばらくフリーズしていた様で、弟がこちらに近づき俺の背中に手を添えた。


「い、いや・・・考えてもいなかった。」


汗が止まらない。


「大丈夫?兄貴・・・」


弟のその言葉が最後で・・・耳鳴りがして・・・気が遠くなった。


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