第22話 訪問者

裕翔くんのメールに返信していない。

どうしていいか、分からない。


たくさん質問があって、一つ一つに答えるべきなのか?全部をまとめて返すべきなのか?


分からない。


だから、今日は学校を休んだ。

昨日の事。事故だったんだから、説明すればいいだけなのに、なんだか後ろめたかった。


それは、心晴に抱きしめられたから?

意外にも、嫌ではなかったから?

心晴の事が少し分かって、嬉しい気持ちがめばえたから?

その瞬間、裕翔くんの事をちょっとだけ忘れていたから?


ママには、


「なんだか具合が悪いから休みたい」


と、なんとも知れない理由を言った。ママはこちらも見ないで、


「学校に電話しておくから、休むなら部屋で寝てなさい。」


と、だけ言った。


冷たく感じた。私は仮病なんて使ったことがない。だけど、こんなあからさまな仮病を使おうとする娘に、特に拘ることなく、二つ返事で“電話しておく“だなんて。でも、拘りようがないのかも。昨日の事を変に勘ぐられたりしたら、余計にショックだし…。変な言い訳してしまいそうだし…。もしかして、ママは先日からなんとなく気が付きはじめた私の“彼氏“の存在を、昨日の心晴だと思い込んでいるなんて事はないわよね…。


だとしたら、早いところ訂正しておかなきゃ…。でも、何も言われてもいないし、私がそう言うことをペラペラ話すのも、おかしいと思う。


どうしよう。


私は、ベッドの中でモヤモヤしていた。


気が付くと眠っていて、目が覚めたら昼過ぎだった。


スマホを見ると、裕翔くんと双葉さんからメールがほぼ同じ時に入っていた。


裕翔くんのメールを見る。


“今日は休んでるの?

体調が悪いのかな?

昨日はたくさんメールしてごめんね。

連絡とれなくて、心配した。

いつでもいいからメールがほしいな。“


どうしよう…なんて返していいか分からない。


双葉さんの方も見てみよう。


“あんた何してんの?電話して“


どうしたんだろう?

怖い。

怒っている。


でも、どうして怒っているの?


スマホを見ながらドキドキしていると、

スマホがなった。


知らない電話番号。


怖い。

でも、出ないともっと怖い。

恐る恐る人差し指で画面に触れる。


「もしもし」


出ちゃった。


「あ~よかった、出てくれた。僕、心晴。」


電話は、心晴だった。何でだろう?ホットしてる。


「何してるの?」


漠然と聞かれるのは、苦手。


「… …」


黙り込んでしまう。


「学校サボったでしょ?」


心晴も知ってるんだ。

そっか、気にしてくれてるんだ。


「… …」


なんと返すのがベストか?分からないで、まだまだ黙り込む。


「今って、家に一人?」


リビングへ行くと、置き手紙。


“菜穂へ

今日は用事があるので、出掛けます。

大吾が帰るまでには夕飯を買って戻ります。

あなたのお昼は、冷蔵庫にあるので勝手に温めて食べてください。

ママ“


出掛けてる。気が付かなかった。

っていうか、ママも怒ってる?文面が冷たく感じるのはなぜかな?


私に後ろめたさがあるからだろうか?


「一人みたい。」


手紙をテーブルに置きながら答えた。


「よかった~。一か八か来てみたんだ。」


来た?

どういう意味?


「いま、玄関の前にいるよ。開けて。」


そう言われて、困る。

起きたままの格好だし…。


「5分待って。」


心晴の返事を待つ前に、一旦、電話を切り。

ダッシュで身支度。


そして一呼吸。


“ガチャッ“


玄関のドアを開けると、笑顔満開の心晴が立っていた。


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