第14話 親友失格
「心晴!!」
彼の後ろから呼んでも止まりもしないし、振り向かない。腹が立って私はさしていた傘をその場に置き、走って心晴の前に回った。
「ちょっと!説明くらいしなさいよ」
強い口調で言った。
「あれ?双葉、何か怒ってるの?」
いつものにやけ顔にむかつく。だから、心晴の傘を取り上げて投げた。雨がボタボタ降っていて、一瞬でお互いにずぶぬれになった。
「怒ってるわよ!ろくに説明なしで、
”裕翔のデートの待ち合わせ時間に同じ場所集合”だなんて、なんなの?」
すると、心晴は急に真顔になる。
「説明いる?双葉ってそんなに鈍感でも馬鹿でもないでしょ?」
その言葉で殴られるような衝撃を感じた。そう、なんとなく分かった。分かってしまった。気が付かないようにしていたのは、私の逃げで・・・そうだよね。やっぱりそうだったんだよね。心晴が他人の恋愛ごとに興味を持つわけない。やっと目をそらしていた自分を納得させられた。心晴の意図。
あの日、共犯者になった日には、私の裕翔への気持ちを理解したうえで応援する。単純な事だと思っていた。
私も今回ばかりは、裕翔の本気度をひしひしと感じてしまい、焦っていたし、嫉妬心で苦しかったから、それに乗ることにした。
今日の情報を漏らしたのも、私自身が裕翔と彼女のデートを少しでも邪魔したいっていう気持ちがあったから。
でも驚いたのは、心晴とあの子が知り合いだった事に驚いた。
いつの間に?
心晴は特定の彼女は作らない事で有名。女子たちの噂では、チョコチョコちょっかいはかけてくるし甘えてくるけど彼女にはしてくれない。猫みたいに気まぐれで・・・そこがたまらなく良いのだと口を揃えて言う。
私には全く理解できないけど、何人も同時に手を出しているような遊び人の割には、恨まれていないのは彼の独特な魅力なのだろう。
そんな心晴が今度ターゲットにしたのが裕翔の彼女ってこと?
ちょっと今までの女子とはキャラ違うし、あんなまじめな子に今までの様なちょっかいのかけ方したら、今までのようには収まらないと思う。
彼女は恋愛初心者。きっと本気になるし、激しく傷つく。
それに、裕翔の彼女だよ。仲間でしょ?
「でもさ、なんであんな子に興味持つの?」
私は心晴の方を睨むように見て言う。
「好きになったからだよ。」
グサリと来る言葉だった。ストレートな言い方で、真っすぐにこちらを見て言ったその言葉に嘘がないように思えた。
「本気?」
そう言うと、心晴はこちらをまた真っすぐに見て、
「そうじゃなきゃ、裕翔と付き合ってる子に興味持たないよ。」
どうしてなんだろう?わけわかんない。あんたもてるでしょ?人のもの取りに行かなくても、向こうから来るでしょ?わざわざあんなに地味な目立たない子どうして見つけたの?
「今日は第2段階終了。僕は、はぎとる様な略奪なんてしないんだ。そんなことしても、悪者になるだけだから。さっき双葉も気が付いたでしょ?菜穂、少しだけ僕を心の奥においてくれたよね。双葉にはわかったしょ?」
嬉しそうに語る。心晴・・・あの子に本気ななんだ。それって、裕翔の彼女だから、価値が上がってる?
「裕翔も気が付いたかな?あいつ少し鈍感なとこあるからな~。でも、あの怒りっぷりは、きっとなにか 感じたよね。揺さぶりになったらいいんだけどね。」
さらにニコニコして・・・無邪気に小悪魔的な可愛さで笑う。私は少し不安になった。
裕翔・・・心晴はあんたと同じで、あの子にマジかも。
だとしたら、強敵だよ。
ごめんね・・・裕翔。私、やらかしたみたい。親友失格だね。
「お礼も兼ねて、今日は双葉にランチご馳走しようかって思っていたけど、びしょびしょになっちゃったね。これじゃ風邪引くし今日は帰った方がいいね。」
そう言って、心晴は私の傘を拾いにいき、私に渡した。
私はそれを受け取り、ボンヤリとしていると、
「双葉、なるだけ早く帰った方がいいよ。」
その言葉に私は“?“が浮かぶ。すると心晴は、自分のシャツを私の肩に羽織らせて、
「スケスケでセクシーな感じになってるから、せめてこれ羽織って帰んな。」
そして心晴は、自分の傘を拾い帰っていった。
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