第15話 思うようにはいかない
映画館に着くと、思っていたより人だらけだった。やはりこの雨で、考えることはみんな同じようなもので、たいして人気のないものしか空席はなく。
「どうしようか?」
なんて、言ってしまい。彼女は困った顔をして、
「私、映画じゃなくて大丈夫」
と、言わせてしまった。しかし、それ以外に考える時間もなく、家を飛び出してきたので
、しばらく映画館の入り口で雨宿りしながらスマホで色々と検索。
彼女も調べてくれていたけど、
「ごめんなさい、私、デートってはじめてで、何を検索したらいいかもわからない。」
と、苦笑いされてしまった。時間ばかりたってしまい、彼女に退屈な思いをさせている。
焦ったり、イライラしている姿は見せたくない。どけど、雨か汗か分からないけど、背中はビショビショだった。
その時、いつになく大きめの声で、
「裕翔くん、ご飯行こう。お腹すいちゃった。」
彼女なりの精一杯が伝わってきた。
ホントにごめんね。立ちっぱなしだし、疲れちゃうよね。
「何が食べたい?」
俺の問に彼女は考える。あ~また、彼女を困らせている。
「あの店に行こう」
目の前にある、オシャレなパスタ屋。ちょっと高そうだけど、ランチがあることを願い、彼女を連れて店に入った。
少し落ち着いた雰囲気に内心はドキドキ。だけど、あれ以上、菜穂ちゃんを雨の弾くあの場所で立たせておきたくなくて、俺もひっしだった。
席に着き、メニューを見ると、
“よかった!ランチセットある“
心でガッツポーズ。
グランドメニューをパラッと見てみると、少し大人目の金額で、ランチなかったら苦しかった。
「俺はAセットで、菜穂ちゃんは?」
彼女はしばらく悩んで、
「私はグラタンで」
ランチの中でも特にリーズナブルなものを頼んでくれた。気を使ってるのかな?使うよな…今日は全くエスコートできてないし、頼りないし、情けないし、ズタズタだもんな。
それもこれも、はじめに双葉が心晴と意味不明な出現なんかするから、遅くなるし、俺のテンションも変な感じになるし、予定はあれから狂ったようなもんだ。
っていうか、アイツ何で“菜穂“なんて、馴れ馴れしい呼び方してんだよ!どんな知り合いだよ!あー気になる。気になってきた。
ダメだダメだ。このモヤモヤを菜穂ちゃんにかんづかれたら、彼女を困らせてしまう。はじめてのデート。
少しでもいい思い出にしたいのに!
マジでムカつく!心晴。
注文の品は、割りと早く来て、俺たちは食事をした。
彼女は静かだから、何を話すべきか?食事中にはあまり会話したくないのか?探るように小さめな声で俺は話し始めた、
「俺たちはまだ、付き合いはじめだからさ、俺は菜穂ちゃんの好きな事とか好きなもの知らないんだよね。色々と知っていきたいと思ってるからさ、教えてね。」
こんな事、今までは言ったことないよ。何でだろう?今までは、気にもしなかった。相手がどこに行きたいか?何が食べたいか?何が好きか?なんて、よく話す子が多かったから、こちらが知ろうとしなくても、情報は入ってきていたからかな?
「私も裕翔くんの事をなにも知らないから、知りたい。」
そう言って、微笑んだ顔。可愛らしくて、それが見れただけで嬉しかった。
それからは俺が一方的に話した。菜穂ちゃんは、ニコニコ笑っているだけで、たまに質問したら、ずーっと悩んで、答えてくれて。
本当に真面目な子なんだなって感じた。
帰り、雨はやんでいた。
家の見える位置で立ち止まり、
「今日は有り難う」
そう言ってペコリと頭を下げる菜穂ちゃん。
「こちらこそ、色々ごめんね。予定は決まらないし、結局、ご飯して帰っただけで…本当は色々考えてたけど、全然ダメだったね。ごめんね。」
菜穂ちゃんはニッコリ笑顔で、
「楽しかった。裕翔くん一杯お話ししてくれたから、少し分かった気がしたし。今度は裕翔くんの好きなボルダリング行こうね。」
最後の最後まで無理をさせているのは、否めなかった。
でも、笑ってくれたし、これ以上“ごめんね“感を出したら、それはそれで彼女を困らせるだろうから、それで良しにしたいと思った。
俺は菜穂ちゃんの笑顔が見れて、彼女と時間を共有できて、それだけでデート大成功だったから。
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