第27話 リビング

気が付くと、菜穂ちゃんの家の前まで来ていた。

上を見上げる。

菜穂ちゃんの部屋。


今頃、心晴も一緒かな?俺だってまだ菜穂ちゃんの部屋に上がったこともないのに、どうしてあいつが!!


腹が立っていた。


昨日の事も聞かないと、菜穂ちゃんからちゃんと聞かないと落ち着かなかった。


もう一度、菜穂ちゃんに電話をかける。


その間、考えた。


聞いていいのか?聞いたらどんな顔するのかな?傷つくのかな?苦しい顔になるのかな?悪い想像ばかりがよぎる。


「はい」


出た。


「もしもし・・・俺」


「裕翔くん、さっきはごめんなさい。心晴が勝手に出て」


”心晴”って言った。呼び捨てる様なキャラじゃないのに、そんな呼び方を自然にしてるなんて、その状況だけで嫉妬してしまう。そういえば、心晴も菜穂ちゃんを呼ぶとき、そうだった。


「今、家の下にいる。会える?」


そう言うと、部屋のカーテンが開いた。菜穂ちゃんは驚いた顔でこちらを見た。すぐに後ろに心晴の姿を見つけ、俺は目をそらした。


どういう状況だよ!


菜穂ちゃんは玄関を開けて、部屋に招いてくれた。


少しだけ二人の時間。

聞きたい。聞きたい。聞くべきか?聞かないべきか?


そんな事をうだうだ考えているうちに、リビング通された。

心晴はソファーの上に何食わぬ顔で、ちょこんと座っていた。


心晴はにっこり笑って俺に手を振って、


「よ!裕翔も菜穂に会いに来たんだね。学校さぼったの?」


お前だってそうだろ?学校さぼって菜穂ちゃんの家に来てるし!どういうつもりなんだよ。腹立たしい。


菜穂ちゃんは俺と心晴にアイスティーを出してくれた。氷がカランと音を立てて溶ける。それが気になるくらい、静かだった。


「何か話に来たんじゃないの?」


心晴が言った。菜穂ちゃんは静かにこちらを見る。

怒っちゃいけない。怒った口調になってしまうと、菜穂ちゃんが困る。


気持ちを抑えながら話した。


「学校で噂になってる。心晴と菜穂ちゃんの事。俺はそれがちゃんと聞きたくて、今日ここに来た。」


心晴は不敵な笑いを浮かべて。


「真実だよ」


そう一言。


「お前に聞いてないし!」


菜穂ちゃんの方を見ると、あからさまに困った顔。


「どんな噂かはよくわからないけど、昨日、理科準備室に閉じ込めれれてしまって、心配した両親が学校に迎えに来てくれたのは本当です。」


淡々と答えた。敬語が距離を作る。冷静にも思えた。もっと、たどたどしく話すかと思っていた。


「二人が付き合ってるって・・・噂もあって。俺はそれが嫌で」


菜穂ちゃんはこちらに体を向けて、


「私が付き合っているのは裕翔くんです」


そう言ってくれた。でも、また敬語。だけど、その言葉で、少し落ち着いた。


心晴の方を見る。下を向いているけど、特に何の表情でもなく、ぼんやりしている。


「こうなったら、俺たちが付き合ってることを皆に知ってもらったほうがいいと思う」


俺がそう提案すると、菜穂ちゃんは急に焦って、


「それはダメ」


大きな声ではっきり言った。


「だって、みんな誤解しているし、そんなことをしたら、私は心晴の事を好きだった子たちにも、裕翔くんの事を好きな子たちにも・・・嫌われてしまう。」


そうは言っても、本当の事を話すだけだし。このまま誤解されて、菜穂ちゃんが心晴の彼女のような見方をされるのは不愉快だ。


「裕翔、菜穂を困らせるなよ。ただでさえ静かでいたい子なのに、渦中に投げ込もうとするな!お前が言ってるのはお前のエゴだ。」


こいつ・・・まともぶって、めちゃくちゃ言ってる。心晴と菜穂ちゃんの噂だって、どっから広まったんだよ!二人と先生や家族しか知らない事。なんで女子にばれてんだよ!お前だろ?

俺はそんなに鈍感じゃないぞ!!


困らせているのは心晴だろ!


菜穂ちゃんはそんな事に気が付きはしないんだろうな。こういったことに疎い子だし。純粋だから・・・。


心晴を睨む。


「こえーよ。裕翔そんな顔したら菜穂も怖がるからやめろよ」


そう言って不敵に笑った。

怒りを抑えることに精いっぱいで、菜穂ちゃんがどうしたいのか?どうするべきか?を、考える余裕はなかった。


そんな時、玄関が開く音がした。

誰か帰ってきたようで、菜穂ちゃんは驚きと共に焦りの表情で入り口の方を見る。

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