第16話 はじめての恋人とのデート
裕翔くんは、"雨が降ったから映画館に行こう"といった。本当は別に予定をたててくれていたらしい。”これは、デートなんだ”と着くと、今更ながら実感する。
人気の映画は満席で、入れなかった。天気予報になかった大雨だったから、予定が変わってしまい、急遽、映画館に変更したんだろう。見る映画も決めていなかったので、前売り券も用意がなく、入ることは無理だった。
裕翔君は少し戸惑っているようだった。色々と思うようにいかないから、機嫌が悪かったのかな?口数が少なくなっていいた。でも、私は大勢の人の中に長時間居ることが好きではないから、ホッとした。
「どうしようか?」
彼が聞く。なにもうかばない。
「私、映画じゃなくて大丈夫」
と、一言。かといって、他の提案もできないし、裕翔くんが困っている姿を見て、申し訳なくて、私も一応、スマホで検索する。
どうしよう。どうしよう。焦るばかりで、なにも出てこない。
「ごめんなさい、私、デートってはじめてで、何を検索したらいいかもわからない。」
そんなこと言ってしまった。なげやりに聞こえたかな?
しばらくして、私は思い付いた!
そうだ、ご飯の時間だ!
いつになく大きめの声で、
「裕翔くん、ご飯行こう。お腹すいちゃった。」
声が裏がえった。ゆうとくんは、申し訳なさそうな顔をして、
「何が食べたい?」
そう言ったけど、正直、どこでもよかった。この状況から脱出できたら、どこだって・・・。
すると、裕翔くんはいつもの笑顔になり、
「あの店に行こう」
目の前にある、オシャレなパスタ屋を指さした。私は家族としか外食をしたことがない。ファミレスやファーストフード店ですらいったことはない。なのに、ハードル高い。少しお高そうなお店に子供だけで入るなんて・・・ちゃんと入れてくれるのかな?
・・・でも、裕翔くんは、私なんかとは違って、ああいった所にも行くような人と今までお付き合いとかしてきたのかな?
だったらきっと、年上で奇麗なお姉さんなんだろうな。
嫉妬もしない。
格が違いすぎるから・・・ちょっと興味があるだけ。
私達は小走りでそのレストランに入った。
席に着き、メニューを見ると、
”高い”もしもご馳走してくれる気でいたらどうしよう・・・。裕翔くん何食べるのかな?合わせた方がいいのかな?そうこう考えを巡らせていると、
「俺はAセットで、菜穂ちゃんは?」
裕翔くんが先に言ってくれた。一緒のものにしようかと思っていたけど、Aせっとには人参のグラッセが入っていた。
残すのは失礼だし。そうだ、グラタンにしよう!価格もリーズナブルだし!
「私はグラタンで」
裕翔くんの笑顔を見れた。よかった。
そう思っていたら、裕翔くんが急に黙り込んでまた神妙な顔つきになってる。何か考え事かな?私、何かおかしなこと言ったかな?
だけど、テーブルに食事が並ぶ頃には、彼の表情も柔らかくなって、話もいつも通りしてくれるようになった。
裕翔くんは食事をしながら言った。
「俺たちはまだ、付き合いはじめだからさ、俺は菜穂ちゃんの好きな事とか好きなもの知らないんだよね。色々と知っていきたいと思ってるからさ、教えてね。」
私の事・・・知りたいなんて。本当に変わってる。裕翔くんってどうして私の事を好きになってくれたんだろう?本当に疑問。長い長いどっきりにかけられているんじゃないかって、不安になる。
私の方こそ、裕翔くんの音は・・・本当の裕翔くんの事は知らない事ばかり。表面的な恰好の良さや性格の良さ人気者で信頼されていて・・・どこをとっても100点な彼は知っている。でも、今日みたいな、不機嫌な顔や怖い声、急に黙ったり話し始めたり・・・そんなのは初めてだったから、何かのテストを受けているようで私はj少々疲れてしまって・・・。グラタンを食べ終わるころには、”帰りたい”だなんて、思ってしまっていた。
疲れていたから。
「私も裕翔くんの事をなにも知らないから、知りたい。」
そう言ってはみたけど、疲労困憊。それから裕翔くんが何を話していたかなんて、覚えていなかった。
ごめんなさい。
今日の私は、キャパオーバー。
ただ、彼の笑顔は国宝級。いくら見ても慣れないくらいキラキラ眩しくて・・・私は未だに直視できないでいた。
付き合い始めて三か月が過ぎようとしていたのに・・・全然なれない。
レストランは15時で一度しめるらしくて、ギリギリまでそこに居たけど
私達は15時ちょうどにお店を出た。
外に出ると、雨はやんでいた。
今日も裕翔くんは私を家の前まで送ってくれた。母の顔がチラつく。
今日は玄関前まで行ってもらおうかな・・・それで、偶然、家族の誰かに会ったりしたら自然に紹介できそうな気がしたけど・・・なんて考えていたら、家の見える位置で立ち止まっていた。
「今日は有り難う」
身体と言葉が勝手に、さよならを言っていた。私、やっぱり疲れている。
「こちらこそ、色々ごめんね。予定は決まらないし、結局、ご飯して帰っただけで…本当は色々考えてたけど、全然ダメだったね。ごめんね。」
裕翔くん、優しい人だ。私は一緒に食事しただけでも特別だったのに・・・”ごめんね”だなんていわないでよ。
「楽しかった。裕翔くん一杯お話ししてくれたから、少し分かった気がしたし。今度は裕翔くんの好きなボルダリング行こうね。」
私は運動は苦手だから、見てるだけになるだろうけど、それでもきっと楽しい。だって恋人と一緒に時間を共有できるんだもの。
気が付くと笑顔になれていた。
玄関前に着くと、振り返った。
遠くで裕翔くんが手を振ってくれた。私も手を振り返して、家に入った。
部屋まで行った記憶はなかった。
ママが言うには、
「菜穂、昨日は帰ったかと思ったら死んだように眠っちゃってたわよ」
笑いながら言った。
ママ、菜穂は昨日、人生初の恋人と、人生初のデートをしてきたんです。
心の中で嬉しさが込み上げて、気が付くとにやけていた。
「ねーちゃんキモッ!笑ってる」
弟に突っ込まれ顔の緩みを隠す様に両手で頬を抑える。ママはそんな私を見て、お見通しの様な顔をして、クスクスッと笑った。
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