第28話 五人
声がした。玄関の方から。
「えっ、誰かいる?」
弟の声だった。気配が弟だけではない・・・誰かといる。数秒もたたずにリビングのドアが開く。
「姉ちゃん…今日、休んでんの?」
そっか、私が休んでいるのは大吾は知らなかったんだ。でもどうしてこんな時間に帰って来たんだろう?
「あんたはどうして?」
弟の問いに答えず、私は聞く。
弟は裕翔くんと心晴を見て、
「こんにちはー、あれ?ああ彼氏さんだ。」
チラッと心晴の方に目をやって直ぐに戸惑いもなく裕翔くんに笑いかける。会ったことがあるようで、”彼氏さんだ”って言ったよね・・・いつの間に?
「学校サボって男連れ込んでんの?しかも二人も!」
茶化してくる。私は何とも言えず、顔が赤くなる。
「おじゃましています。菜穂さんの具合が心配で、さっき来たんです。でも、一人ではよくないと思って、友達と…。な」
裕翔くんは心晴の方を見て同意を求めた。
心晴は、にんまり笑って、頷いた。彼の話し方が誠実そのもので、弟も、
「そうだったんですね。じゃ、ごゆっくり~」
そう言って、立ち去ろうとすると、弟の後ろにいた子が、
「兄貴と心晴くんじゃん」
そう言って目を丸くした。
えっ?知り合い?兄貴って言った?
すると、裕翔くんがその子を見て、
「俊、おまえ…なんでここに?」
裕翔くんが動揺している。はじめて見る表情。心晴も少し驚いているのかな?大吾も大吾でキョロキョロしながらみんなの表情を見る。
それから何故か、弟たちはリビングに入り
五人で話をすることになった。
聞くと、弟は今日、ママが出掛けることを知っていたから友達とゲームをするために学校を抜け出して来たらしい。
悪い子達だ。
そして、その友達と言うのは、裕翔くんの弟で俊輔くん。
お互いに学校は違うけど、塾で仲良くなったらしく…。
まさか、裕翔くんの弟がうちの弟の友達だなんて、考えもつかない事実に戸惑う。
「昨日さ、裕翔くんとは会ったんだよ。家の前で…ね。」
大吾は裕翔くんにほほ笑む。裕翔くんも大吾にほほ笑み頷く。そうだったんだ、裕翔くん昨日、うちに来てたんだ。
私が連絡できなかったから、心配してきてくれたんだ。
「えーそうなの?兄貴が最近おかしくなっちゃってる相手って、大吾のねーちゃんなの?ウケる~」
おかしくなっちゃってるって…どういう意味だろう?
裕翔くんは俊輔くんに自分の鞄を投げつけて、
「黙れ」
と、一喝。
「わ~こえぇ。黙っとこ」
そう言って自分の口に手を当てた。
「でもさ、安心した。心晴くんとまた仲良くなったんだね。俺さ、心晴くんの事も本当の兄貴みたいに思ってたからさ、二人が仲悪くなってマジで嫌だったんだよね~。」
そう言って、俊輔くんが二人を見ると、心晴はニッコリ笑って、
「俊輔はかわいな…有り難う。僕も俊輔の事を本当の弟だって思ってるよ。」
心晴は、俊輔くんの頭をポンポンと優しくたたいた。
そうなんだ、以前は二人、仲良かったんだ。今は、同じ部活にいるだけの仲になっているけど、さっきの話では…喧嘩してたの?
疑問が膨らむ。
その時、俊輔くんが私の事をじーっと見つめて、何かを思いつくような仕草をとって、何度か頷いた。
何?
「どした?」
大吾が聞くと、俊輔くんは、にんまり笑って
「何でもない。」
そう言って、少し微笑んではいたけど、その表情は少し寂しい?悲しい?様なもので、私たちにはよくわからない事だった。でも、鈍感な私にだって気になった。
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