第26話 見つめていた
「痛い」
双葉のその声で、手を緩めた。
「ごめん」
俺がそう言うと、双葉は機嫌の悪そうな顔でスマホを取り出し、あの子に電話をかけようとする。俺は、それを取り上げ、電源を切った。
「なにすんのよ!」
双葉の叫びにも近い声が部室に響いた。俺はパイプ椅子を二つひらき、
「ま、座れよ」
双葉に座るように促し、俺も向かいのパイプ椅子に腰かけた。双葉は勢いよく音を立てるようにして座った。横を向き足を組んで目をそらしている姿は、俺の行動に対しての不満がにじみ出ているようだった。
「お前さ、あの子にメールしてたけど、返信か電話来たらどうするわけ?」
双葉は、黙り込んだまま表情を変えず、苛立ている。
「お前が裕翔の事が好きで好きで仕方がないから、親友として以上の行動に出てしまっていることは十分にわかるけどさ。その気持ちは、迷惑になるかもよ。裕翔の…。」
その言葉に反応し、こちらをにらみ付けた。
「だから何?裕翔が傷ついているのを、横で見てるだけなの?」
怒っている・・・けど、俺には悲しそうに見えた。そんなに裕翔が好きなのかよ。
「そうだよ」
また、こちらから目をそらすようにそむけた顔。俺は両手を双葉の頬に添えるようにして、こちらを向かせる。
「見てるしかない。お前の気持ちは、伝わっていないんだから!」
こちらに向けた瞳の奥が潤んで見えた。なんでそんなに裕翔なんだよ!お前くらいかわいいやつだったら、ほかに目を向ければもっと簡単に幸せになれるだろうに・・・。
「はっきり言う。裕翔はお前の気持ちを知らない。気が付いていない。何でかわかるか?」
言いたくないよ。俺だって、こんな当たり前にキツイ事。双葉・・・ごめん。
「私が言っていないからでしょ」
それだけじゃない。分かっているだろ?苦しかったこれ以上傷つけるのが。でも、引けなかった。俺はもう進み始めたから。
「それだけじゃない。」
言わなくたってわかるもんだよ。お前ほど、献身的に寄り添っていれば。だけど伝わらないのは、そういう事じゃない。分かってるだろ?
「何よ?」
言いたくない。言いたくない。傷つけたくない。でも、俺が言わなきゃ!俺も向き合わなきゃ。
「お前の事を親友以上に思わないからだよ。お前がアイツのためにと一生懸命になっても、気が付かない。裕翔は双葉にそういう感情がないから!」
言ってしまった。
双葉は、何とも知れない悲し気な表情になった。
双葉、俺だて辛いよ。俺だって一緒だから。人の事を説教できるほど、できちゃいない。それどころか・・・俺もお前と同じ。お前の横でお前の気持ちを応援してるふりして、好きだった。
裕翔を好きでいるお前は、切なくて健気でかわいらしかった。そんなお前を見ているのは嫌いじゃなかった。だけど最近のお前は、苦痛に顔をゆがめて、見ていられない。
お前が幸せなら俺の気持ちなんてしまっておくつもりだった。お前が笑ってられるなら・・・でも、もう無理。
好きな子のそんな顔、見たくない。
気が付くと、俺の手に双葉の涙が…。
”双葉、もうだめだ。これ以上、我慢できない。”
そう思った時、彼女の唇にキスをしていた。
いつもの調子なら、殴られるって思っていた。その覚悟くらいはしていた。
双葉は驚きすぎて硬直しているようにも見えた。
俺はもう引かない。譲らない。隠したくない。
双葉への気持ち。
途中、うっすら目を開けて双葉を見た。あまりにキョトンとした顔がかわいくて、少し笑った。そしてまたキスを続けた。
双葉はよけようとも、つき飛ばそうともしなかった。もしかしたら気まぐれかもしれない。上手くいかない恋の穴埋めかもしれないけど。俺はそれでもいいと思った。好き子と、こうしていられるんだから。
それが、どんな理由でもいい。
双葉、俺はもう隠さない。お前の事をずっと見ていたよ。ずっと双葉が好きでした。
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