第29話 親友の兄貴
声がした。リビングの方から。
今日は、母さんが出かける日だから、俊輔を誘って学校さぼってゲームする計画だった。
俺と俊輔は、塾で知り合った。
成績順の席で、俺たちはいつも隣の席。少々の誤差でランクを競い合っている仲だ。
俺たちはすぐによくなった。
似た境遇だったから。
全部ではないけど、俺たちが抱える心の負の部分が一致していたから。
それは、兄弟の事だった。
俺は姉ちゃんほど出来が良くなかった。学業だけでなく、小学校の時は少々暴癖ながあったので、両親は頭を抱えていた。
”菜穂はあんなに大人しいのに、大吾はどうしてそんなに乱暴なの?”
”菜穂は何も言わなくてもお勉強するのに、大吾は宿題もしないのはどうして?”
自分でも分からなかった。気が付くと苛立って物を壊したり、友達と喧嘩になると手が出た。
親や他の大人達の失望がよくわかった。分かるたびに苦しくて・・・だから、中一になってすぐで改心しようと思って、
「俺、塾行きたい。」
勉強なんか嫌いだった。する意味だって分かんなかったし、でも、そう言ったら親たちはすごく喜んだから嬉しかった。少し頑張ったら成績もよくなって、勉強も楽しくなってきた。親の顔見てたら、今まで抱えていたもやもやが少しずつ晴れていく気がしていた。
俊輔のお母さんは、お兄さんの事が一番で、自分の方にはなかなか振り向いてもらえないジレンマがあった。小さなころからそうだったから、どうすればお母さんが自分の方を見てくれるかばかり考えていた。だから、気が付くと、できのいい兄に拗ねた感情で憧れるようになったらしい。
だから俺たちは、お互いの愚痴を言い合って、受け止めあって、仲間になった。
そんな友情だ!いや、絆かな。
っで、たまには頑張ってる俺らもさぼってよくね?って気持ちで、今日は計画的に学校から逃げてきたのに、まさかのこのシチュエーション。
まじめな姉がイケメン二人を連れ込んでいました。
ちょっと笑える。
昨日は昨日で、家に彼氏が来るし、学校から連絡あって慌てて両親が姉さん迎えに行くし。
最近、どうなってんだ?姉ちゃん!
「姉ちゃん…今日、休んでんの?」
そう聞くと、姉ちゃんはあからさまに動揺している。
「あんたはどうして?」
”質問を質問で答えるなんてことしないで!!馬鹿丸出しよ”
って、最近俺に言ってたよね?そのままお返しするよ。
俺はあからさまに、男二人に目をやって声をかける。
「こんにちはー、あれ?ああ彼氏さんだ。」
姉ちゃんは、俺が彼氏さんと面識があるなんて思っていなかったようで、さらにびっくり。
「学校サボって男連れ込んでんの?しかも二人も!」
そう言うと、姉ちゃんは、顔を真っ赤にしてこちらから目をそらす。
「おじゃましています。菜穂さんの具合が心配で、さっき来たんです。でも、一人ではよくないと思って、友達と…。な」
彼氏さんは爽やかに笑顔で言った。なんでこんなイケメンが姉ちゃんみたいな地味女を選んだんだろう?俺にはさっぱりわかんねー。
「そうだったんですね。じゃ、ごゆっくり~」
ま、これ以上ここにいても、俺と俊輔の時間の無駄になるから、イジリはこの辺にしておきましょう。って、思った時、俊輔が俺の肩から顔を出して、
「兄貴と心晴くんじゃん」
そう言って親友が目を丸くした。えっ?知り合い?”兄貴”って言った?
まってまって・・・どっちが兄貴?俊輔もイケメンで、彼氏さんもその友達もイケメンだからどっちか分かんねー。
「俊、おまえ…なんでここに?」
彼氏さんが言った。ってことは、そっちが兄貴か。
それから何故か、俺たちはリビングに入り
五人で話をすることになった。
聞くと、姉ちゃんは昨日いろいろあってお疲れで、学校を親公認でさぼっていたらしい。
っで、彼氏さんが心配して家に行こうってなったけど、男が一人で行くのはよくないと思い、友達についてきてもらったって。でもさ、それって苦しくない?なんだか雰囲気おかしかったし。俺だけかな?この三人に妙な空気感じてるの。
「昨日さ、裕翔くんとは会ったんだよ。家の前で…ね。」
俺がそう言うと、俊輔の兄ちゃんは優しくほほ笑み頷いた。
マジでかっこいい人だな。男から見てもそう思う。笑顔100点!
「えーそうなの?兄貴が最近おかしくなっちゃってる相手って、大吾のねーちゃんなの?ウケる~」
俊輔がそう言うと、俊輔の兄ちゃんは睨みながら俊輔にカバンを投げつけた。
「黙れ」
そして、一喝。
「わ~こえぇ。黙っとこ」
そう言って自分の口に手を当てた。若干、俊輔もこのシチュエーションを楽しんでいるように見えた。
「でもさ、安心した。心晴くんとまた仲良くなったんだね。俺さ、心晴くんの事も本当の兄貴みたいに思ってたからさ、二人が仲悪くなってマジで嫌だったんだよね~。」
この独特な雰囲気の美形イケメンは”心晴”って言うんだ。名前も可愛いな。俊輔が懐かしそうに嬉しそうに心晴って人に話しかけると、天使のほほえみで俺たちを見て、
「俊輔はかわいな…有り難う。僕も俊輔の事を本当の弟だって思ってるよ。」
心晴って人は、俊輔の頭をポンポンと優しくたたいた。めっちゃ包容力。
俊輔は姉ちゃんをじーっと見つめて、何かを思いつくような仕草をとって、何度か頷いた。
「どした?」
その表情が気になったから俺が聞くと、俊輔は、にんまり笑って
「何でもない。」
そう言って、少し微笑んではいたけど、その表情は少し寂しい?悲しい?ものだった。気になった。でも、ここではこれ以上聞いてもきっと答えてはくれないだろうって、親友の勘で理解し、俺は黙った。
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