第20話 可愛い人

辺りが薄暗くなって来た。私たち、このままここで朝までいるのかな?朝までいたところで、誰か気付いてくれるのかな?ここって端の端にある教室だし、用事ないと来ないよね。先生、明日の予定どうなってるんだろう?


ママ、心配するだろうな・・・。警察とか連絡されちゃうかも。大きな大事になったらどうしよう・・・。


裕翔くん・・・。


「なんだか、“最悪~“って感じの顔してるね」


心晴が言った言葉で”ハッ”とする。また一人の世界でおしゃべりしてた。心晴の存在をすっかり忘れていた。


「…私は何をしてるんだろう?って、自分にがっかりしてるだけ。」


そう言うと、なぜか彼は穏やかな顔つきになりほほ笑んだ。


「何で笑ってるの?」


この状況でどうしてそんなに冷静にほほ笑めるのか?正直、不思議に思い率直に聞く。


「だって、なかなかないでしょ?こんなスリリングな状況。」


私の目をとろんとした柔らかい表情で見て言った。可愛い。この人は、何もかもが可愛らしい人で、今まで様々な状況で色々な人達からそう思われてきたんだろうな。羨ましい。


「スリリング?まあ、確かにスプラッタ映画みたいな状況よね。」


そう言うと、心晴は声を出して笑った。私、そんなに面白いこと言ったかな?


「菜穂は面白いね!この状況を、スプラッタ映画にするなんて…じゃ、僕らの立ち位置はどんな感じかな?

恋愛感情ある同士なら、今から濡れ場だよね。」


その言葉に、頬が熱くなるのを感じた。私、変な事いっちゃったんだ。そういうつもりで言ったわけじゃないのに・・・恥ずかしい。


「菜穂ってさ、今まで誰かの彼女になった事はあるの?」


そんな時に、突然心晴がそんなこと言うから、私は黙り込む。


「・・・ ・・・」


裕翔くんとデートの待ち合わせをしていた時に会ったよね。あの日、どういう風に見えたんだろう?心晴くらいの子になると、男の子と女の子が二人でいても何も思わないのかな?”ただの仲良し”程度の感覚かな?そっか、心晴も双葉さんと一緒だったもんね。二人が恋人にも見えなかったし。そういう事って普通にあるんだよね。私にはない状況だけど・・・。だから、過剰に私が考えてしまっているだけで友達として一緒にいるように見えたのかもね。だって、裕翔くんの彼女なんて、私じゃ不釣り合いだもんね。


「彼氏とかいないならさ、僕の恋人になってほしいな~」


心の独り言を呟き中に心晴は思いもかけなかった言葉を投げかけてきた。


「何言ってるの?」


真顔だった。真剣に見えた。嘘?からかってる?


「ずっと見てました。ろくに話したこともないけど、君の事を好きでいました・・・っていう意味だよ。」


その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。だって、裕翔くんが初めて私に言ってくれた言葉とまるで一緒な事を言うから・・・。

すると、心晴の目が潤み始めた。”エッ?”どうして?私が笑ったから?彼の頬に一粒、ポロリと涙が落ちた。

私は慌てて彼の涙をハンカチで拭く。


すると、心晴は私の手をつかみ引き寄せ・・・抱きしめた。


理解が追い付かなかった。

高鳴る心音がばれてしまいそうで恥ずかしい。


「心晴・・・くん?」


そう問いかけても、心晴はそのまま・・・。


「心晴くんじゃないだろ!心晴って呼んでって言ったよ。」


どうしよう・・・人の事、そんな風に呼んだことはない。でも、そう言ってあげなきゃいけない気がして、慣れない感覚で勇気を振り絞った。


「こ・・・こはる・・・どうしたの?」


たどたどしく言った言葉の後、心晴は、


「何で笑うの?僕の告白は貴重なんだよ」


真剣に自信満々に言うから、安心して私は、


「モテそうだもんね」


そう言ったら心晴も笑った。

涙の意味・・・それは、聞けなかった。聞いてはいけない気がしたした。

そう感じた時、心晴が近く近く感じて、大切な人に思えた。


「モテモテだよ」


心晴はそう言って、もう一度抱きしめるから、なんとなくこれ以上に近くなるのはいけない気がして、彼の背中をポンポンと二回たたいて、ゆっくり離れた。


「心晴・・・私ね。そんなモテる子じゃないから、モテモテの子の気持ちわからない。気まぐれで今みたいな事されたら心臓飛び出ちゃうからよしてよ。」


目を逸らしながら言った。


「気紛れじゃないのにな~」


そんなことを言うから、2人で笑った。


まるで昔から知っているような空気感だった。心晴は悪い人ではないのかもしれないと、思えた。

その時、大きな音で勢いよくドアが開いた。


そこから飛び込む様に入って来たのは、校務員の人と先生2人だった。


私達がとても近くいて、仲良さげだったからか?先生たちは慌てた口調で、


「井上!工藤に何をした!!」


なにもされていないのに、そんなんじゃないのに、心晴に申し訳なくて…。でも、何と言っていいかわからないでいると、


「何もしてませんよ・・・まだ」


そう言って心晴はニッコリ笑った。


その後、私達は、校長室で説教された。私のミスで鍵を外に起きっぱなしにしてしまったせいで、こんなことになってしまった事を説明し、心晴は悪くないことも伝えたけど、なぜか心晴はひどく叱られてしまい、本当にもうしわけなかった。


両親を呼ばれ、パパは何も言わなかったけど、ママは、


「みんな心配したのよ!こんな事もあるんだから、スマホは持ってなさい。」


と、叱られた?だけど、心晴の事には何も触れなかった。どう思ったのかな?

何で何も聞かないのかな?

そちらばかり気になった。


家に着いたのは、21時をすぎていたから、ヘトヘトで、お風呂に入ってすぐに寝た。


裕翔くんからのメールや着信に気が付いたのは、翌朝だった。



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