第21話 弟

部活中、いつも菜穂ちゃんが座っているベンチが気になる。今日は来てくれていない。何か用事ができたのかな?スマホが気になって何度も確認する。


「裕翔、お前さ今日はどうしたんだよ!心ここにあらずじゃねぇ?」


そう言ってベンチの方を見る陽介。


「まぁ・・・」


陽介は、周りを見て、


「菜穂ちゃん来てないからだろ?連絡とかあった?」


俺が首を横に振ると、


「・・・ま、そういう子じゃん。あんまさ、上手くできる子じゃないからさ、なんか用事があったんじゃねーの?用事済んだら連絡あるさ」


そう言って、励ますように肩をたたいた。


俺の心配は菜穂ちゃんが来ていない事や、それについて連絡がないという事だけではない。菜穂ちゃんが恋愛に対して不器用な事は分かってるし・・・。そこではなく、こんな日に心晴がいないことが気になっているんだ。


心晴はフラフラしているから部活を休むことだってあったけど、菜穂ちゃんのメールが既読にならないこんな日に、心晴の姿が見えないという事が不安なんだ。


頭に浮かぶのは、先日の事。

あいつ、菜穂ちゃんの手を引っ張ったよな。あれって何だったんだよ!どういうつもりなんだ・・・。どう考えても、菜穂ちゃんに興味を示している。


まさかとは思うけど・・・。


嫌な予感しかしなかった。


部活が終わっても菜穂ちゃんからの連絡はない。

心晴にもメールしてみる。


”今日はどうして部活休んだ?”


いつも、そんなメールしないのに、おかしいよな・・・。


既読にならない。

ふと部室の隅に目をやると、心晴のカバンと綺麗にたたんだ制服。


あいつ・・・部活に来たんだ、着替えまでしてる。途中でどっかいったの?


心晴のスマホを鳴らしてみる。

カバンの中から振動が聞こえる。


スマホ置きっぱなしでどっか行くなんて、よっぽど急いでたのかな?何がったんだろう?


不安が増す。


どうして菜穂ちゃん連絡してくれないんだろう?

心配で心配でならない。


居ても立ってもいられなくなり、菜穂ちゃんの家に向かった。

家の前で菜穂ちゃんの部屋を見上げる。


・・・俺、ストーカーみたいだな・・・


情けなくなる。


「あの?」


その時、声を掛けられる。

振り返ると、中学生?背は低いが目のキラキラした好青年。


「ぼくの家の人に何か用ですか?」


えっ?この子、菜穂ちゃんの兄弟?やばい・・・いや、やばくはないだろう。これはチャンスだよな。


「中野 裕翔といいます。菜穂さんはご在宅ですか?」


丁寧すぎたかな?もう少し軽い感じで話したほうが、よかったかな?


「ちょっと待っててください」


そう言って、玄関を開け家に入る。


「母さん!姉ちゃんいる?」


中から返事がある


「ああ大吾、おかえりなさい。菜穂が帰ってこないのよ・・・。」


その声を聴いて、さっきの男の子がこちらにヒョコヒョコッと来て。


「帰ってないみたいです」


聞こえていたけど、丁寧にも自分の声でも伝えてくれた。

家の中からお母さんかな?女性が玄関ドアから顔を出して会釈する。こちらも丁寧に頭を下げる。


「連絡とってみますか?」


男の子がスマホを出そうとするから、


「いや、夕方からメールや電話してるんだけど、連絡つかなくて・・・ちょっと心配でね。もう少し待ってみます。ありがとう。」


そう言って、帰ろうとすると


「あの・・・姉ちゃんの・・・彼氏?じゃないですよね」


そう聞かれた。俺は彼の方を体ごと真っすぐに向き、


「お付き合いしてます。よろしくお願いします。」


と、言うよと、彼はハッと驚いた顔をして、


「そうなんですか?姉ちゃんにこんなイケメンな彼氏がいるなんて・・・驚きすぎて困惑中です!マジっすか?」


彼の漫画のキャラクターの様なコミカルな表情にクスクスッと笑いながら、


「マジです。大切にしたいと思っています。」


そう言うと、彼も姿勢を正して


「工藤 大吾です。中学二年生です。サッカー部です。イマイチな姉ですが、よろしくお願いします。」


そう言って、深々と頭を下げるから、俺もつられて頭を下げた。


なんだか嬉しかった。

彼女の兄弟に会えて、こんな風に話もできて・・・でも、まだ彼女と連絡が取れていないことが気になっていた。


菜穂ちゃん、どうしたんだろう?



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